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0-4 縁を継ぎ、主人公になる

 雪男を倒した僕を出迎えたのは、穏やかな顔で拍手をする老爺(ろうや)だった。


「いや凄かった! まさか本当に獣王を倒してしまうとは思わんかった」

「え……?」

「人は見かけによらぬ物だな。うむ、ワシはこれから人の強さを見た目で判断するのを辞めるぞ」


 ――全く予想してなかった反応だ。でも何故だろう、この反応が帰ってきた事に安堵する自分も居る……


「お、おじいさん。僕のことが怖くないの? あんな化け物を、いとも簡単に倒した僕の事が」

「お前さんが意思疎通が取れない獣であれば、恐れたじゃろうな。じゃがその実、お前さんは獣では無い。なら普通の人間と同じように接しても良いじゃろう」

「……!!」


 ――あぁ、安心した。あれだけの力を振るった後でも、僕は人間に見えるのか。


 またしても、目が涙で潤む。しかし違和感を持たれまいとすぐに袖で拭い、笑顔を作る。


「嬉しい事を言ってくれてありがとう、おじいさん! じゃあ僕、もう行かなくちゃ」

「何か急がなきゃいけない理由でもあるのか?」

「そういう理由は無いけど……この地域は、魔法使い達が捕まってるオクタゴンから比較的近いんだ。騒動を聞いて駆けつけたオクタゴン職員に、僕とおじいさんが一緒に居るところを見られたらヤバいの」


 老爺は少し考えた末、首を横に振る。


「だとしても、多少時間はあるじゃろう。それに、実技試験は終わったが学科試験は終わっていない。雪原を安全に生きる為の知識が定着してるか、それを確かめない事には安心して送り出せん」

「そ、そうは言うけど……」

「では聞くが、今ワシの元を離れてどこへ行くつもりじゃ? お前さんはどこに行けば良いのかすら分からない状況、そうじゃろう」


 僕は何も言わずにうつむく。


「ならばこうしよう。学科試験をクリアしたら、ここからキシリア州の首都へ行くための地図をやろう」

「! いいの!?」

「ああ。もうワシには不要ゆえ、お前さんにやろう。この条件なら、受けてくれるな?」

「……うん、受けるよ。でも試験を受け終わったら、おじいさんの安全の為にもすぐ行くからね」


 僕はすぐさま老爺の肩を持ち、魔法を使って老爺の家に転移した。


 ◇  ◇  ◇


 部屋に帰るとすぐ、老爺は事前に用意した原稿を持ち出して僕に主題し始めた。


 問題は全20問あったが、学科試験という大仰な名前には似つかわしく無い程に、簡単ものばかりだった。


 出題されてからほとんど間を開けずに答えることで試験はサクサクと進み、大体3分程度で全ての問題を解き終える。


「ふむ、完璧じゃ」

「でしょ? ちなみに釘を刺すけど、魔法でおじいさんの思考を読んでるとかは無いからね。僕その魔法は使えないから」

「そんなこと思っとらんわい。とにかく、これで卒業試験は合格じゃな。少し待っとれ、地図を持ってくる」


 老爺は立ち上がり、タンスの引き出しを上から順に開けて中身を探り始める。


(タンスって、服をしまうためにある物じゃなかったっけ。なのに、なんでこうもガチャガチャと金属同士が触れ合う音が聞こえてくるの?)


 そうして一番下の引き出しを締めた老爺は、唸りながら首をかしげる。


「服のポケットに仕舞ってるとかない?」

「いんや? ここ何年も都市には行っとらんから、手に持ってるはずがない。じゃがタンス以外に物を仕舞う場所なんか……ん?」


 重そうに腰を上げ、タンスの上を見た老爺は間の抜けた声を上げる。そんな老爺の視界の先には、茶色の封筒が2つあった。


「おぉこれじゃこれ! ワシとしたことがボケておったようだ」


 老爺は二つの封筒を手に取り、再び僕に向き直ってそれらを差し出す。


「さあ受け取るんじゃ」

「……どっちを?」

「どっちがどっちかは忘れたが、両方受け取れ。どちらもお前さんに必要なものじゃからな」

(地図以外に必要なもの……お金?)


 二つの封筒の上を切って開けてみると、一方には地図入っており、もう片方には3万ゴールド紙幣が三枚と白い紙が1枚入っていた。


「この白い紙は?」

「それは『紹介状』じゃ。これを首都にある『猟師組合』の本部に持って行けば、沢山の縁と食い扶持に恵まれるじゃろう」

「……そんな権限を持ってたり、9万ゴールドをポンと渡せるなんて、おじいさんもしかして凄い人?」

「さ、さあな。ワシは自分を客観視するのが苦手での、凄いかどうかは分からぬ」


 わかりやすく目を逸らす老爺。


(フフ。照れ隠しをするなら、もう少し上手くやらないと)

「それと、これもやろう」


 僕が封筒を受け取ると、老爺はさらに懐からリボルバー式の拳銃を取り出し、取っ手をこちらに向けて渡す。


「引き金と銃身があるって事は……これも銃?」

「ああ、自衛用に隠し持つ用の銃じゃ。猟銃よりは反動を逃がしにくいが、小さいからいざという時に簡単に取り出せる」

「……これから僕が向かう場所は、そのいざって時が訪れうる危険な場所だって認識でいいんだね?」

「うむ。今の首都は経済難で治安が酷いからの、おまえさんが自分の身を守れるよう、コレを持っていて欲しいんじゃ」


 銃を受け取り、僕は魔法を使って封筒と銃を別の空間に収納する。


「そう言う事なら貰っておこうかな。ありがとう、おじいさん」


 それから立ち上がり、僕は玄関の戸に手を掛ける。


「じゃあ、今度こそ行くね。七日間僕を泊めてくれた上、大切な物をいっぱいプレゼントしてくれて本当にありがとう! おじいちゃんの事、絶対忘れないよ!」

「無理に覚えていなくていいぞ。こんなジジイの事なんか、覚えてたって得はないからの」

「損得じゃなくて、魔法使いは自分に恩義をくれた人の事を忘れないの。生きてまた会えたら、今度は僕がおじいさんに得をあげる」


 ――余計なことを口走ったな。生きて会えたらなんて、生きて会えない可能性があるみたい。


 そんな事を考えて、ちょっと悲しい気持ちになる。けど、どうにか顔に出さないよう堪えながら老爺の方を振り向く。


「だから、どうか生きててね」


 老爺は少し黙った後、軽く頷く。


「安心せい、この雪原があるかぎりワシが死ぬことは無い。お前さんが望むなら、また会うことも出来よう」


「……よかった、気休めでもそう言ってくれて嬉しいよ。じゃあ、またどこかで」


 小さく手を振る老爺に微笑みかけた後で、僕は扉を開け、雪原に足を踏み入れる。


 ――さあ、旅を再開しよう。今度こそ、僕の道行きに幸福がありますように。

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