★5話 幼馴染と休日デート!?
今回はヒロイン視点です
私、白坂雪はつい先日長年疎遠になっていた幼馴染と仲直りすることができた。疎遠になっていたきっかけはシンプルだ。葵は小さい頃から顔が整っていたが、中学生にもなれば異性として意識したり、恋愛についても活発になる。
ただでさえ少ない男の子の中でも一際人気のあった葵の幼馴染である私はいじめられこそしなかったが色々と面倒なこともあった。そんな中私と葵に関して良くない噂が流れたり、葵を中傷するような話まで聞こえてきた。そんなこともあり私たちは疎遠になっていたのだが…あの日の発作がきっかけで和解することができた。こんなことを思ってはいけないが、少しだけ病気になってよかったという気持ちもある。
そして今日私は何故か葵と遊びに来ている…!きっかけは本当に些細なことだった。
私たちはあの日以来連絡も取り合うようになったし、葵はたまに電話をくれるようになった。そしてきっかけは昨夜の何気ない会話。
『ほら、俺背伸びたじゃん。そしたらさ、着れる服ほんとに少なくなっちゃってさー。今は何種類かローテーションでどうにかしてたんだけど、柚からそろそろやめてって言われちゃって…。どこで買うのがいいかも分かんなくてさ。ほんとに困るよねー。』
『じ、じゃあ私が選んであげようか?…いや、別に無理にじゃないよ!もしよかったらなんだけど…。』
『え、まじ?嬉しいよ!さっそくだけどさ、明日って暇?俺来週はちょっと用事あるかもだからさ。」
その後はとんとん拍子に話が進んでいき、今日に至ります…!
家はすごい近所だけど、午前中は葵が無理そうだったのでお昼に駅前で待ち合わせをすることになり、現在私は少し早くについて待っているところである。少し遠くから一際注目を集める男の子が向かってくる。
「あ!雪ちゃん、ごめんね待った?先に着けると思ったんだけどなあー。」
悔しそうな顔をして葵が耳を触っている。正直イケメンすぎて私は自分が隣に立って釣り合うのかどうか不安になってくる。服も別に普通なのに、顔とスタイルが良すぎて完璧。
「全然、全然待ってないから大丈夫!私もたまたま午前中こっちの方に用があったから早かっただけ!」
緊張しすぎて上手く喋れているか不安になる。でも葵はニコニコしているからきっと不快にはさせていないだろう。
「雪ちゃんは今日ずいぶんとかわいい格好してるね。なんか私服見るのも久々で嬉しいよ。制服でも可愛いけど、やっぱり私服っていいよね…!」
しばらく距離があって忘れていたし、向こうも距離感を掴めなかったのかそんなこともなかったが、こういう人だった…!昔は私が髪を切ったりすればすぐに気づいて褒めてくれるから、私も嬉しくておしゃれを頑張ったりしていた。
「葵…なんか機嫌良くない?良いことでもあった?」
私がそう聞くと自分では全く気づいていなかったのか頬を押さえて逆に聞いてくる。いちいち仕草がかわいいな。
「え、そんなに変だった?いやーほんとは断られるんじゃないかなって思ってたんだ。でも雪が付き合ってくれて嬉しくってさー!」
嬉しそうに笑ってそう言うけれど、私は内心それどころじゃなかった。本人は深い意味なんてないのだろうけど、私は葵の言葉の一つ一つに意識しっぱなしだった。
私たちがお目当てのショッピングモールまで来ると早速服を見に行く。メンズの服は少ないためこういう大型の商業施設に来るのが一番だ。
「やっぱり俺すぐTシャツかパーカーにしちゃうなあ。そろそろ夏だしこれでもいい気がするけど…どうかな?」
葵が何種類かの服を持ってきては私の前で当てて見せてくれる。どんどん距離感も戻ってきたのか、かわいくなってきてると思う。正直好き…!
