(2)
「ゆ……勇者様はオラの命の恩人だ……。一生、勇者様に忠誠を誓いますだ。何でも言い付けて下せ〜ませ〜♥」
やめてくれ……。
何だ、これ?
ナーロッパ系異世界転生モノだったら、女の子にこう言われるのが定番だろ?
けど……。
僕の前に跪いて……しかも、僕の靴をペロペロ舐めてるのは……男。
ただの男じゃない。
金髪碧眼の白人だって以外は、前世の僕の自分でも嫌だった部分を煮詰めたよ〜な……僕の劣化コピー。
「と……とりあえず……君達は、何で、この一行を襲ったの?」
「ああ……オラは嫌だったんですが……ウェ〜イどもの命令で……」
「ウェ〜イ?」
「ああ……すんませんだ。人間は……オラ達オダグ族と、あいつらウェ〜イ族の区別が付かん事を忘れとりましただ」
「人間? 君達は……人間じゃないの?」
僕の劣化コピーみたいな白人は……一瞬、ポカ〜ン……。
そして……。
「ま……まさか、勇者様は転生者様なんでしょか?」
「え……えっと……多分……」
「あの……別の世界には……白い肌の人間が居るちゅ〜のは本当なんでしょか?」
「ああ、そうだよ」
「その……別の世界の白い肌の人間は……普通の人間と同じよ〜な暮しをしとるんでしょか?」
「う……うん……大体同じかな?」
「普通の人間から……例えば、酷い目に合わされたりは……」
「無いよ」
「町中に住んどる白い肌の人間が……地震とかが起きる度に『井戸に毒入れとっただ』とか言われて、普通の人間に火炙りにされたりとかも、無かとでしょか?」
「無い、無い、無い、無い」
「はぁ……オラ達『ウルク』にしてみりゃ、天国みて〜な世界じゃ……。転生者様、オラも、その天国に連れてってくだせ〜」
「でも、帰る方法が……。あと、さっき、自分の事をオダグ族とか言ってたけど、えっと、オダグ族とウルクってのは同じモノなの?」
「人間に似とるけど、肌が白くて、髪や目も明るか色の者は……この世界では『ウルク』って呼ばれとりますだ。で、戦士の部族が『ウェ〜イ』、オラ達、魔法使いや神官の部族が『オダグ』……そして……あの御方達の部族が……」
そう言って、自称「オダグ族」は……黒いブルカみたいなモノを被った小柄な奴を指差した。
「巫女の部族ですだ」
「巫女?」
「人間の言葉に翻訳すと『巫女』と『聖女』の両方の意味が有りますだ。偉大なる大地母神様に選ばれた聖女様と、その聖女様にお仕えしたり、新しい聖女様をお育てする役目の女達の部族ですだ。そして、その方は、今の時代の聖女様ですだ」
「あ……ああ、なるほどね」
そう言って、僕は……そのブルカを着た奴に近付き……。
「あああ……勇者様、いけませんだ」
「えっ?」
「申し訳ありません。私達『巫女の部族』の者は……他のウルク族に比べても肌や目の色が薄く……日の光に弱いのです。日が暮れるまで、この被り物を取るのは御容赦下さい」
「あ……ああ、そう……」
突然、ブルカの中から声がした……。
端的に言えば、アニメ声の幼女声だ。
「でへへ……夜になってからのお楽しみですだ」
おい、この下衆野郎、マジで僕の暗黒面の化身か何かか?
「転生者様……貴方様が、ここに来たのは偉大なる大地母神様のお導きに違いありません」
「えっ?」
「どうか……我々、白き肌の民をお救い下さい」