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答え合わせもきっちりしましょう。

また視点が変わります

私は腹の傷も癒えたので普通に学校に行き、二、三か月ほど普通に生活した三月半ば、もうすぐ春休み。そしたら突然一度も見舞いに来てくれず一人で勝手にショックを受けていた中傅に家に呼びだされた。まさかそんなことは無いだろうけど念のために薄い鉄板を腹に晒しで巻いていくことにした。


「やぁ。どうしたんだい? 私みたいな変わり者にわざわざ用だなんて」


クラスが違うせいかそれとも避けられていたせいか久しぶりに見た顔はやつれていて以前のような快活さは無かった。


「……まぁもう誰もいないからさ。お前と堂々と話してても気にならないよ」


私だって一応プライドというものはあるのに、失礼だとは思わないのだろうか?


「で? 本当にどうしたんだい?」


まぁだいたいの予想はつく。こっちから聞いてもいいけどつまらないからやめておく。驚く顔が見てみたい。


「その……あれだ、森下と付き合いだしたって聞いたんだが……」


気まずそうに言い出す理由もよくわかる。


「あぁそのことか、そうだよ。私と森下は付き合ってる」


「お前、正気か? お前は覚えていないのかもしれないけどお前を刺したのは森下なんだぞ?」


まぁそういう反応をするのが普通だろう。もう少し大きなリアクションを期待していただけに少し残念だ。


「残念ながら覚えてるよ。いやぁ痛かった痛かった。実行犯森下で唆したのがお前じゃなかったら被害届を出してるところだったな」


ちなみに、中傅が森下を殴ったのも森下が被害届を出さなかったので事件にはなっていない。そうじゃなかったら中傅はここにいないし森下と私も付き合いようがないから当たり前といえば当たり前だ。


「じゃあなんで!?」


「……強いて言うならば、お前が森下を殺したからかな」


道化めいた動作でピッと首のところを人差し指を横切らせる。


「お、俺は……」


冷汗ダラダラ流す元エリートはニヤニヤしないようにするのがこんなに難しいのかと思う程滑稽だった。


「さて、本題を言えよ。多分今年度あまりに立て続けに起こった不幸を裏から操っていた奴がいると思ったんだろ? で、それがおそらく私が安藤さんに言った彼女とやらで、その彼女とやらは安藤さんを調べていた人でもしかしたら森下なんじゃないのか? そう思ってきたんだろ?」


どうやら図星らしく中傅は後ずさっている。


「さて、仕方ないから赤点の中傅に説明してあげよう。特別にタダで」


「教えてくれ……誰が俺をこんな風にはめたんだよ」


やっぱり私こいつ、嫌いだ、大嫌いだ。


「まず黒幕は私」


「例の彼女も私」


「安藤さんを調べさせた依頼主も当然私」


「演出、効果、根回し、撮影、構想、全部当たり前のように私」


「他いちいち言うのめんどくさいけど全部もちろん私。あ、でも企画元は森下ということになるのかな?」


まぁ当たり前といえば当たり前だが唖然としてる。やっぱり鉄板仕込んできた良かったかもしれない。


「まぁ言いたいことはあるかもしれないがとりあえず全部聞いてくれ。どうせなら事の発端から何から全部知りたいだろ?」


なにか言いだそうとした中傅を制してその先を続ける。


「最初は始まりからだ。正確にはきっかけというべきかな。お前が思っているよりもずっと早い。お前に頼まれて水筒のことを調べた時だが、まぁ結論から言うと森下は飲もうとしていたんじゃなくて唾液を入れようとしてた、てか入れてた」


私はその時の光景を鮮明に覚えている、森下の変態性と強すぎる執着を垣間見てしまった瞬間だ。


「で、そこで森下の健気で妄執的で陰湿でグロテスクな美しい片思いを知った私は面白そうな上にこのままだと死人が出そうだったので協力することにしました。ここ動機ね。テストに出るかもよ? さて、そういうわけで一番最初に何やったかって言うとお前に嘘の報告をして、森下がお前の取り巻きに入れるようにした。あの適当な考察はデタラメ、近寄りがたかったのは本当だけど」


