あの日の、なかまたち。~3~
目が覚めたのはそれから一時間経った後だった。
僕はそのまま車の中で眠りに落ちてしまったらしく、車内に冷房がきいていたのだが、シャツは汗でびっしょりだった。
友華は家へ着いた時に僕を起こしてくれた。
「着いたよ~、アキくん」
「ん?・・・んぁ」
微妙な時間眠っていたので、すぐに意識は覚醒せず、曖昧な返答をしてしまった。仕方がないといえば、仕方がないのだが。
「あぁ~、まだ起きてないみたいだね」
「・・・・・・うん」
「ん?何、今の微妙な間は」
恐れていた事態が起きた。
・・・・・・。
話題が見つかんねぇ。
「どうしたの?アキくん。もしかして、変わった私に見蕩れちゃった?」
見蕩れるどころじゃない。つーか見れない。目を見て話せない。
「あぁ~・・・、図星か。・・・よしっ、じゃあ今からどこかドライブ行こっか。お姉ちゃん見てのとおり、やっと免許取れたんだよ~」
見てのとおりって・・・、見ただけじゃあ分からないよ、と心の中で突っ込む。心の中で突っ込んだのは、現実で突っ込めないからだ。昔なら、もっとフランクに言っていたはずだろう。
「いいよ・・・」
「よし、じゃあ行こ・・・」
「違う、行かないって意味の方だよ。ごめん、少し休みたいんだ」
内心、行きたいのは確かだが、ここで行ってもきっと友華には迷惑をかけるだろう。色々な意味で。
「あ、そ、そうだよね・・・。うん、ごめんね。分かった。私の方が配慮が足りなかったよね」
どっちにしろ迷惑はかけてしまうようだった。
そう後ろめたい気持ちを持ちつつも、助手席のドアを開け、外に出た。むわっと熱気が体全体に纏わりついた。太陽の光に圧倒されつつもドアを閉めた。
「ごめんね、姉ちゃん。また、明日。明日話そうよ・・・」
話せるかわからないけれど。
「うん・・・また明日ね」
そう言ってクラクションを鳴らしながら去っていった。
正直、つらかった。
緊張の糸が切れたのか、ハァと安著の息が漏れた。故郷とも言うべき場所を背にしながら、辺りを見回す。目の前には砂浜がある。さざなみの音が耳に入る。そこで、本当にやっと、戻ってきたのだと確信した。テトラポットにはカモメかは分からないけれど、らしき鳥が2,3羽いた。
前にもあったかな、こんな感覚。でも、なんでか分からないけれど、思い出せない。まぁ何せ10年も前だからな。覚えていないのにも、無理はないだろう。けれどあれだ。この心地よさは、忘れないみたいだな。
「・・・・・・カッコ悪ぃな、僕。なんとか変わろうと思ったのに」
さっきのは、行った方がよかった、よな。やり直せるならやり直したい。・・・好きと思えた人だったのに。でも過去が戻るわけでもなく、僕はただ何もすることがなく民宿の前で佇んでいた。・・・過去を戻せるのならば、僕は、ここにはいないだろう、な。
そう思った僕は、あてもなく町を歩こうと思い、先ほどより軽くなった足を進めた。
たどり着くのはどこか、僕にも分からなかった。




