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残雪  作者: ひめりんご
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1話

 長くこの地に君臨していた冬の女王は、今年は少し早くその座を退くことに決めたようだ。ルフィーナ共和国の冬は厳しい。冬の女王は肌に突き刺すほどに冷たい冷気の香水を纏い、氷と雪でその身を覆う姿はまるで花嫁の如き静寂な美しさだった。  


 湿地や沼、道路の全てが冬の女王の高貴なヴェールに覆われ、見えなくなってしまう。はあ、と吐き出す息にまで冬の精霊が住み着いているのか白い。しかし、そんな長く厳しい冬ももう終わる。薪割りの音が春の訪れを告げるように響いた。 


 冬の女王と入れ代わるように現れた春の王女が暖かい息吹をうっすらとした雪化粧が残る大地に吹きかけ、雪解けにより地はぬかるんではいるものの、本来の色彩を取り戻しつつある。


 なだらかな丘の上に姿を現したのは、色素の薄い春の木漏れ日のような金髪に氷った湖のような碧い瞳をした少女だ。名前はリリャ。清廉な花の名前を与えられし、可憐な少女だ。彼女が笑えばそこがぱっと明るくなり花が咲くような、まるで春の妖精の如き、魅力を持った少女だがその瞳には苛烈とも言える情熱に燃える炎を宿した冬の湖の瞳を持っていることに気付くだろう。


 まるで春と冬が同居しているような、冬から春への移行期間とも言える今の時期を一人で体現したかのような少女だった、


 彼女は長い髪を後ろで一つのおさげに結い、はみ出した後毛を耳にかけた。彼女の近くでまだ生えたての牧草を食む羊の群れをぼんやりと眺めていた。眺めている先には彼女の村がある。同じようにペイントされた家屋が立ち並ぶだけの簡素で小さな村だ。


 「早く、こんな村出ていきたいなぁ」


 リリャは年頃の少女が抱えるありきたりな悩みを抱えていた。こんな田舎から早く飛び出したいという願望が、彼女の瞳を燃やしているのかも知れなかった。人の数より家畜の方が多い村だなんて、とリリャはため息をつく。その時、リリャの足元で草を食んでいた羊が「ベエ」と同意するように鳴いた。


 「そうだよね、お前もこんな狭い村出ていきたいよね」


 返事をしたわけではないだろうに、リリャは微笑んで柔らかい毛を撫でた。この穏やかな気性の草食動物は、柔らかな毛皮を持っており、この村の大事な資源である。この厳しい冬、羊たちは小屋で干し草ばかりを食べさせられていたのだから新鮮な春の匂いがする草を食べられて満足だろう。


 あらかた、羊に草を食べさせ終わるとリリャは羊たちを連れて村へと戻った。流れる川の音と水車の音、そして粉挽きの音に耳を傾けながら思わず鼻歌が漏れる。春になったというささやかな活気が村全体を満たしていた。


 羊の全てを柵の中に押し込めた時、後ろから熊のようにのっしのっしと歩く足音が聞こえた。


 「父さん!」


 その足音を聞いてリリャはその人物に駆け寄った。毛皮の外套を纏い、皮のブーツを履いた父の姿がそこにはあった。背中には二つの猟銃が下げられている。その姿を見た時、リリャは先程までの羊のような暖かい気持ちではなく狩人のような気持ちに切り替わった。


 「リリャ、狩りの時間だ」


 父はそう短く告げ、リリャに猟銃を渡すと背中でついて来いと言っているかのようだった。リリャも銃を担いで、慌てて父につい行く。


 「イーゴリさん、リリャちゃんも。こんにちは」


 近所のお爺さんが挨拶をした。リリャは咄嗟に父の影に隠れる。人見知りというわけではない。ただこの猟銃を担いでいる姿を見られたくはなかった。おじいさんではない。彼は幼馴染のイリヤの祖父だからだ。彼がいるということはつまり、近くにイリヤがいる。