中傅の目が見開かれる。ヤンデレ森下の恐怖を思い出したのか怒っているのかは定かじゃない。


「さぁここまでは導入部。ここからは多少複雑になってくる。私はとりあえずは満足していた。お前の近くに行って森下は安らいだようだったし周りのスペック高い女子群と比べてもその気持ちの大きさも森下自身のスペックもかなり上位にいたから自然にうまく行くんじゃないか、ついでに森下の気持ちが普通の恋愛感情になるんじゃないかと期待していた。でも、それは甘い見立てだった。森下は女子群内で嫌がらせを受け、お前は気づかず、森下の気持ちは大きくなる一方」


苦しんでいた森下に中傅は気づくことはなかった、いくらでも気づけただろうに。


「ついには上守に頼るのもあれだから自分で頑張って殺ってみるよというメールすら来る始末。変換ミスだろうとも思ったが、調べるまでもなくまた金と容姿が絶対の安藤さんが関係しているって気づいたから安藤さんを排除することにした。」


あまり感情が動かなかったのを覚えている、問題に答える時のように淡々と計画を考えた。


「排除は簡単だった。中傅と安藤さんが付き合った時のために確保しておいた弱みを使えばいいだけで、あっさり行きすぎて罠かと思ったぐらいだ。それがお前の朝練を見学に行った日。で、へこんでいる安藤さんに安藤さんのことを好きな優良物件をけしかけた。そいつはお前も知ってるはずだ、お前の取り巻きメンバーの一員だったわけだし。まぁそこはどうでもいいんだがな。とりあえず二人はくっつき今もうまくやってる。阪木とお前が激論を繰り広げた一か月後、お前からのメールに適当に応え、調べた理由を架空の人物に押し付けて誤魔化した」


「で、でもちゃんと調べてるって・・・」


中傅が訳の分からないことを言い出した。私の言った依頼主が架空の人物であるということが理解できていないらしい。それとも私=架空の人物の構図が理解できていないのだろうか?


「私自身のことを調べるも何もないだろ。実際悪いことをしたなんて欠片も思ってない」


まだ何か言おうとする中傅を手と視線で制する。


「さて、続きだ。夏休み中に流されたお前の噂。あれ、私が流した。まぁ三分の一ぐらいは本当って言ってもいい状況だったし後悔はしていない。理由はやっぱり森下だ。知ってるか?森下のパソコンにはお前のために書いたポエムが二百三十八もあるんだぜ?噂を流した時点で五十はすでに超えていた。少しでも早くお前の周りを空けなきゃいけなくなった。まぁそのせいでその後で死にそうな目になったけどな」


どれもサイケデリックで、メルヘンなのにグロテスクで気が狂わんばかりの気持ちがそこにあるのが見えていた。心が大いに揺さぶられた。


「とりあえずそこからはペースを速めざるを得なかった。森下の病むスピードは加速度的になっていたし穏便だろうが無理やりだろうが引き離すために尽力した。まぁそれでも暴力に訴えずあくまで自主的に引いてもらえたのが大半なのは少しだけなら自慢してもいい気はするな」


「自主的に? お前が仕組んだんだろうが!」


激昂するのは予想できていたけど激昂されても困る。


「まだ話は終わってない。さて、噂を流した後でもまだお前の周りには女子がいてしまった。その中でも特に厄介だったのは現会長様だ。部活の方は森下もある程度我慢できるようだったがお前じゃなくてもいいようなところ、まぁ最終的には部活もそうだったわけだが……まぁ後でいいだろう。とりあえずそんなわけだから選挙に当選してもらうわけにはいかなかった。でも私が出ても意味は無い。どうせ当選しないからだ」


自慢じゃないが私のスペックは低い、どうしようもなく低い。


「そんなわけでブログやメールを通じてお前よりもスペックの高くて現会長様のことが好きな男子を捜して会長以外それぞれの役職に一人づつ参加してもらった。お前の周りにいる女子はどこのヒロインだよみたいなスペックのやつらばかりだからな。それなりに苦労したが何とか揃えられた。それに苦労したかいあって集めたやつら全員当選したし会長様を気にかけなくてもいいようになった。ついでにお前が都合よく応援演説なんて頼んだからそれぞれにメールで掛け合ってお前に対して幻滅してもらった」


その時点ですでに二人とも心は離れかけていたので小さな不自然なメール一通で十分だった。


「このころになると森下は男子にも嫉妬しだすようになっていて危険度を増していた。ナイフを持ち歩くようになってたしいつ残りの奴らにナイフを向けてもおかしくない状況だった。だからすぐ次の行動に出た。阪木のブログにコメントを送り、メールで励まし、木村さんのブログに気にかけるように言ってみたりといった下準備は最初期からやってたから後はお前が荒れだしたらいっそ部活を辞めてやればみんな認める筈だと阪木に言ってやり、木村に阪木がやめさせられるようになったら必死で止めてやるべきだと言えばよかった」


