No.1ホスト、父と戦慄のお茶会?
…カチャッ…
………………え、何この状況?
俺は今、父2人きりで一緒に茶を飲んでいる。文字通り、本当に茶を飲んでいるだけである。会話もなくただ茶を啜っている、父と2人きりで。
え、何だこの状況?この歌舞伎町No.1ホストともあろう俺が、会話に困るだと?この俺が??…そんなの万に一つもいや、億に一つもあってはならない。俺は気まずさに耐えかねて何とか会話をしようと思った。
「お、お父様、今日はどうして私とお茶をして下さるの?それに…私がお兄様と喧嘩した理由も聞かずに…」
「………」
父は何か深く考えるように黙ったまま俺を黙って見つめていた。え、もしかしてやっぱ俺、やらかした?
「兄妹の喧嘩にわざわざ親が立ち入る必要はない。」
な、なるほど。忙しいこの英雄である俺がそんな瑣末な事に構う暇はないと…。うへぇ…
「そ、そうですわよね。お父様はこの国の英雄!お国のために忙しくしていらっしゃいますものね。」
「…別に国の為ではない。」
「へっ?」
「…家族が平和に暮らせるようにしたら国のためになっただけだ…。」
「そ、そうですか…。」
なんかこの父親、掴みどころがないなぁ。厳格で威厳のある態度で萎縮させると思えば、いきなりこうしてデレ発言みたい事してくるし…。結局、この人何の為に俺とお茶なんか飲んでるんだ?
「それよりも、今日の…殿下との茶会はどうだったんだ?」
父親はお茶を飲み、調子を整えながら探るように言った。
なるほど、本当はこれが聴きたくて俺を茶に誘ったって訳か。
「そうですね、殿下はとてもお優しくして下さって、とても楽しいお茶会だったと思いますわ。」
「思う、か。…じゃあ、お前は楽しくなかったと?」
父親は俺の心を見透かすような鋭い眼差しで俺を見た。…まずい…言葉を選び間違えた。
「そ、そんな訳ないじゃないですか。あの憧れの殿下とのお茶会だったんですから。」
「…別にお前が無理する事はない。」
「それは…どういう?」
「私は何も権力の為、お前と殿下を婚約させた訳じゃない。…だからだな、つまりその…お前が嫌なら婚約破棄しても構わないと思っている。」
………え?今、この人婚約破棄とか言った?
ってか婚約破棄していいってまじ?そりゃ、俺だって1番は婚約なんてぶった斬って攻略キャラとは1ミリも関わらずに暮らしたい。そうすれば、色々考えて立ち回る必要もないし。本当に…いいのか?でも一旦ここは様子見かな。兄貴にも…相談してやるか。
「婚約破棄だなんて、お父様。今は…もう少し殿下について知りたいと思っていますの。もしかしたら…お父様にご迷惑をかける時が来るかもしれませんが…でも、今はまだ大丈夫です。お気遣いありがとうございます。」
「そうか…今日は疲れてる所悪かったな。」
「いえ、お父様とお話しできて良かったです。」
最後は満面の笑みぐらい見せて去るとするか。だって、この父親俺のことめっちゃ考えてくれてる訳だしね。
私の血と涙(笑)の特訓の成果による笑みを初めてみたお父様はそれはそれは大層驚いていた。もちろんいい意味でね。
今日は収穫がいっぱいだったなぁ〜。まさかあの父親があんなに家族思いとは思わなかったけどね。
兄貴の事も…そろそろ許してやるかな。
そう思って自室に着くと、一通の手紙が机の上に置かれていた。