 「リリャ! イーゴリさんもこんにちは」


 爽やかな笑みを浮かべながらこちらに走ってきたのはリリャの予想通り、幼馴染のイリヤだった。リリャはイリヤを見ると顔を赤く染めてそっぽを向いた。


 恥ずかしかった。思わず猟銃を隠したかったがリリャの背丈で隠せるはずもない。こんな狩りをする姿は可愛らしい女の子という姿からかけ離れている。そんな姿をイリヤだけには見られたくなかった。


 イリヤは少し癖のある茶髪に鼻先に散ったそばかすが特徴的な青年だった。優しく温厚で、陽だまりのような人だとリリャは思っている。

 昔は女の子みたいで、リリャよりも背が低かったことによりよく揶揄っていた。暴力的なことも大嫌いで、村の男の子たちが戦争ごっこをし出すとその輪から外れ女の子たちとおままごとをするような子だった。


 イリヤは村を流れる小川を挟んで向かい側に住んでいる。二階の自室から丁度イリヤの部屋が見えるので、よく昔は手を振ったりしていた。しかし、最近リリャは恥ずかしくてカーテンをイリヤの部屋側だけぴしゃりと閉めてしまっている。

 

 イリヤの家は代々羊毛を染め、織物に加工する仕事を生業としており彼もその家業を継ぐことが決まっていた。イリヤの指先はいつも染め汁で黒ずんでいる。いつか、彼と結婚したらリリャの指先も黒くなるのだろうかと、ふと思った。


 村で唯一の同い年の二人は、なぜか昔から許嫁のように扱われることが多々あった。イリヤは否定はしないので、リリャはもしかしたらという淡い期待を胸に抱いていた。


 「じゃあ、また学校で」


 学校とは隣村にある粗末な学舎のことで、国が掲げた統一教育によってこんな田舎でも教育が受けられるらようになった。そうでなければリリャは自分の名前すら読めず、学のない貧農の娘として生涯を終えていたことだろう。


 猟銃を持つ姿が恥ずかしいという意識に囚われていたリリャだったが、イリヤはそんなことには触れず手を振って去っていく。リリャは張り詰めていた息を吐いた。


 大丈夫だった…ということだろうか。父は猟銃を持っている姿を見られたくないというリリャの乙女心をわかってくれない。


 「今年は越冬した鹿が多い。それに羆の目撃情報もある」


 父の言葉を聞いたとき、リリャはぴしりと背筋が伸びた。鹿の食害によって村は苦しめられているし、羆は家畜を食べてしまう。村の人が目撃するほどに村まで降りてきているのならば、仕留めなくてはならなかった。


 リリャは重い猟銃を背負い直す。嫌だ、嫌だと文句を言いながらもやるしかない。山に入ったら、狩るか狩られるかの世界だ。




******




 視界に一匹の鹿が現れる。距離にして百メートルほど。このくらいの距離で父ならば外すはずがない。しかし、今銃を構えているのはリリャだけだった。


 「やってみろ」


 そう言うだけで父は本当に見ているだけのようだ。視界の先には枝葉が少しあるくらいで大きな障害物はない。ほぼ無風。父にとっては簡単な条件だろう。


 リリャは狙いを定めた。息を止めて、引き金を引く。


 「外れた!」


 思わず声に出していた。鹿には当たりはしたのだが一発で仕留められることはなく、鹿は血を流しながら駆けて行く。


 「追いかけるぞ」


 父の声に、リリャは立ち上がる。まだ山の中には雪が残っていて、寝そべっていたため外套が濡れていた。雪上には鹿が流したのであろう血の痕跡が残っていた。そのため、足跡も見つけやすい。

 

 しばらく鹿の跡を追っていた。最初の地点からかなり離れた場所で鹿は力尽きたのか蹲っている。血はどんどん広がっていた。雪が残る茂みからリリャたちはその様子を伺っていた。