嘘は言っていないし実際そうなるだろうと思った、ちゃんと仕事していたのもその仕事がいい出来だったのも少し調べればわかることだった。


「部活内でお互いに理解者のいなかった二人の間には半年弱でいつ恋愛に発展してもおかしくないような感情が膨らんでいた。絶対片方がやめたら芋づる式にやめることになると思っていた」


中傅の拳が握られる。怒っているのかもしれないがそんなこと知ったこっちゃない。


「後はどうなったか説明する必要は無いよな?部活でのお前の負担は増えに増え満足に勉強との両立なんてできず勝手に自滅。部活のメンバーはお前より阪木を選び、木村以外のマネージャーは自分達がまともに仕事していなかったこと、お前なんかを好きでいたことを恥じて木村と仲良くするようになった。ただそのままだとお前にまた女子が寄ってくるかもしれないしお前がありのままの森下を受け入れられるようにと安藤さんを脅した時に使った架空の人格として安藤さんにお前をいじめさせた」


安藤さんは非常に扱いやすかったし、下衆かった。だから楽だった。


「写真の彼を参加させるようにしたのも私、安藤さんの彼氏は優良物件だからいじめはやめさせる類だからな。あのタイミングで止めたのは私の印象を上げるため、女性不信にかられているあの時のお前なら森下からあのタイミングでメールが来たら私に頼ってくるだろうことは容易に予想がついたからな。その時に思いっきり落とすための布石だ」


ちなみに森下がクリスマスイブにお前に告白しに行ったのは私の差し金じゃない。森下がもう我慢できないと言ったからそれに合わせて調節しただけだ。と言ってやると中傅の顔は歪みに歪む、責任転嫁かとでも言いたげだ。


「さて、で、最後に講評だが……まぁ色々とあまりにひどすぎた。残念ながら十点もくれてやれない。」


中傅が拳を振り上げる。今度はばっちり殴るつもりらしい。だいたい予想はしていたからまともに相手なんてしてやる気は無い。鉄板仕込んできたのと同じように準備はしてある。


折りたたみナイフを取り出して開く、いくらなんでも森下の件で得たトラウマをそう簡単には払拭できない。


「話は落ち着いてしようぜ。もっと細かいところ言うこともできるんだからさ」


刺す気はさらさらない、誰だって犯罪者にはなりたくない。


「お前……なんでこんなことしたんだよ。結局森下と付き合うようになったのはお前だし、俺だけが損してんじゃねぇか!! それを偉そうに十点もやれないとか何様だよ!」


「だから?」


は?中傅の口から小さく息が漏れる。


「だからどうした? 私の動機、もう一回言わないとダメか? 私は面白そうだから、死人が出そうだからって理由で頑張ってたんだぜ? 十点もやれないって言うのはそれだけお前がこの状況を回避できた筈だからだよ。お前、自分がどれだけ分不相応だったかわかってるか?」


だから嫌いなんだ。他人の気持ちも知らないで、ラブコメ主人公みたいに好意にだけ鈍感ならまだしも何もわかっちゃいない。


「分不相応ってどういう意味だよ……」


「よーく考えてみろ、お前の過去の状況を。とりあえず五月時点でいいか? 何人ものハイスペック女子に好意を寄せられていながら全く気付かず、受験を控えた先輩に勉強を教わり、委員会を途中で投げ出して生徒会に入り、生徒会では当たり前のように仕事をせず、部活ではやるべきことを阪木にやらせそれをさも自分の手柄のようにする。それはそれは楽しかっただろうな」


全くわかっていない。本当に死ねばいいのに。


「お前自身のスペックはよく見積もっても中の中。体格と顔、運動神経はいいけど頭の中身はニワトリ以下、愚鈍さはナマコ以上」


もう今すぐ殺したい。いっそ死んでくれないか?


