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◇
——どうしてこうなった?
『アタシだってねぇ、ギャルキャラなんてキツいと思ってるんだよ!』
「はい……」
あのあと、何をするか具体的なアイデアが出てこなかったので、各々考えることにして解散した。
その後、あらためてゆら先輩から通話が来て、今に至る。
……完全に年齢のこと気にしてるじゃん。
『マホロくん?』
「はい!」
『……アタシだって、ソロしてた頃はまだ学生だったから、ギャルっぽい感じもイケイケで楽しかったんだけど……』
「イケイケ……」
『ン?』
「なんでもないです」
同年代くらいだと思ってたけど、実は意外と——
『マーホーローくーん?』
「はい、ごめんなさい」
『最初の頃に『あ、これは無理だな』って方向性変えて、ゆらママとか呼ばれるようになって、やっと大人の魅力がわかってくれるようになったと思ったのに! 最近のゆら人、『ゆらママ最近甘えたになったね』とか『後輩にめっちゃ甘えてる』とか!』
「それは事実じゃ……」
『ン?』
「……なんでもないでーす」
うちの人たちみんな俺の解像度が高すぎるんだよ……。
俺何も言ってないんだけど……いや、今回は口が滑ったけど。
『別に、甘えたさんになったとかは別にいいんだけど……なんかねぇ』
「……それだけ、肩の力を抜けるようになった、ってことじゃないですか?」
『どゆこと?』
「今までのゆら先輩は、ひとりで頑張って……頑張りすぎたんですよ」
実際ソロの時代を含めて長い間VTuberを支えたひとりだ。
世間的に有名な四天王と呼ばれる人たちほどじゃないが、この人だってVTuberの歴史を支えてきた。
俺たち2期生が入るまで、APをひとりで支えてきた実績もある。
だからきっと——抱え込みすぎたんだ。
「俺は嬉しいですよ、先輩がちゃんと俺たちを頼りにしてくれてるってわかるから」
『……マホロくん』
以前俺が倒れた時、ゆら先輩が最初に駆けつけてくれたのを覚えている。
あとから聞いた話だが、その時のゆら先輩はボロボロに泣き崩れていたらしい。
……そういえば、病院で目が覚めた時にも、泣いていたっけ。
……きっとこの人は、本来甘えたがりだったんだと思う。
それなのに『自分が頑張らないと』って、抱え込んでしまったんだろう。
『……ありがとう、マホロくん』
「どういたしまして?」
『抱え込むなって……マホロくんにそう言ったのに、アタシがやっちゃってたんだね……』
「俺の時とは状況が違う気もしますけどね」
俺の時は『倒れるほどの無理を抱えた』ことが問題だった。
先輩は『みんなの求める理想の自分で居続けること』に疲れてしまっただけ。
……今の俺ならわかる、リスナーは『素の自分』を見せても離れないって。
だから——。
「先輩も、もっと自分に素直になればいいんですよ」
『自分に、素直に……』
「無意識のうちに『リスナーがこう求めてる』って、考えてませんか?」
『それは……みんなそうじゃないの?』
「そうですね……『月見里マホロ』っていうアバターを着ている以上、どこか作ってるところはあると思います……でも」
……でも、その中でも『自分』を出すことはできるって。
この1年で、教えてもらったから。
「それでもまだ、自分を出すのが怖いなら——『新しい獅童ゆらの一面』として、ゆっくりと……ゆっくりと、積み上げて行きませんか?」
『——』
長くやってきた先輩と比べて、俺はたった1年だ。
……それでも、言える事はあると思うから。
『うん……うん、そうだね……うん!』
しばらく黙っていた先輩が、顔を上げた——ような気がする。
『ギャルも、ママも……甘えたがりなアタシも……全部、『獅童ゆら』なんだよね』
「……はい」
『ありがとうマホロくん、アタシ——頑張ってみる!』
「……はい!」
……頑張らなくても良いとか、そう言うのは簡単だろうけど。
それじゃきっと、何も変えられないから。
これもまた、俺の1年の成長の証なのかもしれない——。
『それはそれとして、マホロくん?』
「はい?」
『け・い・ご』
「……はぁーっ……」
結局いつも通りに戻るのが、俺たちらしいんだろうな。
◆
それは、かつてのアーカイブ。
「おはよ~っ! イケイケギャルVTuber、獅童ゆらだゾっ!」
あの頃は、どういうのがウケるのかよくわからなくて。
とりあえず若そうに見えたほうがいいよねって、安易にギャルを選んで、失敗して。
……うぅん、マホロくんの言うように、あの頃のアタシも、アタシだから。
失敗だったとは……言いたくないな。
「こんガオ~! 迷える君たちをゆらゆら導く指導者ライオン、獅童ゆらだよ!」
ちょっとお姉さんキャラをやってみたら、『ゆらママ』って呼ばれるようになって。
そこから順調に伸びていって……あぁ、これで正しかったんだって……。
「こんガオ~! アナザーパンデミック1期生、迷える君たちをゆらゆら導く指導者ライオン、獅童ゆらだよ!」
それからは本当に順調で、気付けばアタシは事務所に所属していて。
小さな事務所だったけど、社長もスタッフもいい人で、配信も楽しくて。
アタシが頑張れば頑張るほど、事務所の名前も売れていって。
『アタシが頑張らなきゃ』って……この時からすでに、ハマってたんだね。
……そして。
『は、はじめましてじゃみなのもの! あなざぁぱんでみっく2期生、月見里マホロなのじゃ!』
『にゃーん、AP2期生、猫野タマだよー』
『きっ……気を! 取り直しまして……あ、改めまして、『波亭しえる』……です!』
あの子たちが、やってきた。
……なんかここだけ聞くと、後輩が来たことを妬んでるみたいだけど。
後輩ちゃんが増えて、本当に嬉しかった。
これもまた『頑張って事務所の知名度が上がったから』だって、本当にそう思ってたから。
……うぅん、実際その通りだったんだと思う。
マホロくんはアタシが誘ったから別口だけど、タマちゃんとしえるちゃんは違うから。
……あれ、でもしえるちゃんは社長の妹だし。
そう考えると、タマちゃんだけかも?
……まぁ、細かいことはいっか!
◆
それから色々あって……マホロくんが倒れた。
先輩なのに……アタシが誘ったから、ここに来てくれたのに。
……アタシが、もっと気を配っていればって、ずっと自分を責めてた。
でも……目覚めたマホロくんは、以前よりしっかりするようになった。
……うぅん、ちょっと違うかな……『自分を見つめ直した』って言うのかな?
あぁ、この子はもう『アタシが面倒見てあげなくてもいい』んだって。
そう思ったら……うん、確かに『肩の力が抜けた』んだね。
ふふっ……いい表現するじゃん、マホロくん。
◆
「……そっか、これがアタシなんだね……」
アーカイブを見終わって、一言目がそれだった。
ギャルも、ママも、AP1期生だったことも。
全部、アタシ——『獅童ゆら』。
それに気付かせてくれたのは……マホロくん。
「……うもー! ……しえるちゃん、ごめんね」
でも、この気持ちにはそっと蓋をするから。
……こぼれたらごめんね?




