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【水面を漂うラメット】リメイク  作者: Aster/蝦夷菊
第一章【出会いと魂に敬礼を】
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第三話【手を取る】

「……うん…………?」


 目を覚ますと、そこは湖の底では無く、温かい毛布の中だった。周りを見渡すと、フェオンが横で眠っているのに気付く。どうやら、彼に助けられたらしい。

 立ち上がろうとして、足の痛みに歯を食いしばる。ズキズキとした痛み……見ると、そこには包帯が巻いてあった。湖で岩にでも裂かれたのだろうか? どうも直前の記憶が曖昧だ……。


 と、扉をノックする音が聞こえてきた。


「フェオン? 起きてる?」


「フェオンなら寝てます。どうぞ」


 そう答えると、扉の向こうから「え」と驚く声が聞こえ、すぐに扉が開かれる。フェオンの母親は心配そうにこちらを覗き込み、かと思えば微笑を浮かべて、


「おかえりなさい、スゥエン」



 ※ ※ ※ ※ ※


「足は大丈夫?」


「あぁ……多分平気」


 俺は軽く足を前へ後ろへ動かし、曲げたり伸ばしたりもして、フェオンを見る。


「良かった……あ、儀式の後のことは、上手いこと話しておいたよ。僕よりもスゥエンが説明した方が早かったろうなって、思ったけど」


「……ありがとう。でも、俺はそこまで上手じゃないよ、そういうの」


「謙虚だなぁ…………」


 と、フェオンは黙りこくる。


「……どうした?」


「ううん。…………良かったなって」


 「良かった?」と繰り返して聞くと、フェオンは恥ずかしそうに笑う。頭を軽く掻いて、息を吐く。


「生きてて、良かった……」


「……うん」


 涙を溜めるフェオンの頭を自分の胸元に寄せ、優しく撫ぜてやる。

 フェオンは俺を抱きしめて、それから袖で涙を拭うと、立ち上がって棚の中をあさり始める。どうしたのだろう、と眺めていると、


「あった!」


彼は一つの細長い箱を取り出して、俺に手渡した。


「……これは?」


 一六にもなって子供らしさの残っているフェオンを、俺は少し不思議に思うが、長寿な種族である事を考えればそれも普通なのかと勝手に自己完結する。


 こちらに走りより、寝台に乗っかって隣に来る。フェオンが俺に差し出したのは、綺麗に梱包された箱だった。俺の瞳と同じ色のリボンでとめられている。フェオンを見ると、初めてあったときと変わらない純粋な、輝く眼差しをこちらに向けている。彼から感じられる期待と高揚、待ちきれない感情が眩しくて、俺はつい口をほころばせた。


「開けていい?」


「うん」


 リボンをスルリと外し、包み紙を取って箱の蓋を開ける。中から出てきたのはフルート。真紅の紐が通された、木目の楽器だ。


「これで一緒に演奏できたらな、と思ってさ」


「………………」


「あれ、嫌だった?」


 唖然としていた自分に気付き、素早く首を横に振る。


「いや……驚いたんだ。フェオンからこんな、素敵な物を貰えるだなんて……思ってなかった、から」


 口をつぐみ、自らが発した言葉を口内で反芻する。そしてすぐに、自分の言った事がどれだけ恥ずかしいことかを自覚し、すぐに赤く熱くなる顔を手中に埋めて唸る。フェオンの声は暫く聞こえなかった。


 心配して片目だけ手を離すと、彼も同じように顔を真っ赤にし、指先をちょん、ちょんとつつきあわせながら目を逸らしていた。


「……えと、ありがとう」


「うん…………どう、いたしまして」


「それと……ごめん」


「あー、今余計なこと言ったね?」


 頬を膨らませ、フェオンは俺を見る。


「え?」


「だって、……ううん。せめて、ごめんの後にありがとうで良いでしょ。後味悪くなっちゃう」


「…………」


 「何?」とフェオンはまだ不服そうだ。


「何に遠慮して、罪悪感を覚えてるの?」


「……フェオンが、俺の傷を魔法で治すのに」


 治癒魔法というのは、エルフが最も得意とするものだ。それと、エルフはその高い魔力と緻密な操作ができる技術力から、魔法や魔術の全般に長けている。十八年で完璧に全てを扱える者は稀であるが、殆どの魔法は扱えるようになるらしい。

