No.1ホスト、兄妹喧嘩する②
俺が姉貴の就職を知ったのは高校の入学式を終えた夕方だった。
「おいっ!姉貴、どういう事だよ‥、働くって。あれだけ俺に大丈夫とか言って!」
「別に、私はあんたと違って働きたくなくて働いてる訳じゃないんだからいいでしょ。」
「っ‥‥俺のせいで、ごめん。」
俺はあの時、ただ俯いて謝る事しかできなかった。拳を力一杯握りしめて‥。
本当は知っていた、分かっていた。うちには高校へ1人行かすのにも苦労するほど金がないこと。姉貴は俺よりずっと勉強熱心で、勉強が好きで本当は大学へ行きたかったこと。そして‥本当は俺は何となく姉貴が大学へ行くのを断念したことを知っていて、それでも高校へ行く事を諦めきれずに黙ってしまったこと。
後にも先にも、俺が姉貴に対して声を荒げて本気で怒鳴ったのはあれが最後だと思う。
姉貴は結局、俺を大学まで行かせてくれた。もちろん俺も、なるべく姉貴に負担をかけないよう国立へ行って、バイトも掛け持ちして頑張った。
だけど、どれだけ経っても俺はあの時の姉への罪悪感を消す事はできない。
‥はぁあ〜。久しぶりに喧嘩なんてしたから昔の辛気臭い事まで思い出しちゃったな。
まぁ、だからという訳ではないが俺は姉貴に対して、今は兄貴に対してだけどやっぱりどこか負い目がある。でも、今はまだ兄貴を許せる気持ちにはなれないけど。
その日の夕食は何も俺たち兄妹の喧嘩を知らない母が、俺とシアンのアフヌンの話で盛り上がりどう反応していいか分からなかった。
俺と兄貴の様子に何か違和感を覚えた様子の父は、夕食後俺を書斎に呼び出した。
(はぁ〜。絶対、父さんは俺が原因だと思ってるよな‥。まぁ、そりゃそう考えるよな。今は改心したと言ってもほんの少しまで一家の面汚しのトラブルメーカーだった訳だし、俺。それに比べて、兄貴は学園では常に首席で友人も多く、人望も厚い。どちらが悪いと考えるかなんて、明白だよなぁ。でも、1人で父親の書斎へ行くとか、なんか恐縮すんな‥)
コンコンッ!
「お父様、入ってもよろしいでしょうか?」
「あぁ、入れ。」
予想に反して、父はさして怒った様子ではなかった。
「あ、あのぉ‥一体どのようなご用件で‥?」
でもやっぱり怖くて、俺は恐る恐る聞いた。
「お前‥カーマインと喧嘩したのか?様子が少しおかしかったから‥」
「えっ、あっいや‥大した事ではないんですけどね、あはは。面倒ごとを起こして、お父様を煩わせてしまってごめんなさい。」
「‥別にお前を責めている訳ではない。それに、どちらが悪いかなんて俺には分からない。」
父親は、俺に謝られるとなんだがばつが悪そうにボソボソと言った。少し恥ずかしいとでも思ってるのだろうか。でも‥一方的に俺を悪者だと決めつけたりしない父親には驚いたし、何よりちょっと嬉しかった。
「ちゃんとお兄様とは仲直りしますからご心配なさいで下さい、お父様。ではこれで‥」
「ま、待て。別に時間が無い訳じゃ無いんだろ?だったら、そう急いで出る事もないんじゃ無いか?」
父親は珍しくしどろもどろになりながら、少し顔を赤くして言った。
「えっ?」
「だ、だからだな‥‥そ、その一緒に茶でも少し‥飲まないか?」
「えっ!?‥わ、分かりました。」
こうして、俺はなぜか父と茶を飲むことになってしまった。