あの日の、なかまたち。~2~
僕の決心というわけではないけれど、いずれ行かなくてはならないと思っていたことは事実だ。決心がついたわけではない。触れるには早いくらいだ。けれどもしかし、そんなに憚ってばかりではいけないとも思った。
まぁこれが、一ヶ月前の出来事に少ないにせよ、促進剤となっているのはまぁ成り行きというべきか。
一ヶ月前、彼女に振られた。
唐突に、と言えば、わけもわからないうちに振られたという何だかやわらかいクッションが敷かれている表現になって、僕は好きなのだが、ここでそれを使うのは卑怯だろうと思うので挙げないでおく。
理由があると言えば、彼女からすればあるらしい。
正直僕にとって彼女は、唯の他人でしかなかった。そうなっていることに僕は拍子抜けだった。それが別れる原因であったことは言わずして理解できるだろう。
僕は、彼女を見ていない、らしいのだ。
交際という学生にはなくてはならないイベント(とはいっても僕の学校で付き合っているのは然程いないのだけれども)が僕にはある、という時点で幸福に値する。不幸になるわけがない。当然、僕だって不幸ではなかった。しかし、幸福でもなかったのだ。
しかし、なぜこの事柄が僕に過去を振り返させたのかといえば、彼女の涙がそこにあったからだ。
彼女は決して涙を見せない娘だった。マンガなんかで見る体育会系の女の子だ。ショートヘアーで黒髪で、絵に描いたような娘だった。お転婆で、笑顔がキレイで、涙なんて到底似合わない娘だった。しかし、僕はそんな子を泣かせてしまったのだ。太陽が照りつけるすばらしい日を、曇天が犇く気持ちの悪い日にしてしまったのだ。
「私は、君に色々な物を貰ったよ。物でなくても、なんでも。けれど、君の心はどこか遠くにあるようで、私にはそれが耐えられなかった。この気持ちで君をいっぱいにしようとした。どこか虚構な君を。けれど君の心は、埋まるどころか広がるようだった。分かる?アキは私で満足しなかったんだよ。だから、今も、悲しくないでしょ・・・・・・」
これが彼女が最後に言った言葉だ。その直後涙を見せた。
悲しくないわけがないだろう、と見栄を張って言ってはみたものの、彼女の言ったことは的を射ていた。それに、僕は、僕自身を軽蔑するようになった。侮蔑してさえもいた。
罪滅ぼし、と言えば聞こえは良いけれど、それをするためにここへ戻ってきた。そんなにキレイなもんじゃないけどな。ドロドロだよ。ヘドロに近い。
過去へ行けば僕は、彼女を見ることができると良いように解釈した僕は一ヶ月の模索の末ここへやってきたのだ。
本当に、都合が良いにも程がある。
自分でも分かっているが、きっと逃げているのだろう。ちょうど出来た夏休みを利用して。
そう自虐しながら、僕は車通りの少ない道路を、ガードレールに沿いながらひたすら歩く。汗はとっくにシャツに染みて、言いようのない不快感が僕を襲っていた。
続く道には陽炎が出来ていた。ぼんやりとうつる先の景色を、ぼんやり眺めながらひたすら歩いた。やることと言えば、たまに来る自動車の数を数えるくらいだった。因みに、今18台だ。
「過去を拭い去るために、過去と向き合うなんて、単純だな、僕」
また自虐しながらも足を前へ進める。重苦しい寸胴のような足を。
「ハァ・・・ハァ・・・」
プップー・・・・。
クラクションが鳴り響く。後ろを振り向くと、赤い軽車が神々しくあった。言葉通り神のようであったが、運転手は僕の知る人だった。
「もしかして・・・・・・アキくん?」
「・・・姉ちゃん?」
決して、運転手は神ではなかった。僕と同じ、人間だった。あたりまえだけど。
まぁこれで友華の車に乗っていくことが出来るのだが、如何せんこの状態の僕だ。疲労につぎ、自虐、旧知の人との間にある妙な溝は僕を車酔いにさせるのには簡単だった。それでまぁ、友華とは一切話さずいられたのだけれども。
そしてこの車が僕にとって19台目の車だった。どうでもいい情報だけれど。