 その中でもフェオンは魔法に高い適正を持ち、魔力も他の同期の中で一番と言っていい。


 俺もフェオンの父から習っているが、治癒は苦手だ。無論、まだフェオンの言っていた“麒麟”の姿にもなれていないし、なる条件やなったあとのことも分からない。


「全く、スゥエンは遠慮ばっかりだ。……僕は、僕がやりたいから君に力を尽くしてるのに」


「…………」


「……じゃあ、こうしよう!」


 フェオンは思いついたように指を立て、僕に笑いかける。


「僕は治癒魔法や影響系の魔法、それらを実践するために君を使う。そういう認識でいてくれれば良いよ」


「…………分かっ、た」


 その返答に、満足そうな顔をするフェオン。


 と、突然ハッとしたようにまた立ち上がり、俺を見下ろした。


「なん、どうしたんだ?」


「あの日、僕は君の目覚めた所に行って……ポシェットを見つけたんだ、古ぼけた色んなものが入ってた」


 そう言って、フェオンはまた棚を探る。

 俺はその言葉を頭の中で反芻した後、熟考する。ポシェット……恐らく場所から考えるに俺の所有物なのだろうが、最初起きたときに何も無かった気がするのが気にかかる。ただ俺が見落としただけなら良いんだが……。


「これだよ」


 出されたのは、所々ぼろぼろなポシェット。中身を確認すると、古ぼけた厚い本に、ランタン……どれも見たことのあるような、無いような…………。


 ※ ※ ※ ※ ※


「うぇっ、苔ばっかり……靴、……いや、途中で帰ってこられたらバレちゃう……」


「……ポシェットに入る分だけ…………うん、欲張らない」


「これ、なんだろ? 埃っぽくてやんなるな……」




「……僕、呼ばれてる?」




「どうせ心配なんてされないかも……。良いよね、ちょっとぐらい悪い子になっても」


 ※ ※ ※ ※ ※


「──────っ」


「スゥエン?!」


 思わず頭を抑える。


 俺の記憶……だろうか。今まで見たことのないものがたくさんあった。紙切れに書かれた文字も、絵も、玩具のような物も。自分の手足も……声も、俺が知らないものばかりだ。


 フェオンが心配そうにこちらを見つめている。


「……どうしたの?」


「…………今、知らない景色が」


 確かにこれは、俺のもの“だった”のだろうか。


「記憶が、戻った?」


「…………本当に一部分だけ、だけど。多分今のは……ここに来る直前の、記憶か」



 ふと、本を開く。記憶が正しいならば、ここには何も書かれていないはずだが────。




「…………“麒麟”?」


 題名も、作者もないその本に、一頁だけ、絵と文章が描かれている。


『麒麟』

 千年を生きる聖獣。角が生え、馬と鹿が合わさったような不思議な見た目をしている。神秘的な魔力を秘め、その身体射ようとも、光の如き速さで飛び回る。

 人間の感情や自然の変化に敏感であり、いつも冷静に地を見守る。


 整った筆跡。言葉選びの特徴。これなら、作者を確定できるかもしれない。

 インクに指を添えてみるが、付着はしない。つまり、最近書かれたものではない。酸化した紙にここまで綺麗に書けているのだから、だいぶ昔のものだろう。ただ、筆跡が掠れている様子は無いし、本の紙にも使用を積み重ねた形跡は見られない。印刷されたものでもない。

 …………問題は、俺が見つけた時も古ぼけていた事。予測されるのは、作者が遠くから干渉できる能力を持っている、と言う事くらいか。


「フェオン、これ誰が書いたかとか、分かるか?」


「…………うーん。本の中でも物語のようなものとか、これみたいに図鑑っぽいものとか……全般? 元々本はあんまりここでは入手できないものだから……」


 「でも」と付け加える。


「僕達の同期に、一人博識な子が居るんだ。今度、聞きにいってみよっか?」

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