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9話 なんだか反響がハンパないらしい

初めてのモデル撮影を終えての休日明け、俺は今日も眠い目を擦りながら起床した。勢いよく叩きすぎてベッドから落ちている目覚ましを拾いながらベッドから出る。


「おはよう!お兄ちゃん!今日もギリギリ起きてこれたね、もう少し遅かったら起こしに行くところだったよ。」


リビングへ降りると柚が朝食を作ってくれていた。俺たちはだいたい二人で暮らしているため朝食は柚が作ってくれることが多い。いつもならパンを焼いたやつか、卵かけご飯なのだが今日は気合いが入っている。


「今日って誰かの誕生日かなんかだっけ…?すごくね?ちょー豪華じゃん!言ってくれたらもっと早く起きてきて手伝ったのにー。」


「ううん、気にしないで。んーお兄ちゃんへのお祝い…かな!」


そう言って笑顔でみそ汁を作っている柚には感謝しかない。


「うーん!美味い!朝からこんなに美味い食事ができるなんて…なんのお祝いなのかな?」


ここまで好待遇だと逆に不安になってくるんだよね。とはいえほんとに美味いな…学校行くのやんなるよ。


「あー…お兄ちゃんあんまりネット見ないもんね…今どき珍しく。お母さんの会社のSNSにね、お兄ちゃんのモデルの写真が上げられたんだけど、それがもう大好評だったの!雑誌の発売日も決まってえ、予約も結構すごいって聞いたよ!」


うーん…そう言われてもいまいちピンとこない。ていうかなんか俺より詳しくない?


俺たちは一緒に食器を洗いつつもう一度その話をする。


「すごい反響なんだよ?お兄ちゃんこれからはちゃんと変装して過ごさなきゃいけなくなるかもねー!」


柚は嬉々としてそう話す。そんな変装しなきゃいけないような生活嫌だよ…!


「そしたらお前も俺の妹としてデビューしろよ…。一緒に表紙を飾ろうな!」


「やだよ!私はお兄ちゃんを見てるくらいでちょうどいいんだから!それにお兄ちゃんと並べられたら流石に自信ないよ…。あ、でも普段のダサいお兄ちゃんとならいいよ。」


「ほんとに余計なことばっか言いやがって…。でも俺柚が一緒にいてくれないと…一人で撮影なんて無理だよ?緊張するし。」


これには柚ちゃんも好感触だ。これは間違いなく多分来てくれるな…!正直一人であの空間にいるの気まずいんだよねー。


優雅な食事を終えて、俺たちは二人とも普通に学校があるので慌てて準備をする。


「じゃあ私先出るからね!お兄ちゃん、ちゃんと鍵閉めてよ?あ、あと帰り遅くなる時は連絡してね!」


最近柚は母さんより俺の母親みたいになってきたところがある気がする。こんなに頼もしい妹がいて俺は幸せだよ。


ーー


俺はなんとか時間ギリギリに薫との待ち合わせに間に合った。


「あー…ごめん、ちょっと休ませて…。」


なんとか間に合ったものの急ぎすぎて息切れがやばい…。


「いいけどあんまりゆっくりはできないよ?今日は早めに行ったほうがいいと思うんだよね…。」


薫は冷ややかな目線を向けてくる。なんだか最近みんなこんな感じだ。


「見たよ、葵の写真。おばさんのとこの会社のSNSに上がってたやつ。すっごいバズってたね、僕もちょっとときめきそうだったもん。女の子たちなんて大盛り上がりしてると思うよ。」


学校まで後少しというタイミングで薫がそんなことを言い出す。たしかに言われてみれば登校中に制服を着た子たちとすれ違うといつもよりも視線を感じる気もする。


「柚にも言われたよ、お祝いだって。けど俺はいまいち分からないんだよねえ…。まぁ肝心の雑誌が売れて会社の経営がうまくいってくれるといいんだけど…。」


「はは、多分それは大丈夫だよ、絶対売れると思うもん。」


無責任だなあ…



ーー


心なしか普段より多めの視線を感じつつ教室に入る。一瞬だけクラスに沈黙が走った気がするけど…。


「おはよう、二人とも。…葵、見たよSNS。すごい反響だな…流石に俺もびっくりしたよ。」


席に着いて早々、瞬が話しかけてきてそう言う。優も喋りこそしないが何度も大きく頷いている。


「いや…俺あんまり分かんないんだけど、薫がからかってるわけじゃないのね。」


薫は心外そうな顔で俺を見ているけど、これはドッキリだと思っても仕方ないじゃん…!


「葵!私も見たよSNS、すごくない!?いつの間にこんなのやってたの?」


今度はクラスメイトの女子の円香が話しかけてくる。正直今日何回も聞かれすぎて面倒になってきた…。


「あー…もう何が何だか分かんないだよね…そっとしておいてくれる?」


「えーじゃあ今日お祝い会ってことでみんなでどっか行かない?他の女の子とか呼んだりしないからさ!クラスのメンバーだけで!」


薫の方をちらっと見ると首を横に振っているから参加するつもりはないんだろうな。


「あー、また今度にしてもらえるかな。お祝いって言ってもまだ雑誌も発売してないんだしさ。」


流石に他の人もこの後俺に同じ話をする人もいなかった。なんだか大変なことになっている気がする…。


その後は比較的穏やかに過ごせたものの発売後が今から憂鬱だな…。


放課後になって俺たちはまた四人でだらだらと喋っていると教室の隅にいた雪と目が合った。なんだか言いにくそうに口をぱくぱくしている。かわいいからこのまま見守っておこうか少し悩んだが、嫌われたくもない。


「あーごめん、俺ちょっと用あるから先抜けるわ。みんなまた明日!」


俺は教室を出て雪と合流する。


「ごめんね、雪ちゃん、話しかけにくかったでしょ?今度から雪からのメッセージはちゃんと通知来るようにしておくよ、やり方わかんないから柚に聞いて。」


「ううん大丈夫、気づいてくれてありがとね。そ、その…今日、時間大丈夫?ちょっとだけ…危なそうっていうか…軽く限界っていうか…。」


そう言われてみると確かに心なしか顔も赤いし、息づかいも荒い気がする。てかちょっとエロい…!