「どれも見合ってるとしか…夏だったらシャツ一枚とかでいいと思うしね。こっちとかどう?」
私が渡したものを嬉しそうに受け取る。こんな生物が目の前にいればそれは当然好きになると思うし、なんなら当たり前だけど中学の時よりも魅力を増している。ただ逆にここまでいくとそう易々とは手を出せない気もする。
私が提案した服や自分が気に入った服を次々に試着してはお披露目してくる。その中でも特に気に入ったものを全て買って満足そうに店を出た。
お昼ということもありフードコートで適当に食事を済ませている時にふと葵がたずねてくる。
「雪ちゃんは何か欲しいものとか必要なものはないの?」
「うーん…そんなにないんだよね…。あ、ぬいぐるみが欲しいかも…。」
絶対葵には言えない話だけど、発作が出たときはよく葵から昔もらったぬいぐるみを抱いて寝ている。というのも前に一度それを試してからやめられなくなっているのだ。まぁ優太に半分くらいバラされたようなものだけど…。
「よし、すぐに買いに行こう!」
私が欲しいぬいぐるみの種類なんかを説明すると場所を知っているらしく私の手を引いてどんどん進んでいく。
少し歩くと私たちの好きだった人気アニメの専門店があった。
私たちは懐かしくて思わず時間を忘れて楽しんでいた。私たちはあの頃よりももうとっくに大人になっているのに、それでも今だけはあの頃みたいな時間を過ごすことができた。私が欲しいのを決めてレジに持っていこうとすると葵が少しだけ照れくさそうに声をかける。
「その…今日のお礼も兼ねて俺からのプレゼントってことでどう?もし嫌じゃなかったらだけど…。仲直り記念的な…?」
私も最初は遠慮しようかと思ったけど、葵も珍しくぎこちない笑顔だから相当緊張していることが伝わってくる。
「ありがとう葵。じゃあお言葉に甘えてもいいかな?」
そう言うとぱっと明るく笑って颯爽とレジへ向かっていった。本人が嬉しそうだからいいけど、今日はずいぶんと買い物もしているしどこからそんなお金を得ているんだろうか…。
私は店の外で待っていると、ここで予期せぬ事態が起こった。今日一日、というよりここ数日は問題なく過ごせていたのにこんな日に限って症状が出た。いつもよりは少しマシだけどそれでも少しずつ悪化していく。
私は黙っていようと思ったのだが、葵は戻ってきてすぐに私の変化に気づいたのか心配そうに見つめてくる。
「大丈夫?えっと…うちまで持ちそう?」
私は大丈夫か分からないけどとにかく頷く。しかし葵にはバレているのかこれに関しては全く信じてもらえない。
「絶対安心とも言えないし、あんまり良くないんだけどさ…それでも大丈夫だったら…」
私自身このままここにいるのは耐えられそうにないのでとにかく葵の腕に掴まってついていくことにした。
着いた場所はこのビルの非常階段で滅多に人は通らないんだとか。
発作とそもそも葵のルックスが相まって正直いつもより変な気分になってくる。もともと疎遠だった時期も好きだったけど、こうして触れられるようになって一層好きな気持ちが増しているのだ。そんな相手とこの距離にいて平気な方がおかしい。
「…雪ちゃん、その…言いづらいんだけど…声がちょっとだけ大きいかも…。家ならいいんだけど、階段だとちょっと響くかも…。」
私はもう恥ずかしさでその場から逃げ出したいくらいだ。唯一の救いは葵も恥ずかしそうではあったけれど嫌がってはいないでくれていることだろう。目が合うと葵は微笑みかけて頭を撫でてくれる。
「こ、声出さないようには頑張ってるんだけど…!自分じゃ…上手く分からなくて…。もう少しだけ強く抱きついてもいい…かな?」
私がそう聞くと葵は私の頭を撫でながら抱きしめてくれる。葵はいつもいい匂いがする。私はこの匂いが好きだ。胸の辺りに顔を埋めている間は顔を見られる心配もないから安心だけど、服を汚さないようにしないと…。
「ねえ…もし我慢するの辛かったら指でも噛む?えっと…何か噛むと楽にならない?いや…変なこと聞いちゃったな…ごめんね。」
「い、いいの…?葵が平気なら…私は嬉しいんだけど…。」
私がそう言うと葵はなぜかとても嬉しそうな顔をして私の唇の前に人差し指を差し出した。私もそれをおそるおそる咥えてゆっくりと噛む。
「い、痛くない?」
「ううん、全然。それに別に少しくらい痛いのなんて平気だから大丈夫だよ。」
そんなこと言う顔を見ていると一層興奮してくるのがわかる。
それが発作と相まって私は思わず声が出そうになり強く噛んでしまった。しかしそれがピークで終わったのかその後は発作も落ち着いてきた。
「あ、ありがと、落ち着いたかも。指痛くない…?そ、それに…その…唾で汚しちゃったし…ハ、ハンカチあるから!」
私が差し出したハンカチで指を拭いている葵を見て、ハンカチを噛めばよかったことに気づきながらも決してそれは言わないことにする。少しだけ罪悪感はあるが、それでも次の機会があるならそれを失いたくないと思ってしまった。
「全然平気だったよ。それによく考えたらこんな音が響く場所に連れてきたのは俺だしね。むしろ指なんて突っ込んで嫌じゃなかった?ごめんね。」
嫌なんて全く思っていないし、葵の綺麗な指に私の歯形がついていることに発作関係なくドキドキしてしまった。私ってやばいのかな…?
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