4話 疎遠だった幼馴染と初めての会話と放課後
昨日は下校中に道端で幼馴染を拾うわ、親の勤める会社の経営危機から俺のモデルの話まで、とにかく大変な一日だった。
とはいえ寝る前に思ったような夢オチじゃなくてひとまず安堵する。
そして今日も普通に学校があるので登校しなければならない。俺は眠い目を擦りつつ朝の準備を終わらせて家を出た。
いつものように朝、親友の佐久間薫と待ち合わせをして合流する。
「おはよう葵、今日は早かったね。いつもみたいに時間ギリギリに来ると思ってたよ。」
「昨日はちょっといろいろあってな…。だからか分かんないけど目が覚めちゃって。」
「まぁ僕としては君が早く来てくれるなら文句はないよ。けどさ、昨日は早く帰ったんだからゆっくりすれば良かったのに。」
いつもは薫と帰ったり、他にも友人たちと過ごすことが多いが昨日は一人で帰りたい気分だったのですぐに帰った。結果として雪と和解できたから良かったけどね。
「あ、そういえば白坂雪って分かるだろ?今も同じクラスだし。」
そう雪は実は今でも同じクラスなんです。というか小中高って同じとこに通っているわけだからなおさら距離ができた理由が分からない…!
「そりゃもちろん分かるよ。君ほどじゃないけど、ずっと一緒で仲も良かったしさ。今でもたまに話すよ。それがどうかしたの?」
いやお前は話すのかよ!若干の嫉妬心を覚えながらも、かえって謎は深まるばかりだ。
「その…雪が俺と距離を置きはじめた原因って心当たりある?俺全く見当もつかなくてさ…。」
「あー…うーん…分からないけど、君が原因ってことはないと思うよ。まぁあの時期は…ほら、いろいろと変化する時期だったから…でも二人が昔みたいに仲良くなれるなら嬉しいよ。」
なんか知ってそうな知らないような様子だけど…まぁ薫が俺に言わないならそれは別に無理に聞くようなことじゃないんだろうな。
俺たちが教室に着いて席に座ると声をかけられる。
「葵ー!昨日は早く帰っちゃうから寂しかったよ!薫も葵が来ないならって帰っちゃうし、今日は来れるの?」
俺に話しかけて来たのは田村円香、クラスメイトの女子だ。別に特別仲が良いというわけではないが、今年同じクラスになって一度、何かで話してからこうして話しかけてくるようになった。
「あー…ちょっと分かんないや。別に集まろうって話なら俺抜きでいいよ。別に去年もそんなにクラス会とか参加しなかったし。」
別に集まったりするのが嫌いなわけじゃない。だけど男子が少ないから、女子に囲まれるのが少し気まずい時がある。
「えー私の先輩も葵と遊びたいって言ってたしさー、今度どう?他にも男子も来るしさ!」
「うーん…考えておくよ。しばらく予定ちょっと分かんなくてさ。」
俺は別に女の子が苦手ではないが、苦手になる気持ちもわかる。たまにあるような少しだけギラついたような視線が苦手なんだ。
「葵…気をつけなよ?君はなんか抜けてるけど、男一人でそんな場所行くもんじゃないよ?」
薫が心配そうに俺の方を見つめている。薫は女子が苦手なこともあってあまり遊んだりはしない。まぁ俺もそんなに遊ぶわけじゃないけどな。
「わかってるよ。俺もそこまで馬鹿じゃないって。遊んでるような友達もいないしさ、それに柚からも散々言われてるし。」
性犯罪なんかの被害者は圧倒的に男性が多いと言われている。もちろん女子の被害もあるし、男子が加害者になることだってあるが、それでも自衛は必須だ。前に柚といる時にナンパと気づかず危うくついていきそうになった時はめちゃくちゃ怒られたからな…。
ーー
午前の授業が終わり昼休憩。俺は基本的に薫なんかの男の友達と一緒に食べることが多い。
ちなみに俺のクラスには俺と薫以外に男子は二人しかいない。一人は吉田瞬、190近い長身でおまけに性格もいいというできすぎた男だ。俺はこいつこそモデルなんかをやるべきだと思う。二人目は池田優、こっちは絵を描くことが趣味で、たまによく分からないけど良いやつだ。
「しかしやっぱり葵はモテるよな、大変じゃないのか?」
こう聞いてきたのは瞬だ。基本的に男子というだけで問答無用でモテることはモテるのだが、たしかに俺はその中でも人気はある方だと思う。
