(8)
「ところで、今、気付いたけど、お前、何て呼べばいいんだ?」
僕の憧れだった人は……僕にそう訊いた……。
「好きな名前で呼んで……」
「いや……本当の名前は何?」
「僕、自分の名前嫌いなんだよ……」
「キラキラネームとか?」
「違う」
「じゃあ、何て名前だよ?」
「堀田隼人……この前、ボケて寝た切りになって誤嚥性肺炎で死んだ僕の祖父ちゃんが付けた名前だよ……」
「え? 格好いい名前だと思うけどな……」
「うん、祖父ちゃん、時代劇マニアでさ……ある時代劇の主人公の名前を僕に付けたんだ」
「どんなキャラ?」
「ニヒルでイケメンで強くて女にモテモテ」
「いや、なら、何で、その名前嫌いなんだ?」
「小学校高学年か……中学校の初めごろに、初めてインターネット使った時にWikiで調べたんだ……僕の名前の由来になったキャラを……」
「え〜、Wikiに項目立つほどの有名なキャラだったのか?」
「うん……で、近くの公立図書館で……その時代劇の原作小説借りて……読んでみた」
「どうだったんだ?」
「昔の小説なんで、読みにくい上に……文庫で上下巻合せて一〇〇〇ページ以上だったんで、読み終るまでに何度も何度も借りなおした」
「あ……大変だったんだな……。でも、そんな『なろう系』の主人公みたいなキャラだから……きっと、俺がモデルになった某超有名ラノベの主人公みたいに……」
「違うッ‼ あの糞ジジイ、ふざけやがってッ‼」
「はぁ?」
「オタクでも良く居るだろ、ネットで拾ったマンガのコマをSNSに貼り付けて、誰かを論破した気になってるマヌケが……。でも、元のマンガを良く読んだら……そのコマだけ見たら正論だと思ってた台詞が、実は、大間違いだったとか……。俺の祖父さん、その手のマヌケの同類だったんだよッ‼」
「ごめん……俺も、それやった」
「そうだよ……僕も同じ事やって、論破したつもりになった相手から、馬鹿として晒しモノにされたんだよッ‼ ボクは大嫌いな祖父さんと似たような真似をやっちまったんだよッ‼」
「で……結局、お前の祖父さん、何やったの?」
「だから、文庫で一〇〇〇ページ以上で判らない?」
「判らない」
「その小説、何度も映画やドラマになってるけど……小説全体じゃなくて、一部だけなんだよ……。で、俺の祖父さんが知ってたのは、原作全体じゃなくて、映画やドラマになったほんの一部だけだったんだよっ‼」
「だから、お前の名前の元になった『なろう系』の主人公みたいな時代劇のキャラって……どんな奴だったんだ?」
「『(笑)』が付くタイプの主人公」
「……今、何て言った? なろう系の典型パターンみたいな……『イケメンで強くて女にモテモテ』の奴が……何で、そうなる?」
「主人公って言ってるだけの……単なるナレーター‼ 単なる説明役‼ その『主人公』が居ても居なくても……話の大きな流れは変んないよ〜な奴ッ‼」
「あ……なるほど……」
「最後は、夢も希望も全部無くして自殺した、ってオチっ‼ あの糞ジジイ……僕に……よりにもよって……元祖『主人公(笑)』の名前を付けやがったんだッ‼ クソっ‼ クソっ‼ クソっ‼ クソっ‼」
ちくしょう……ボケて寝た切りになって……僕の一家を無茶苦茶にしただけじゃなくて……ああああああ……あの世に行ったら、まずは、あの糞ジジイを殺してやるぅ〜ッ‼