 「リリャ、わかるな」


 「苦しませずに、トドメを刺すんでしょ」


 わかってる、と返しながらリリャは銃をそっと構えて狙いを定める。苦しめないようにという思いが頭の中を占めていた。自分が一発で仕留められていれば。その時、背中にぽん、と何かが当たった。人の手の質量だ。

 

 父がリリャの背中に手を置いたのだ。


 「考えるな。狙いがずれる」


 父はリリャが何を考えていたのかお見通しだったようだ。意識的に頭の中を空にするといい芸当はリリャにはできない。ただ目の前の獲物に集中するだけだ。


 距離は百二十メートルほどか。先程より距離は広がったがもう外すことはない。鹿は弱っている。引き金を引くと、鹿は頭をがっくりと落とし最後の足掻きのようにぴくぴくと動いたがやがて動かなくなった。

 

 リリャは鹿の側まで残雪を踏みしめながら駆けていく。残雪の上には血が残り、冬の女王の雪のような肌に紅を引いたみたいだった。

 

 鹿の体は橇に乗せて運搬する。父が前で引っ張り、リリャが後ろから押す。まだ雪が残っている地面を橇はするすると降っていった。橇を引く父の姿をぼんやりと眺めながら、リリャは今日は鹿肉が食べられると思った。


 その時、うなじに冷たい息を吹きかけられたような感覚に襲われた。視界の隅っこに黒い毛皮のようなものが見えた。汗が吹き出す。


 「父さん、羆だ」


 小さな声で父を呼ぶ。人喰いの羆に出会ったことはなかったが、リリャはそれが人喰い羆であるように思えてならなかった。人は食ってはいなくとも家畜を食って味を覚えたのは確かなのだ。


 鹿の血の匂いに釣られたのだろうか。それともリリャたちが鹿を追いかけるうちに羆のテリトリーに入ってしまったのだろうか。春が訪れたとはいえ山はまだ冬のようだ。冬眠できなかった羆が徘徊していたのだろうか。


 今すぐに鹿を置いてでも逃げ出したかった。しかし羆を目の前にして走って逃げるのは愚策もいいところだ。自ら死ににいくようなもの。


 体が固まってしまってリリャは動けなかった。父の息を呑む音が聞こえた。その瞬間、羆はこちらに向かって走ってくる。気づかれてしまったのだ。


 銃を構える。しかし、羆はその間に距離を縮めていた。狙いを定める。その間に羆との距離は目と鼻の先になっていた。引き金は引けなかった。その前に体が死んでしまうと思ったからだろう。


 バシュン、と一発の銃声が聞こえたかと思うと父が引き金を引いていた。リリャはいつの間に父が銃を構えたのだろうと思っていた。弾は羆の目を貫通し、脳にまで届いているようだった。

 羆は撃たれても数十歩歩くと、倒れた。少しでも撃つのが遅かったら、リリャたちは羆の爪で体を割かれていただろう。


 息をすることすら、忘れていた。リリャはしばらくはうまく呼吸できなかった。


 「父さん、父さん!」


 小さな子供みたいに父に抱きついた。


 「凄い、羆を一発で倒しちゃうなんて」


 父はリリャの頭を撫でた。リリャが取り乱して大声を上げなかっただけ上出来と言いたいようだ。リリャは動けなかった自分を恥じた。もし、父がいない時に羆に遭遇していたらと考えると恐ろしい。次は自分でやらなくては。


 とりあえず、羆をどうすればいいか話し合った。そして鹿を村に持って行ったあと、村の男総出で回収しにくることになった。羆は毛皮も肉も使えるのだから、ここに放置したままなのは勿体無い。


 きっと村の皆は家畜を脅かす羆が退治されて喜ぶだろうとリリャは思った。そして、父は感謝されるだろう。それが誇らしかった。父は口下手なところがあり、よく誤解されるので村の皆から好かれるのは嬉しいことだ。