「オマエなぁ!!」


中傅の拳が腹に入る。鉄板入れてても痛いことには変わりない。まぁどうでもいいことだが。


「ぐぅッ!?」


「で、結局お前は何に怒ってんの? 中の中って言われて怒るなんて贅沢すぎるぞ? それとも面白いからでお前に親切してやったことか?」


そういうことで怒んなよ、屑が。


「両方だよ!! だいたいあれのどこが親切なんだよ!! 俺のこと散々貶めておいてどこが!!」


「お前なぁ……幼馴染のよしみで言っとくけどよく見積もってだぞ? 人によっては下の下とか言うやつもいるだろうし場合によっちゃ人気妖怪漫画の名前みたいになるぞ? そんなやつがなんであんな恵まれた環境にいて、周りの人間不幸にして幸福になってんだ?」


ふつふつと怒りに似た衝動が湧き上がる。抑えていた筈だが抑えきれなくなってきた。


「まだ近くにいる奴らはいいよ。さらにそいつらの周りに前からいた奴ら、特にその近くにいる奴らを好きな奴らはどうなるんだよ。ハイスペックな奴と一緒にいただけあってそれなりにハイスペックな奴らが自分よりもロースペックで、努力もほとんどしてない奴に好きな相手を取られて、しかも取ってるくせに誰とも煮え切らない態度で接してハーレム状態を維持」


それはそれは見ていてムカついただろうし辛かっただろうし悔しかっただろう。


「しかもそんなやつのせいで好きな相手がどんどん駄目になっていってそれをとめようとすることは間接的にロースペックな奴のためになる。救われないにも程があるだろ。よくキレられるよ、お前は周りにいる人間が自分よりも圧倒的にすごいのにも気づかず、中央にいるからと自分は周りにいる人間よりもすごいと勘違い。いや、本当、お世辞抜きにその頭のイカれ具合はすごいよ。奇人変人言われる私もお前にはとてもかなわない」


すごいよな、本当、すごい刺したい殺したい。


「さっきも言った事だけどさ。先輩達は成績が低下してきていなかったか? お前なんかにかまってる暇なんて無い筈なのに無理に両立して応援演説までやってくれることがどれだけありがたいことで恵まれたことかわかってるのか? 先輩達が九月の段階で志望校を二年の初めよりも一段下げて、それでも落ちて浪人したのをお前は知ってるか? その周りの先輩達の内一人がその先輩達の苦手教科を直そうと苦心して逆に自分の苦手教科をこじらせて堕ちたのを知ってるか? お前のせいだけとは言わないがお前に関係ないことではないからな」


首絞めたい。超首絞めたい。


「なんでお前がすんなり委員会やめられたかわかってるか? 仕事してなかったからだぞ? いてもいなくてもどうでもいいから生徒会で働かせといてくださいってことでお前は生徒会に渡されたんだぞ? 妙に仕事少ないなと思わなかったか? 旧会長がお前が仕事しないって話聞いてたから他の奴に回してたんだぞ。決して生徒会は暇してなんていないからな? 現会長、友達にお前が立候補するように促したことについてなんて言ってるか知ってるか? 悪い夢を見ていたみたいな気がする、絶対黒歴史になる、同窓会とか絶対これないって言ってんだぞ?」


驚いている中傅の顔が不快で不快で仕方がない。ブラックジャックで殴りたい、脳漿ぶちまけたい。


「部活もそうだ。坂木がやってた仕事、監督がサボってる分のツケだけであそこまでなると思ったか? なるわけないだろ、お前がやるべきことも多分に含まれてたんだよ。それを当たり前のように押し付け偉そうに……個人練習も満足にできず練習に集中することもできない仕事量の中で坂木はよく耐えてたもんだ」


全く榊を見ていなかったら今手に持ったナイフで刺しているかもしれなかった。


「木村が働いて他が働いていない状況にも疑問すら抱いて無かったわけだし? 本来なら木村以外も先輩から仕事引き継いでるのが当たり前だから木村が引き継がせなきゃいけない理由もないのに木村にフラストレーション溜めたりしてお前の唯一の存在価値のプレーすら荒れる。本当にお前は管理職向いてないよ。窓際すらもったいない、追い出し部屋でも引き受けてくれないね」


今も見ているだけで苛立たしい。


「なぁ……お前が不幸にした相手はまだいるんだぞ? 去年転校したやつ、覚えてるか? なんで転校したか知ってるか? 親の仕事の都合? 半分正解。正解は安藤さんが脅したからだよ。森下程じゃないけど病んでたわけだよ。さっき言った弱みって言うのは脅してた証拠。具体的には音声と動画。で、安藤さんはそれでも足りないと思ったのか確実に排除するために財力にもないわせて親を転勤させた。さすが中傅。間接的とはいえ一人犯罪者にして一人家族ごと運命ねじ曲げるなんて、私達にできないことを平然とやってのける、まぁそこにしびれることはないし憧れることもないけどな」


