No.1ホスト、兄妹喧嘩する①
「容疑者って何だよ‥。最初、この世界で話した時、兄貴は俺に犯人は知らないって言ってたじゃねぇかよっ!」
「‥‥黙ってた事は謝る。けど、後悔はしてない。」
俺は兄貴の手を払いのけて、壁に兄貴を打ちつけて叫んだ。けど、兄貴は依然として強気な態度でいた。俺は、どうしてこんな大事な事を言ってくれなかったのか腹が立った。本当は分かってる。いっぺんに話せば、俺が混乱して状況を見極められなくなるかもしれない。それに言葉で一度に全てを話したところで信用してもらえるかも分からないし、あまりに現実味が無さすぎて受け止められないかもしれない。だから、俺に少しずつ事情を話して、実際に体験させて自ら違和感を持たせる事で俺自身に自分の事として理解させたかったんだろう。分かるよ、わかるけど‥。
「容疑者の事とか聞きたい事はたくさんあるけど‥今は、兄貴と話せる余裕ねぇわ。出てって。」
「‥分かった。」
そう一言兄貴は呟くと、静かに部屋から出ていった。
俺の怒号はかなり大きく、外にいたマゼンタにも聞こえていたらしくかなりマゼンタには心配された。今までも仲が良かった訳じゃなかったけど、あんな大喧嘩は初めてらしい。
俺も兄貴と、いや前世で姉貴とあんな大喧嘩したのは後にも先にもあの一回だけだったと思う。
前世での朱音15歳、朱音の姉こと紅18歳ーーー
前世での俺と姉貴は天涯孤独だった。俺が13歳の時、突然両親が事故で死んだ。あまりに突然の事で当時の記憶は朧げだが、俺たち姉弟が親戚中をたらい回しにされ、唯一信頼していた叔父さんも結局は俺たちの親が残した遺産目当てで遺産を俺たちから奪い取ったあと無惨に捨てられた記憶しか、ない。なけなしの金とボロい安アパートで俺と姉貴は何とか必死に毎日を暮らしてた。そんなある日、俺は姉貴に相談した。
「なぁ、姉貴。俺、このまま高校は行かずに働こうと‥思ってんだけど‥」
当時の姉は俺にとって唯一の頼れる家族だったから、俺はなんて言われるか怖くて恐る恐る言った記憶がある。
「はぁ?あんた、いきなり何言ってるの?お金の事なら姉ちゃんが何とかするし、それに遺産はほとんど取られたけどちょっとは残ってる。だから余計な心配せずに、高校行きなさいよ。」
「で、でもっ!そしたら姉貴はどうするんだよ‥。大学に行く時間と金はどうするつもり?」
「そんな心配しなくてもね!私はパーフェクトな姉なのでっ!あんたなんかに心配されなくても大丈夫なの!それよりあんたは、自分の成績の心配しなさい。流石に私立は厳しいから、ここから一番近い公立の高校にしてね〜。」
「そ、そんなの県内一の高校しかないじゃねぇか!‥ま、まぁ?姉貴でも受かってんだから俺にもいけるよな?」
「あんたのその生意気なとこ、ほんと腹立つわ〜。まぁ、とにかく今は勉強しなっ!」
姉貴はどこか苦しげに笑って見せた。あの時の笑顔を俺は、今でも忘れない。
俺は、結局姉貴に、口では就職したいと言ったもののやはり、高校へ行きたい気持ちを抑えきれずつい、姉貴のその苦しさを隠した言葉と笑顔に頼ってしまった。
俺は姉貴にそう言われてから、猛勉強して何とか家から一番近い県内一の公立高校に合格し進学した。
姉貴は大学に行くことを断念して、高校卒業と同時に就職した。
こんな俺の為に。