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その拳にご注意を  作者: ろうろう
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99話 いらっしゃい

爆撃を喰らったカファが居るので、そのまま街には帰らなかった。

まずは修の魔法で作り出した水で汚れを落としてみたが、匂いは取れなかった。

川に立ち寄り、磨きまくった。

その間、ポーラさんはとても遠くにいた。

鼻が敏感なので仕方ないだろう。


たっぷりと時間をかけて、ようやく匂いが落ちた。

怨念でも詰まっていたのだろうか。


翌日はゆっくりと過ごし、一日温泉でキャッキャウフフしようかと話をしていた。

ベッドの中で。

ポーラをきゃんきゃん鳴かせた後、修は心地よい眠りについた。

ポーラさんは抱き枕としても優秀なのだ。


そして翌朝。

午前中はまったりと過ごし、昼食まで食べた。

修が、ポーラの入れたお茶を飲み、ポーラが尻尾をふりふりと振りながら食器を洗っているのを見てほっこりしていると。

コンコン、と、ノックの音が聞こえて来た。

慌てて手を拭き、玄関まで出ようとするポーラに、修が眼で「俺が出るよ」と伝えて玄関に向かった。

ポーラは、夫婦の様だキャー!と、くねくねしていた。


「はーい」


修が無防備にドアを開けた。

押し売りには注意してほしいところだが、相手は怪しい人物ではなかった。


「やあ、シュウ君」


そこにあったのは輝くハンサムスマイル。

そう、サムハンが訪ねて来たのだ。


サムハン達は以前、ポーラから家の住所を教えてもらっていたのだ。

ちなみに修は自分の家の住所を覚えていない。

迷子待ったなしである。


「あ!こんにちは!」


修は予想外の再会に顔を輝かせた。

後ろを見れば、他の三人も笑顔で立っていた。


「うん。温泉が出た、と聞いたからね」


サムハンもハンサムっぽく微笑みを返してくれた。

そういえば、以前温泉に行こう、と言っていたはずだ。

あの山の温泉は遠いので、中々行くことは出来ないだが、近場にあるなら、そちらに足を運ぶだろう。

しかも馬車で一週間の隣街だ。


「気持ちいいですよー。あ、どうぞ」


修がサムハン達を家に誘った。

考えれば、初めてのお友達招待かも知れない。


「うん、お邪魔します。こんな気軽に温泉に入りに来れるとは思わなかったよ。ついでではないけど、挨拶もしておこうとね」


サムハン達をリビングに案内しながら、ポーラに向かって叫んだ。


「ポーラ!お客さんー!」


奥で未だくねくねしていたポーラが我に返って、お茶の準備をし始めた。




ポーラがお茶の準備を進め、部屋に引っ込んでいたカファを連れて現れた。


「この子はカファです。盾役をしてもらっています」


カファではなく、ポーラが紹介した。

当の本人は、相変わらずぼけーっと突っ立っている。

一応顔はサムハン達に向けているが、その視線はどこを捕えているのかは誰にもわからない。


しかし、サムハンは大人の対応を返す。


「初めまして、サムハンです。こちらからシャラ、カリア、ガザリーだ」


それぞれ、紹介された順番に軽く頭を下げていく。

そして全員が頭を下げた後、カファはぽつりと呟いた。


「……はぁ」


分かっていないのでは。

そう思えるような返事だったが、サムハン達はそれだけで満足したようだ。

木人だし。



陽の当たる窓際に椅子を一つ置き、カファをそこに座らせた。

そしてお茶を運び終えたポーラも、当然の顔で修の横に着席した。


「探索は順調かい?」


サムハンが、実に探索者らしい話題を出した。


「まあそこそこは…」


そういえば、最近あまり順調に進めていない気がする。

温泉とか温泉とか温泉のせいで。

修は軽く言葉を濁したが、カリアが微笑んだ。


「ふふ。温泉を掘ったのもシュウ君なんだって?」


これで男でなければ。

しかし女でも、おっぱいマイスターの修の琴線に触れなかったかもしれない。


修は恥ずかしそうに頭を掻いた。


「どうしても入りたくて…」


カザリーが渋く苦笑した。

流石の兄貴だ。


「それで見つけるのもどうかと思うがな。まあ、その温泉目当てに来た者の言うセリフではないが」


サムハン達の瞳には、軽くからかう様な輝きがある。

気のいい人たちだ。


「いやでも、一度味わって貰ったら分かりますよ。温泉の良さ!」


開き直った修が温泉について力説した。

ポーラも隣で修に同意している。


「……楽しみです」


シャラがぼそりと呟いた。

シャラは、ポーラの肌を見ていた。

温泉の恩恵をふんだんに得て、艶々に輝く美肌を。

カリアも微笑みながら、瞳の奥はマジの瞳でポーラの肌を見つめていた。

女は怖い。




そこからは、また迷宮の話で盛り上がった。

宝箱を開けたらトラップにかかったが、チョップで叩き伏せたとか、魔法陣を踏んだけど踏み抜いたら魔法陣が壊れたとか、そういう迷宮あるある話だ。

何故かみんな遠い目をしていた。


そこで思い付いたのだが、修達が死蔵している『軽快のダマスカスソード』と『ミスリルソード』。

この二つを、サムハン達に貸し出そうかと言うことになった。


金に困っていないので売る必要もないし、かと言って放っておくのもどうかという話だ。

少しの付き合いだが、サムハン達は善人であることは分かっている。

持ち逃げはされないと言う確信もある。


早速持って来たのだが。


「…有難いが、こんな高価な物は…」


探索者にとって、強い武器は喉から手が出る程欲しい物だ。

だと言うのに、このハンサムはハンサムすぎる。


「貸すだけですよ。俺達が持っていても使い道が無いので。でも、俺達が必要になったら返して下さいね」


修が悪戯っぽく、実に大人っぽいセリフを口走った。

こんな知恵も回るのだと、褒めて欲しいくらいだ。

ありがとうツチノコさん。


サムハンは少し瞑想して考えていたが、やがて頷いた。


「……ああ。すまない。お借りするよ」


恭しく受け取ってくれた。

そしてサムハンは、シャラにダマスカスソードを手渡す。

シャラもおっかなびっくり受け取った。

サムハンがミスリルソードを使うようだ。

重量的には、その方が良いだろう。




サムハンとシャラは、具合を確かめた。


「か、軽いです!!凄い凄い!!」


シャラは大喜びだ。

ぶんぶんと軽快に、剣を振り回している。

危ない。

軽く調子に乗っているシャラに、サムハンは演武の様に剣を振りながら忠告した。

実にハンサム。


「武器が違うと、こうも違うんだね。でもシャラ、本来は私達が持てるようなものではないんだ。武器が強くても、油断しては駄目だよ」


シャラは恥じた様子で頷いた。


「は、はい!!」




ある程度体を慣らしたところで、サムハンが切り出してきた。


「さて、訓練をまたお願いしても良いかな?」


温泉に入る前に、汗を流すつもりなのだ。


「あ、はーい」


修は元気に返事をした。

ポーラはぼけーっと突っ立っていたカファを捕まえた。


「カファもですよ」


「……はぁ」


カファは諦めたかのように呟いた。

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