 その日は村全体が宴のように賑わった。羆の運搬を手伝った男たちを労うために羆の肉と鹿肉が振る舞われた。余った分は加工して保存される。まるで春の祝祭みたいな日だった。


 大人は皆、酒を飲んで歌ってそれに釣られて子供であるリリャも嬉しくなった。そして楽しい気分のまま寝床についた。


 夜明け前だった。

 

 異様な予感によってリリャはベッドから飛び起きた。車のエンジン音がする。こんな田舎にあるのは農耕用のトラクターくらいであとは馬車なんかで移動するほどだ。こんなエンジン音は聞いたことがなかった。


 父と母がリリャの部屋に飛び込んできた。母の手には外套が握られている。


 「リリャ! 起きろ、今すぐ森へ逃げるんだ」


 父が見たことないほどに焦っているのにリリャは驚いた。普段は冷静な父がここまで取り乱すなんて。まだ酒でも入っているのだろうか、と呑気なことを考えるには外の様子がおかしかった。一階に降りると、玄関が乱暴に蹴られている音がした。誰かが入ってくるのだ。村の人たちはこんなことしない。ただノックするだけだ。


 父は壁にかけてあった猟銃を手に取り、玄関の扉に向けて構えた。「何をしているの?」と問うこともできなかった。父はいまから侵入者を迎え撃つのだ。


 「ただではくたばらん! アンナ、リリャを連れて裏口から逃げるんだ」


 リリャは訳が分からなかったが強く母に引っ張られ、裏口から這い出るように外へ出た。靴紐だって結べていないし外套も引っ掛けるだけのようになっている。春が訪れたとはいえまだ寒い。それなのに母はリリャの分だけしか外套を持ってきておらず、自身は裸足だった。このままでは凍傷になってしまうことは容易に想像がついた。


 「母さん!」


 リリャはそのことを言おうとしたが、母はそんなことなどどうでもいいというようにリリャを引っ張った。村の裏手に広がる山林に身を隠そうとした時だった。


 「伏せて」


 母親がリリャを突き飛ばすような形で地面に伏せさせる。顔に雪が溶けたものと泥が混ざったものが付着した。それすら気にならないほどにリリャは耳を研ぎ澄ませていた。しばらくずっと動かずにいた。複数人の足音がこちらに近づいてくる。暗闇の中から姿を表したのは見慣れない制服を着た男たちだった。銃を持ち兵隊のように見える。


 この村は国境付近の村だ。敵が攻めてきたら真っ先にたどり着く場所にある。あの制服はルフィーナ軍のものではなかった。そこから導き出される答えにリリャは愕然とした。今、村は敵に襲われているのだ。


 母はリリャの方をずっと抱きしめていた。痛いくらいだったが、リリャはじっとしていた。母の手が震えていることがわかったから。


 敵の足音は不意に止まる。気づかれたのかとそっと顔を上げるとそこにはこちらに向けられた銃口があった。リリャたちに銃口を向けた兵士は三日月のように口の端を吊り上がらせた。


 「両手を頭の後ろで組め」


 撃たれるかもしれない、その恐怖からリリャと母は兵士の指示に従った。しかし、次の瞬間ズドンと一発の弾が何かにめり込む音がした。リリャが恐る恐る隣を見ると母親がうつ伏せのまま血を流して死んでいた。


 言う通りにしたのに!