吐き気を催す邪悪ということはできるかもしれないが。


「あ、待てよ。犯罪者にしたのは一人だけじゃないか……森下もか。犯罪者にしたあげく殺したもんな。どうだった? 楽しかったか?」


中傅がまた拳を振り上げたので私自身の手のひらにナイフを軽く刺した。


フローリングにボタボタ落ちる血に中傅は後ずさり、壁に背をぶつけた。


「お、お前は……何なんだよ! 俺が悪いとでも言いたいのかよ!! それに結局親切でもなんでもないじゃないか!」


ここまで喋って幼馴染みの考えていることもわかんないのか。救いようがないな。


「私がしたのは親切だよ」


お前よりも私の方がよっぽど暴力振りたいし、


「お前の周りに対しての親切でもあるしお前に対しての親切でもある」


お前よりも私の方がずっとずっと想っている。


「親切じゃなきゃ説明もしてないし確実な方法でお前と森下くっつけてるよ。くっつけるだけなら簡単だったよ。お前単純だものなんの準備をするでもなく告白させればお前のことだからきっと好きになっていたさ。森下もあれ以上病むことなく、少し重すぎるだけですんで、周りの奴らも安藤さん以外は自然に諦めてただろうし安藤さん一人しっかり対策すればそれで全部丸く収まってたさ」


「じゃあなんでわざわざあんなことしたんだよ! それだったら誰も苦しまずに済んだだろ!」


自分がちゃんと嘲笑できているかわからなくなっていた。


「面白いからだよ。とでも言うと思ったか? 残念、私はお前を悲劇のヒーローにしてやるつもりは無いね。私はただいたずらにかき回したわけじゃない。長期的に見ての荒療治だ。」


なんだかんだで私も幼馴染の情と言うものがあるわけだ、やり直して欲しかったという悔しさもあるわけだ。


「基本は森下のためだよ。森下がちゃんと幸せになれるようにと考えた結果だ。さっきも言ったようにお前のスペックは中の中で森下は上の上。どう考えたって釣り合うわけがない。しかし人間は自分と同じか少し上ぐらいのスペックの人間を恋愛対象に選ぶというデータがあるのも事実。お前は自分を過信してたから誰にも好意を抱けず、森下や周りの女子の中ではお前は過剰なまでによく評価されていたから好意を抱いた」


森下には人を見る目が無かった、とても残念なことにそれを俺も訂正できなかった責任がある。


「両方幻想見たままで幸せになんてなれるわけがない。一年時点で被害が出始めてたしそのままだと森下に被害が一手に集中するのは目に見えていた、被害が集中しない可能性もあるけどその場合は他の奴らに被害が及ぶ。例えば先輩達とか阪木とかな」


「それは……そうかもしれないけど。だからってあそこまでやることないだろ!」


どうしてわからないのか理解に苦しむ。自制できている自分をほめたいぐらいだ。


「本当はあそこまでやる前に決着つくはずだったんだよ。森下に迫られた時刺して来いなんて言わないで普通に断るか受け入れればよかったんだ。森下はお前を傷つけることはしなかったし断られて付き纏われるようなことになったら私が黙ってるわけがない。それぐらいのことはわかってると思った」


「その頃にはもうほとんど終わってるじゃないか!! 結局回避できてないのと変わらない!!」


コイツはナイフでも刺されなきゃ理解できないのだろうか。


「ちょっとうるさい、耳にガンガンくる。他だって同じことだ。いじめの時にはまず最初っから抵抗しとけばいいし、呼び出しにもこたえなきゃいい。明らかに怪しいのぐらいはわかった筈だ。こたえても怪しいことを頭の片隅に入れておけばそう簡単に引き倒される訳が無い」


明らかに注意不足。


「部活もあれだけやったらどんなカリスマでも追い出されるに決まってる。一度阪木に謝ってねぎらえばそれでよかった。木村のメールにちゃんと反省している旨か部活のことを考えてのことであることを伝えればそれなりに部員も付いて来てくれてた筈だ」


自信過剰。


「生徒会選挙なんてなんでやろうと思ったのか。会計になったからって部活の予算削減を食い止められるわけないだろ。どうしても止めたいなら部活の方で結果を出すしかないに決まってるだろ。それにあんな噂が立ってたのにそのことを考えなかったのも駄目駄目だ。マニュフェストも行事を増やすだなんだってそんな簡単にできるわけないだろ」