「…家まで我慢できそう?無理だったらまた屋上のとこになっちゃうけど…。」


「うう…家まで我慢する…今日は前より発作も弱い気がするから。」


そう言って俺の腕に掴まってくる。正直俺の方が家まで持つか不安なんだけど…。


流石に学校を出るまでは見られる危険があるとのことで、俺は雪の後ろについて歩いてついて行くことにした。


雪はほんとに辛いんだろうけど…モジモジしながら歩く後ろ姿がどことなくセクシーな感じがしてしまう。幸い他の男子は一度も通ることなく校門を出ることができたので俺はすぐさま雪に駆け寄ってみる。


「やっぱり学校の敷地出るまでも一緒に歩かない?一人で歩いてるのも心配っていうか…だめかな?」


雪は少しだけ考えて軽く睨むような目で俺を見てくる。


「人が来たらすぐ離れてくれる…?今の葵と二人でいたらまた変な噂になるもん…。」


そう言いつつも俺の腕に掴まって一緒に歩くことを拒否はしてこないから嬉しくなる。


「もちろん!約束するよ!良かったー、あんな様子で一人でいたら絶対声かけられちゃうから心配だったもん。」


それに俺は別に噂になってもいいのになーと思ってしまう。これに関しては雪が嫌がるからそんなこと言えないけどね。


「大変なのは葵の方なんだからね…。モデル、見たよ私も。すごくかっこよかったよ。でもだからこそこんなところ見られたら困るのは葵なんだよ…。」


「別に困らないよ。それに困る困らないとか関係なく雪が頼ってくれるならそれは俺にとって嬉しいことなんだから。」


その後なんとか無事に家まで着くことができた。俺は急いでドアを開けて雪を中に入れる。


「あー…ギリギリかな…?雪、大丈夫?」


どうやらこの発作というやつは時間が経つにつれて症状が増していくらしく、雪はかなりしんどそうだ。


「無理…もうこのままいい…?葵はじっとしててくれればいいから。」


俺が返事をする前に雪は俺に抱きついてくる。よほど辛かったのか腕を首、足を俺の腰のあたりに回して全身でしがみついてくるようだ。


「っ…!葵…!嫌じゃない…?さっきまで平気だったのに…ごめんね…。」


嫌じゃない、嫌じゃないんだけど…耳元で話されるのも、全身を委ねてくる様子なんかも全てが俺に刺さる。


「大丈夫、大丈夫だから謝らなくていいよ。その…別に誰もいないから声とかも気にしなくていいから…。」


余計なことを言ったかもしれない、雪は耳まで赤く染めて今度は俺の胸のあたりに顔を埋めてしまった。


「うるさい…?自分じゃ分からなくて…。静かにしようとは思ってるの…。」


俺は別に気にならないし、正直俺の関心はそこにはなかった。


「ねえ…俺が触ったら嫌…?あー…いや変な意味じゃないんだけど…。その…頭とかそういうのも触られるの嫌かなって…。」


「ううん、嫌じゃないよ。あ…でも家だけでなら…外はまだ怖いかも…。」


受け答えがいちいちエロいよ…!なんかどんどん俺まで変な気分になってくるよ…。


俺が頬を触るとはっきりわかるほどに熱くなっている。目も潤んでいるし、正直この姿を見れるのが自分だけであって欲しいと願わざるを得ない。そっと耳に触れてみると雪も大きく反応してしまう。


「っ…!み、耳はだめ…!せ、せめて触る時は触るって言ってから…!」


俺もダメだとは分かっているが、自分の中に嗜虐心的なものが込み上げてくる。


「だ、だめだって…!っ…!ねえ…葵聞いてる…?」


「もし雪ちゃんがどうしても嫌だったらやめるんだけど…だめ?」


「そ、それはずるいよ…嫌じゃないけど…。で、でも刺激が強いっていうか…。」


正直これ以上は自分でもよくない気がしている。それでも自分の腕の中で特に抵抗もしてこない姿と表情が可愛すぎて止められる気がしないのも事実なんだ。


「うー…じゃあ私がやっても文句ないよね…!」


そう言って突然雪が俺の耳を咥え始める。耳の中で唾の音がぴちゃぴちゃと鳴っているのが妙にくすぐったい。


「それはやばいって!雪…?雪ちゃん…!ストップストップ!」


俺は体勢を崩してソファに倒れ込む。

完全に雪が俺の上に馬乗りになって見下ろされる。下から見る姿に思わず目を奪われていると、玄関の方から音がした。


「ただいまー、お兄ちゃん帰ってきてるのー?」


柚がリビングの方へ向かってくる足音が聞こえる。


「雪!お前完全に変なスイッチ入ってるって!」


リビングのドアが開いて柚が入ってくる。俺はこの時の顔を一生忘れられないかもしれない。


柚に見られて冷静さを取り戻したのか、恥ずかしすぎて一周回ったのか分からないが雪も自分の状況が理解できたらしくようやく止まった。


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