(5)
サイコ女は、自称・画家に近付いてゆく。
「お……おのれ……こんなポリコレが許されていいのかッ? 女がヒーローで、男の私が悪役だとッ?」
「あ……の……どこが『ポリコレ』? いや、僕、あんたも、そいつも嫌いだけど、その女の方が、どう考えても、より極悪じゃないかッ⁉ ただ、悪人が2人居る内、極悪な方が勝ちそうなだけで。あと、何で、白人差別に加担してるあんたが、何で、ポリコレを悪い事みたいに言うんだッ?」
僕は、自称・画家に当然のツッコミ。
「阿呆かッ‼ 元の世界みたいに白人が最も優れた人種の世界では……有色人種が主人公になるのがポリコレで、ここのような白人が劣等民族の世界では、白人や、それに加担してる奴が勝つのがポリコレに決ってるだろ。そして、女が男を圧倒的な力でブチのめすのは……どこの世界でもポリコレだッ‼ 男の助け無しに男をブチのめす女なんて、全部ポリコレで表現規制ッ‼ そして、現状維持以外のあらゆる思想は全部ポリコレ、わかったかッ‼」
え……でも……あれ?
ここはポリコレ配慮世界じゃなくて……ポリコレ逆転世界なだけなのか?
元の世界での狂気が、この世界では正気になり、元の世界での正気が、この世界では狂気になるって事?
えと……ちょっと待って、何が、どうなって……ポリコレ配慮世界とポリコレ逆転世界は何が違うんだ? 元の世界でも、何かとんでもない事が起きて、有色人種が優れた人種の多数派で権力を持ってる側になって、白人が差別される側になったら、今、僕がポリコレだと思ってるモノは、アンチ・ポリコレになるって事……わかんない、わかんない……わか……。
「あ……あの……指導者……。今、何て言いました?」
「今……白人って言いました?」
「あっ……」
自称・画家の部下らしい白頭巾達が、何からツッコメばいいか判んないような指摘。
わかった、わかった、わかった。ここの世界のポリコレが何かとか、そもそも、僕はポリコレってモノについて誤解してたんじゃないのかとか考えるのは後回しだ。前世でも学校の成績は良くなかったし。
でも、これだけは言える。
おい、白人を白人って呼んだら、失言になるって、どう云う世界だよ?
ここは、ポリコレがど〜のこ〜の関係なく、単に狂った世界だ。
「まぁ、いいや。あんたの『固有能力』が何か知ってるよ。絵の具の色に応じた……えっと『属性』だっけの攻撃魔法を使う事だろ?」
「それを知って、私に近付くとは無謀……」
「で、絵の具、どこ?」
「えっ?……あっ……」
爆発の衝撃で……自称・画家は、絵の具が並んだパレットを手放してしまってた。
「お探しのモノはこれかな?」
サイコ女は……いつの間にか拾っていた自称・画家のパレットを見せて……そして遠くへ放り投げる。
「馬鹿め……絵の具はまだ……ぎゃあッ‼」
ズブリ……。
サイコ女の指が、自称・画家の目をえぐる。
そして……サイコ女は……何かヤバそうな感じの……心臓を焼けだの、目をど〜こ〜だの、女を○せだの、そんな内容の英語の歌を楽しげに歌っている。
「いやね……あんたの『固有能力』を知った時に、まず思ったのが、色の区別が付かなくなる毒薬を、あんたの目にブッかけたら面白いだろ〜な〜って事だったんだけど……元の世界の知識にアクセスしても、そんな毒薬作る方法見付かんなくて、まぁ、理論上は作れても、この世界じゃあ、材料が無さそうなんで、もっと手軽だけど面白さはイマイチの方法を使わせてもらったよ。私のミスだ。すまないね」
「ふ……ふざけるな……『元の世界の知識にアクセスする』だと? そんなチートにも程が有る固有能力……」
サイコ女は、溜息をつく。
「ま、あんた『色彩豊かな絵の具を並べたパレットと筆洗いのバケツ』の喩えが好きだそうだけど……残念だね。どんなに色彩豊かな絵の具を並べたパレットが有っても、今のあんたには、色の区別が出来ない。それどころか、パレットとバケツの区別が付くかも怪しいな」
「うが……うが……うが……」
「でもな、どんなに人生がお先真っ暗に思えても……いつかは終りが来る」
サイコ女は、自称・画家の背後に回り込み……そして……。
グサ。
グサ。
グサ。
グサグサグサグサグサ……。
そして、自称・画家の胸や腹を、背後から、めったやたらにナイフで突き刺す。
あ……Y**t*beに転がってた何かの映画のシーンで観た事有る……こんな感じの……。
殺す気だ……それも……自称・画家はなるべく苦しませた上で死なせ……この場に居る他の奴らには……恐怖を与えるような殺し方。
「私は、欠点だらけの人間だってのは、自分で判ってる。けど、嘘だけは吐かない。ほら、言った通りだろ。お先真っ暗に思えても、いつかは終りが来る。見ての通り、暗黒に閉ざされた、あんたの人生が、早速、終った。……あ、目が見えなくなった奴に『見ての通り』なんて言うのは……イマイチ受けない? すまないね、ギャグのセンスもあんまり無くて」
……シぃ〜ン……。
余りの事態に……僕も聖女様も……白頭巾達も……頭が真っ白になって、当然やるべき事が出来なくなっていた。
逃げる事を忘れていた。
って……あ、スナガの野郎だけ逃げやがった。
あいつの事嫌いだったけど、こんな時に、あいつが消えても、うれしくないよ。
「おい、頭巾で見えないけど、お前ら、私の事を頭のおかしい人殺しでも見るような目で見てないか? 私は、これでも、他人にどう見られてるかを気にする性格なんだ……。正直に私をどう思ってるか言ってくれ……。お前らの新しい指導者は誰だ?」
お……おい……この状況で……何を訊いてる……。
白頭巾達もお互いに顔を見合せ……。
「答えろ」
静かな……でも、威圧感たっぷりの声。
「はいっ‼ 貴方様ですッ‼」
「その通りですッ‼」
「万歳、万歳、万々歳ッ‼ 新しい指導者、万々歳ッ‼」
「なるほど……現にこうだから以外の正義を持たない現実主義者の皆様か……。まぁ、私は嫌いなタイプだが……使い道は無いでも無いな……奴隷だけどね。政治家や高級官僚や偉い軍人さんに成ったら、下手に有能であればあるほど、国を滅ぼして、国民を殺すタイプの奴らだし……増え過ぎたらゴキブリみたいに社会を汚染する害虫だが……悲しい事にどこかで妥協って奴が必要だしな……おい、マヌケども……その男と女を捕えろ。ただし、私は、そいつらを生きたまま切り刻む日が来るのを楽しみにしてたんだ。その楽しみを少しても減らした奴は……ましてや台無しにした奴は、そいつも切り刻む。どんなに死にたくても自分一人では自殺すら出来ない体にした上で生かし続ける。それが嫌なら……なるべく無傷で拘束しろ」
クソ……しまった……。
サイコ女は……大袈裟な身振りで、まるで勝利を確信したかのように楽しげに英語の歌を歌っていた……。