考えたらず。


「それにに噂だってお前に人望があれば誰も離れていくわけない。お前の周りにあれだけの奴らが集まってたらみんな反感持つに決まってるだろ。何かするべきだったんだよ。お前がダメ人間だってわかってたから周りは噂をいい機会だと思って無理に引き離していったんだよ。あいつらが恐れてたのは噂の被害じゃなくてお前だ」


少しは省みれば良かったのに、


「まぁ安藤さんは仕方ないな。あれは離さざるを得なかったからお前が割り込めないように私が気を遣ってやってたから割り込まれたら困ってた」


私も介入せずに好きな人の幸せをただ喜べたのに。


「でも、少なくともお前には大きな分岐点だけで五つあったんだ細かいのも入れたらきっとその四、五倍はある。十分すぎるぐらいだろ。


この屑はなんで被害者面してるんだよ。ふざけんなよ、私が黒幕だが何時でも止められたのは私じゃなくてお前自身だろうに。


「もっとさかのぼれば去年のことだってそうだし森下が病んだのも淡い好意を寄せられていたのに気付かずにお前が完全に離れて行ったからじゃないのか?」


「でも……そんなこと言ったらお前にも責任はあるんじゃないのか!? 森下が病むのをとめられなかったのはお前もそうだし森下が病み切る前に留めることだってできたはずだろ!!?」


――がすっ


思わず足が出てしまった。それでも一発でとどめただけ冷静だったと思う。


「私がそれを試みなかったと思ってるのかよ……私は森下のこと誰よりも好きなんだよ。こんな薄っぺらい言葉では到底表せないほどに、森下よりも先に病んでしまいそうになるぐらいに。森下の世間体を気にして直接はあまり会わなかったけどメールのやり取りは欠かしたことは無かったさ。おまえは知らないだろうけど、あいつからのメールはいっつも中傅中傅ってお前の話題ばかり、私がどんな気持ちでそれに返信してたかわかるか?」


苦しかった苦しくて辛くて憎くて仕方が無かった。


「森下が病んでいくのが分かってた、でもそれで病むのが止まっても不幸になったら意味が無い! だから散財しても人としてやっちゃいけないことをやっているんじゃないかという気がしていてもこれだけのことをやって来たんだよ!! お前が自分の無能さに気づけば!! 森下もそれに気づいてくれれば!! 森下の恋が冷めたかもしれない!! 冷めなくてもお前がそれなりに幸せにしてくれる!!」


言葉を荒げないようにと思っていたのに無理だった。その私の様子を見て中傅が机の上のスタンドにちらりと目をやったので先手を打ってスタンドを手に取る。


「小さい頃から阪木みたいに手柄を奪われ続けて!! 悪いことに関しては矢面に立たされて!! 代わりに挫折して!! 森下のために何をしていても結局最後にはお前に全部かっさらわれる……そんな私の気持ちがわかるかよ」


「う……それは、お前が……」


コイツのこういうところが嫌いで、負け続けていた自分が嫌いなんだ。


「そう、私さ。私が森下に好きになってもらえたならそれで何も問題なかった」


その上で、わかった上でと続ける。


「私が求めてるのはお前も現実を見ろってことなんだよ。自分は悪くないって被害者面すんのは楽かもしれないけど先に何があるわけでもない話のタネにもなりやしない」


「……俺が悪かったのはわかった。何をすればいい? 何をすれば赦してもらえる?」


自分で考えろよ、そんなことさ。言われたことだけやってるんじゃねぇよ。


「そんなの知るか。あ、そうだ。言っておくの忘れてた。私、実は森下に刺されてないから、森下にどうしようって涙ながらに相談されて自分で刺しただけだから。そんなわけだから抵抗も無いし付き合える。お前に殴られたことで森下が何回自殺未遂したか知ってるか? 精神病院に入れられかけたこと、知ってるか? 私みたいなのに慰められただけで簡単に落ちるぐらいに森下は衰弱してたんだぜ?」


もう中傅は何も言おうとしない。理解が追いついていないのかイカレテると思っているのかどっちにしても何も言えないのだろう。もう私が言ってやる言葉も無いのでどうでもいいことだ。


窓から外を見下ろすと表の道路に森下が立っていて私を見つけて手を振っていた。その姿をに私は少し悲しい気分に浸りながら、でもその笑顔が自分に向けられていることが嬉しく部屋を出て階段を軽く駆けて下りて森下の元へ歩いて行った。

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