6話 疎遠だった幼馴染はもしかしたらモテるかもしれないという話
休日に雪と買い物に行くという少し前までだったら考えられないような時間を過ごした。途中でハプニングもあったものの結果としてはより仲を深めることができたと思うし、ほとんどわだかまりのようなものもなくなったと言っていいと思う。
その日は俺も上機嫌だったらしく、帰宅後にも柚に何かあったのかと問い詰められるほどだった。
「お兄ちゃん!もう起きなきゃやばいよ!薫くん待たせたらだめでしょー?」
どうやらそろそろ時間らしく俺も準備をしなければならない。しかし俺にはベッドから出たくない理由がある。というのも昨日雪とぬいぐるみを買いに行った際に実は俺も一つ購入しているのだ。つい好奇心で買ったもののこれが意外に抱き心地がよくて離れがたい。これは雪が気に入ってしまうのがわかる。とはいえそろそろ準備をしなければならない。
俺は朝の準備を颯爽と終わらせて家を出た。いつものように薫と待ち合わせ場所で合流し学校へ向かう。
「ずいぶんと上機嫌だけど、雪と何かあったの?」
そこまで浮かれているつもりはなかったのだが薫の鋭い指摘を受ける。
「え、そんなに俺って分かりやすい?いやー昨日久々に二人で出かけたんだよ。もうすっかりわだかまりもなくなったと思うね!」
薫は冷ややかな目線を俺に向けてくるが、どこか嬉しそうでもある。
「まぁ二人が仲良くなるなら僕としては嬉しいよ。二人が疎遠になっちゃったの僕としても気にしてたからさ。」
小さい頃なんかは三人で遊んでいたこともあった。あの頃と同じに戻れることはないけど、それでもそのうち三人で過ごせるといいな。
「おはよう葵!今日の放課後カラオケなんてどう?アプリのクーポンが今日までなんだよ。それに今日午前で終わるらしいしさ。」
登校してすぐに瞬が話しかけてくる。
隣では優も喋りこそしないけど頷いているから二人は来れるんだろう。
「4人でなら僕はいいよ。女の子がいるカラオケって話ならパスだけど…。」
薫は不安そうにたずねる。たしかに俺もそれならパスだな。
「俺も男子だけなら行くよ。今日は特に予定もないし、フリータイムで行こうよ。」
「よしじゃあ決まりで!お前らとカラオケも久々だし、楽しみだよ。喉作っておくからな!」
それだけ言って嬉しそうに瞬は意気揚々と教室を出て行った。
これからホームルームだっていうのにどこに行くんだよ。
遊びに行く予定も決まり、その上午前で授業が終わるとなると全く授業には集中できなくなるのは当然の話だ。俺は一応雪に今日の体調を聞いておくことにする。授業中なので流石に返信は期待していなかったが、すぐに返ってくる。
『大丈夫。遠慮してるとかじゃなくてほんとに今日は調子良いの。』
『なら良かった!でももし我慢できそうにないとかだったらいつでも言ってね』
俺はメッセージを送った後に雪の方をちらっと見ると、彼女も俺の方を見ていたようで目が合う。すぐに逸らされてしまったもののこんなこともなかったので俺はシンプルに嬉しい。
授業も終え、帰りのホームルームも終わり、俺たちは男子4人で話している。食事だけ学校で済ませてから遊び行こうということになったからだ。そんな中雪の方を見ると向こうも友達と話しているようだった。
「ゆきー、みこちゃん、今日遊びに行かない?友達がさ!他校の男子を紹介してくれるんだって!まぁあんまり大きな声で言えないけどうちの男子は遊びにとか来ないじゃない?だから結構良い機会だと思うんだけど!」
そんな風に雪と雪の友達に話しかけているのは佐倉真里さん。クラスの中でも結構派手な子だけど、そこの交流があるのは正直意外だった。いやでも別に雪は俺と話さないだけで、コミュニケーションが苦手なわけでもないしな…。そして大きな声で言えないと言いながら俺に聞こえている。
「えっと…ごめんね。私たちあんまりそういうのは得意じゃないから…。それに今日は美琴と二人で出かける約束だし。」
断ってくれたことに内心ほっとする。いや別に行っちゃダメだと言うのも変な話だけど…。
「えーでも向こうの男子が二人のこと気に入ってるらしくてさ。二人が来てくれたら喜ぶと思うんだよね。ていうか二人が来るって前提ことで話進んじゃってて…今から来れないって言いにくいんだー。」
え、そんな強引な話あるの!?ていうかあんまり写真とかも勝手に見せるの良くないと思うなあ…!
「そう言われても困るよ。雪だってそういうのは行かないって佐倉さんも知ってるでしょ?」
「いやいや男の子との出会いの場だよ?確かに勝手にやったのは申し訳ないけどさー、来てくれるだけなら良くない?二人ともかわいいけどお高くとまってると彼氏もできないよ?」
俺はこっちの話が気になりすぎて男組の会話が全く頭に入ってこない。
「ちょっと俺トイレ行ってくるから戻ってきたらそろそろ移動しようぜ。」
瞬はそう言ってトイレに行ったが、内心どうでも良い。むしろこの話が終わるまでは移動をしたくない…!というか向こうの話が聞こえないから静かに行ってくれ…!
「じゃあみこちゃんは来なくても良いから雪だけは来てよ。ほんとに一瞬その場に来てくれるだけでいいから!その後はすぐ帰っていいからさ!」
絶対にそんなことはない。今度はもう少しだけを繰り返して帰りにくくなる。とはいえ押しが強いな…。
「雪無理に行かなくていいんだからね?」
美琴さんは止めているものの、雪も断われなさそうな様子でいる。
「…?葵どうしたの?急に立ち上がってさ。」
薫が不思議そうにたずねてくる。とはいえ俺も勢いで立ち上がっているから特に理由なんかはない。
「い、いやみんな飯も食い終わったし、瞬のカバン持ってってやろうよ。ここまで引き返してくるのも無駄だしさ。」
二人とも不思議そうな顔をしつつも納得してくれたのか移動を開始する。雪がなんて返事をするのか聞きたくなくて一度は教室を出たものの、やっぱり気になる…。
「二人ともちょっと先行っててよ。忘れ物しちゃったからさ、一回戻るわ!」
「え、ちょ!下駄箱のところで待ってるからね!」
薫が俺に向けてそう叫ぶので俺も手をあげて聞こえていることを示して教室に戻る。
俺が戻るともうすでに他の人も帰っていて教室には三人だけが残っていた。それでも雪はまだ行くと返事はしていないのか、下を向いたまま熱心な誘いを受けていた。
「ねえ、白坂さん。」
俺は雪が幼馴染とバレるのを嫌がっていたように見えたので名字で呼ぶ。
「は、はい!えっと…どうしたの…?」
雪も突然で驚いたのか慌てて俺を見上げる。他の二人も同じように驚いたのか特に何も言わずに俺を見ている。
「その…話が聞こえちゃって…遊びに行くの?他校の男子たちと…?」
少しだけ沈黙があった後に雪が答える。
「い、行かない!行かないよ!うん、絶対!」
必死に身振り手振りで伝えてくる雪が可愛くて俺も思わず笑ってしまいながらも安心した。
「よかったー!えっと…聞きたいことはそれだけだから、気をつけて帰りなよ…!」
俺もいまさらになって自分がらしくないことをしていることに気づいて恥ずかしくなる。みんなのところへ戻るまでにもう少しだけ心臓が落ち着いて欲しい。
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