「どう考えても大変だよね、女子に苦手意識ないのはすごいと思うけどさ…。僕も結婚はしたいけど、その前に問題なく話せる子に出会いたいよ…。」
こう嘆いているのは薫。だいたいこういう話になると薫はいつも嘆いている。
ちなみに優はあんまり喋らない。無理して合わせる必要もないし、表情でだいたい思ってることもわかるようになってきたからそれでいい。
「いまいち分かんないだよね…。別に女の子が苦手でもないし、ちやほやされるのは好きなんだけどさ。まぁでもいつかは結婚しないとは思うかも。」
そんな風に俺たちが理想なんかを話したり、時々絡んでくる女の子と話したりしていると昼休憩も終わり、午後の授業。昨日は午後がなかったこともあってか、いつもより眠い。この昼食後の授業ってやつがどうしてこんなに眠いのか不思議だよ。こんなに寝つき良く眠れるなんてこの時間だけだと思う。
その後授業が終わり、薫が起こしてくれて俺たちは下校の時間になる。円香たちの誘いは断りつつ、今日はどうしようかなんて考えていると雪ちゃんがおそるおそる近寄ってくれた。少なくとも学校で話しかけてくれることが初めてだったし、俺も少しだけ動揺していた。
「その…迷惑じゃなかったら…この後いいかな…?ちょっと限界なの…。」
そう言って俺を見つめてくる表情に俺は思わずこの場で抱きしめそうになってしまった。この顔を誰かに見せるのも惜しいので、俺は急いで場所を変えた。
「どうする…俺の家来る?優太くんいたら気まずいだろうし…それにうちより遠いしさ。」
俺の問いかけに対して雪ちゃんは下を向いたままで返事がない。俺が体調を心配していると俺の制服の袖を掴んでおそるおそる聞いてくる。
「が、学校じゃダメ…かな?ちょっと家まで待つのしんどくて…。ごめん…変なこと聞いてるのはわかってるんだけど…。」
小さく手が震えているし、そもそもこんなことを言い出すのも勇気がいるだろうからここはすぐに答えるのが誠意だと思った。
「全然ダメじゃないよ。いい場所知ってんだ、着いてきてよ。」
俺たちはあまり使われていない北側の階段を登って屋上のドアの前の踊り場へと行く。うちの学校は屋上のドアは開いてないし、ここの踊り場も一応立ち入り禁止になっている。ただそれゆえにここは誰も来ないスポットなのだ。
「ここなら誰も来ないから大丈夫だよ。たまに一人になりたい時にここに来るんだよね、だから内緒だよ?…ほら、おいでって。」
昨日と違ってお互いに立っているから身長差があるため彼女が俺の胸元あたりに飛び込んでくる。俺の腕の中で小刻みに震えている彼女を前に俺もとっくに余裕なんてなかった。
「葵…気持ち悪くないの…?私、散々距離取ってきたのに、今更になってこんな風に葵の優しさに甘えて…。」
小さく俺にたずねてくる彼女の様子から本当にあの時声をかけて良かったと思う。
「嬉しかったよ、嫌われてないんだって思えたから。昔のことはもういいんだ。今は今の雪と向き合いたいと思ってるから。それに昨日も言ったけど俺だって流石に誰にでも優しくはしないって。」
「ありがと…。今日ちょっと昨日と匂い違う?」
「あー今日はあいつらと無駄に走り回ったりしたからなあ…。汗くさかったりする?嫌だったって言われてもどうしたらいいかわかんないんだけど…。」
「ううん、嫌じゃないよ。こっちも好きだから。」
そんなことを話していると下の方でカツカツと足音が聞こえる。生徒用の靴とは違う少し高い音だ、おそらく先生だろう。雪も流石にびびったのかさっきより強くしがみついてくる。少しの間じっとしていると、すぐに足音が離れて行った。
「あー…焦ったあ…。たまにあるんだよね…でも小声で話してれば大丈夫だからさ。ちょっとドキドキしたでしょ?とはいえここよりいい場所ないと思うんだよね…。」
「葵もやっぱりドキドキした?顔赤いけど…。でも私もここ好きになっちゃった。」
嬉しそうに、楽しそうに笑う雪の横顔を見ているとより一層顔が赤く染まりそうな気がする。今なら心臓の音をごまかせると思い俺は再び彼女を抱きしめた。
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