 そんな思いは口には出さなかった。今すぐ母さん、母さん! と叫んで母親を抱き起こしたいのに次に撃たれるのは自分だと思ったらリリャは動けなかった。


 「どうして…」


 リリャは小さな声でつぶやいた。それが兵士の怒りを買ってしまうかもと言う思考は何処か遠くへ行ってしまっていた。その小さな音を拾ったのか兵士の一人が下卑た笑いを漏らす。


 「ばばあじゃ楽しめないだろ? ほら、立て」


 兵士に蹴りを入れられながら、リリャはゆっくり立ち上がった。誰でもいいからこの悪魔みたいな兵士たちの喉元に噛みついて引きちぎってやりたかった。


 村の広場にリリャは連れて行かれた。ほぼ全員の村人が脅されて一列に並べられていた。何人かの姿が見えない。もちろん、父の姿も見えなかった。


 兵士の中の隊長格らしき男がリリャを一瞥すると、連れて行けと顎で指示する。リリャは銃口で突かれながら兵士たちに連れられ一件の家の中へと入った。奇しくもそこはリリャの家だった。


 家の中に入ると何とかもが記憶と違うことを感じさせた。まず、家の中が荒らされ、兵士たちが居座っていた。そして、居間の隅に先程の広場では見なかった数人の姿を確認する。全員妙齢の女で、不自然に手足が曲がったまま床の上に放置されている。まるで壊れた人形のようだった。

 

 全身の衣服を剥ぎ取られ、頭と足の間から出血している。その姿を見てリリャは恐ろしくなった。次は、自分の番だ。


 「おいおい、もう死んじまったのか? 早すぎるだろ」


 「一人が泡吹いて死んじまったんだよ。仕方がないだろ」


 女の裸の死体には凄惨な暴行の痕が残っていた。それを何でもないように悪魔のような所業を平然と、兵士たちは武勇伝のように語っていた。


 「新しいやつは長く楽しみたいな」


 絡みつくような視線がリリャに注がれた。


 「ちょっと幼すぎないか?」


 「あとは、ばばあばっかだったぞ」


 机の上には略奪された食料が宴会のように広げられていた。外では家畜がトラックに全て載せられている。


 リリャは頭を頰を腹を殴られて、床に叩きつけられる。その上から男が乗っかってきてはまた身体中を殴りつけた。床に倒れた時、リリャは死体と目が合った。暴行された女たちではない。気づかなかったが、床には父が血を流して目を見開いたまま死んでいた。


 リリャは長く楽しめるようにと手加減されながらも、他の女たちと同じく凄惨な暴行を受けた。それがもう死んでいるとはいえ、父の目の前で行われたことが屈辱だった。


 外では銃声が雨のように鳴り響いていた。広場に集められた村人たちは全員殺されたのだろう。


 父さん、母さん、助けて。もう死んでいるとわかっているのにリリャはずっと父と母を心の中で呼び続けた。暴行は一晩中、続いた。時間の感覚はなくなっていったが、気づけば外は明るくなっていた。


 身体中、もう殴られていないところはないと言うほど痣だらけだったし、骨が折れている箇所もあるのかもしれなかった。兵士たちは代わる代わるリリャを痛めつけ、泣き叫べば「黙れ、薄汚い豚娘が!」と顔を殴られた。


 リリャは自身の尊厳を踏み躙って行った奴ら全員を噛み殺してやりたかった。獣のように肉を食いちぎり、原型も残らぬほど荒らして、羆が食い散らかしたみたいにしてやりたい。そんな願いは叶うはずもなかった。


 襤褸雑巾のようになったリリャはトラックの荷台に押し込められた。もしかすると村を襲撃した虐殺部隊に売春婦として帯同し、辱めを受け続けなければならないのかもしれない。それはリリャを暗澹たる気持ちにさせた。


 どうして、自分だけ生き残っているのだろう。いっそのこと殺してくれればよかったのに。リリャは疲れを癒すように目を閉じた。まだ生きているならば、また暴行される前に少しでも休みたかった。


 村を出て行きたいと思っていた。漠然と都会に憧れていた。でも、だからといってこんな形で村を去ることになるなんて思いもよらなかった。


 もし、生まれ変われるならば綺麗な体に生まれたい。あざ一つない労働を知らぬ滑らかな肌に。リリャはそう願って奥歯を噛み締めた。殺意が胸の中に湧き上がるのを感じていた。

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