闇の中、願う希望
全て消えてくれれば、あの闇の中へ。どんなに気楽な事だろう。太陽が照らせば、全てが晒される。どんなに残酷な事だろう。
「意味、分からんわ……ボケが」
悪態をついてみた。よく叱られた、口が悪いなんて言って。
今は俺の近くに誰もいない。通夜が終わってその後片付けをしているだろう。身内の人間で、手伝いを放棄したのはおそらく俺だけだ。
夜明け前の暗がりの中、あまり来た事のない公園のベンチに座っている。中学の頃から吸っていた煙草の火種が、闇の中で優しく灯る。
赤って、すごいよな。色の濃淡が違うだけで、優しくも怖くも見えるんだから。
黒はどうだろうか? 他の奴がどう思うかは知らないが、どんな濃淡だったとしても俺はいい印象を持たない。
絶望、孤独、終焉、死。連想ゲームなら、ネガティブな答えが出てくる。
黒の空に、鬱憤と一緒に煙を吐き出す。シアン化物、タール、ニコチン、二酸化炭素。吐き出して、吸収して。俺の中から出てくれないのがどうしようもない憤り。俺の中から消えてくれないのが強過ぎる消失感。
そうして俺は、新品だった煙草を吸い尽くしていた。
ポケットを探り、手持ちの金を確かめた。150円、ペットボトルのジュースが買えるだけ。煙草まで、半分足りない。
仕方ないから、ホット缶のカフェオレをジュースを自販機で買う。夏なら、羽虫が蠢いていそうな明かりには何もいなかった。当たり前か、今は草花枯れる真冬なんだ。
弟が、死んだ。いや、殺された。
無免許の飲酒運転手に、俺よりたかだか1年早く生まれただけのクソ野郎にだ。
当事者は奇跡的に軽傷だけで済んだ。憧れの夢へ向かって頑張っていた弟は死んだ。
プロ野球選手になる。そんな事を恥ずかし気もなく語っていた弟は、レギュラーにもならない野球部を2年も続けた。3年になる直前の冬、やっとの事で掴みかけたレギュラーの座を前にして死んだ。
俺が代わりに死んでいれば。無駄だと知りつつも、考えずにはいられなかった。
真面目な弟とやりたい放題の兄。どちらが価値を持つか、高校に行けた事が奇跡な馬鹿にでも分かる。荒れた心は、綺麗事を正当化するのに充分だった。
すでに空になったスチール缶を少し明るくなった空間に投げ捨てた。
少しずつ辺りが黒から紫へと移り行く。もう、朝は遠くない。出来るなら、このまま朝がなくなればいい。
そんな事を考えても、当然のように朝は来る。至極当然のように、残酷に廻り続ける。
消えろ。いっその事、そのまま消えてなくなれ。




