97話 犯人は誰だ
親方の女将さんが、ワニ皮を欲しがっていると聞いた。
女性が、一体何に使うのだろうか。
そんなことを思いながらも、修は馴染みとなった仕事場に向かった。
道すがら、予想外の人物に絡まれた。
「…ちょっと」
「はい?」
突然後ろから声をかけられ、修はびっくりして振り向いた。
「…先日ぶりじゃない」
そこに居たのは、森エルフの女だった。
何か、どこかで見たことがある気がする顔だ。
しかし名前が出てこない。
「…どなたでしたっけ?」
修は眉を寄せながら首を傾げた。
「ッ!!……ハルマよ」
女はギリリと歯を食いしばったが、名乗ってくれた。
そしてその名前には聞き覚えが無かった。
「?」
人違いではないでしょうか?
修がそう言う顔をしたら、怒鳴られた。
「ジェイアスの!PTメンバーよ!!」
ジェイアスの仲間の魔法使いだった。
修はようやく思い出した。
そういえばそんな名前だった気がしないでもない。
「あっ!お久しぶりです。先日はどうもお世話に…」
修は取りあえず、深々と頭を下げた。
「おっそいわよッ!!」
また怒鳴られた。
気の強い女だ。
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LV.40
ハルマ
森エルフ:♀
27
剣士LV.27
水魔法LV.41
雷魔法LV.39
土魔法LV.38
『探索者』
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ジェイアスの仲間だけあり、実力は本物だ。
この街でも、間違いなく最上級の探索者の一人ではあろう。
ハルマがカリカリとした様子で修を見つめて来る。
「あんた魔法も使えるそうね?」
一体どういう意図なのだろうか、全く分からない修が取りあえず頷く。
嘘はあまりつかない子なのだ。
「はい」
するとハルマは、修に手招きして歩き出した。
人の居ない方向に向けて歩きだす。
「ちょっと見せてみなさいよ」
どうやらそういうことらしい。
「はぁ」
修は大人しく着いて行った。
そして人の居ない広場で、修は全ての魔法を使った。
ファイアランス、アクアランス、アースランス、サンダーランス。
四種類をあっさりと。
ハルマは呆気に取られていた。
「……杖は?」
そう、お忘れの方も多いだろうが、普通は杖が無くては使えないはずだ。
しかし修は素手で魔法を使う。
「え?要りませんよ」
よって、修はあっさりと言った。
「……」
ハルマはしばし何かを苦悩していた。
色々なプライドとかがせめぎ合っているのだ。
「魔法を使えるって言うならね!これくらい出来るようになってから言いなさい!」
ハルマが突然叫び、虚空に向けて杖を振りかざした。
「アクアバースト!!」
そして叫ぶと共に、水の塊が飛び出した。
それは虚空で突然弾け飛んだ。
元の水の大きさからは考えられない程の規模だった。
上級の魔法だ。
ハルマは水属性であれば、上級も使えるのだ。
が、上級魔法を使える人は一握りしかいない。
ハルマの言いようは無茶な物だ。
「おおおすげぇぇぇ!!」
修はそれを見て感動していた。
その様子をみて、ハルマは多少プライドを取り戻したようだ。
ふふん!と自慢げに鼻を鳴らして胸を反らした。
「これが本当の魔法よ!」
森エルフの胸はぺったんこだったが。
「アクアバースト!!」
修が虚空に向けて叫んだ。
すると、同じのが出た。
「おお!出来た!!」
上級はレベル40からである。
「……………………………………………………………………………」
固まったハルマの前で、修はファイアバースト、アースバースト、サンダーバーストを放った。
「うおおおおおおおおかっけええええええええ!!」
修は一人でテンションをあげた。
「……覚えてなさい!!」
固まっていたハルマがとても情けない捨て台詞を吐いて、走り去ろうとした。
プライドがメッタメタだ。
しかし何を覚えていればいいのだろうか。
修としては、上級魔法を教えてくれてありがとうと言う状態だなのだが。
「あ、そういえば」
走り去ろうとしていたハルマがぐりんと振り向いて叫んだ。
「何よ!?」
構ってほしい系の人かもしれない。
修はこの機会に、気になることを消化しておこうと考えた。
とてもとても、本人には聞けないことだ。
「ジェイアスさんの剣ってどなたが買われたんですか?」
剣というかシルクパンツ。
ハルマは「何馬鹿なこと聞いてんだコイツ」と言う顔をした。
「はぁ?みんなでお金を出し合って・・・」
そんな顔を浮かべられたのは理由がある。
以前、同じ質問をジェイアスにもしていたのだから。
しかし、聞きたいのはそんなことではない。
「それは聞いたんですけどね。その、実際に購入されたのは…」
ハルマは益々訝しげに眉を寄せて呟いた。
「…ドリューよ」
知らない人だ。
ならばそれは置いておこう。
「あの、衝撃のを、ですよね?」
「そうよ。何なの一体?」
やはりハルマ的にも、『衝撃のミスリルソード』を買った気分なのだろう。
ハルマは白だ。
「その、実はですね…。ジェイアスさんの持ってる剣が、その…」
言っていい物か、修はもごもごと呟いた。
「何よ。はっきりいなさいよ」
気の強いハルマさんは、イライラとした様子だ。
修は意を決した。
「衝撃のシルクのパンツをつけていてですね。それで衝撃波が…」
「…は?」
ハルマの目が点になった。
ちょっとシュール。
何を言われたか分からないのだろう。
実際に見た修も、一瞬信じることは出来なかったのだから仕方ない。
「柄、見ました?布巻いてますよね?他の人のより太いと思いません?」
ハルマはとっても難しい顔をして目を閉じた。
「…………」
記憶を探っているのだろう。
そうしながらも、段々と冷や汗を流し始めていた。
心当たりがあったのだろう。
「いえ、悪いことだとは思わないんですけどね。でもその、パンツをですね」
修はフォローしようとしたが、フォローにならなかった。
人として、隠しはしていても、お外でパンツを握っているのはどうかと思ってしまうのだ。
ハルマが目を開けた時、その目は据わっていた。
ギラリと修を睨みつけて、言った。
「……私は何も聞かなかった。あなたも何も知らない。良いわね?」
「……はい」
修は目を逸らしながら呟いた。
汚い物には蓋をする。
修はまた一つ大人の階段を上ってしまった。
ハルマは、慌てて帰って行った。
恐らくきっと、確認しに行くのだ。
そして絶望するのだ。
修はハルマの背に手を合わせた。
ワニ皮は女将さんに渡した。
何でも、親方の財布に使うそうだ
親方はいい年したおっさんなのだが、こんなファンキーなので大丈夫なのだろうか。
そう思ったが、口には出さなかった。