2話 疎遠だった幼馴染は意外に俺のことを好きらしい
今日はもう1話上がっているので先にそちらから読んでもらえると嬉しいです!
俺は下校途中に道でうずくまっていた幼馴染、白坂雪を見かけて家まで連れ帰った。事情を聞くとなんでも特殊な病気らしく突発的に発情してしまうことがあるとかなんとか。対処法もなく困っていたが、俺とのハグで症状が和らいだとかでこれからも定期的なスキンシップを求められたというわけだ。
そして現在俺は白坂家にお邪魔している。
「ごめんね、優太がずっとくっついてて…。もし邪魔だったら回収して行くけど…。」
雪は申し訳なさそうな顔をして俺にたずねてくる。
「えー僕邪魔じゃないよね!だって葵くんにあったの久しぶりなんだもん。あのねあのね…」
とにかくテンションが高い優太くんは自分の宝物だと言っていろいろとコレクションを見せてくれたり、会えなかった期間の話を聞かせてくれる。俺はふと彼の宝物の中に見覚えのあるものを見つけた。
「あ、これ覚えてるよ。優太くんこのぬいぐるみまだ持ってたんだ…。これ昔俺があげたやつだよね?嬉しいなー!」
もう少し古くなってしまったけど、これはいつだったか俺がゲームセンターで取ってきたやつをあげたんだ。優太くんにあげたらずるいって雪ちゃんが言い出して、二人でゲームセンターでもう一つ取りに行った記憶がある。そんな懐かしいことを思い出して俺は思わず頬が緩む。
「これお姉ちゃんもまだ持ってるよ。たまに抱いて寝てるところ見るもん。」
優太くんは無邪気に俺にそう教えてくれる。多分ね、お姉ちゃんはそれを言われたくなかったと思うよ。顔が真っ赤に染まってるもの。
「雪ちゃんありがとね。持っててくれて嬉しいよ。」
言うか悩んだがやはりここは素直に伝えようと思い、伝えてみたが雪は余計に恥ずかしかったのかキッチンの方へと去ってしまう。
「お姉ちゃん…怒っちゃったかな?」
優太くんは不安そうに俺にたずねてくる。
「うーん大丈夫だと思うよ。照れてるだけだと思うから。とりあえずそっとしておいてあげよっか。」
優太くんは素直に言うことを聞いてくれるしニコニコしていてとても可愛らしい。俺に弟がいたらこんな感じかなと思う。ただ学校帰りに急にテンションを上げてはしゃいでいたからか眠くなってしまったようだ。
「葵、ごめんね。わざわざ寄ってもらったのにずっと優太の面倒見てもらっちゃって。それと…さっき言ったことだけど、別に嫌だったら断ってくれても大丈夫だからね?一人でもどうにかしてきたんだから…!」
笑ってはいるけど元気がないのは間違いない。
「俺も嫌なこと引き受けるほどお人よしじゃないよ。それに一人でどうにかなっても俺がいて少しでも楽になるならいくらでも言ってよ。」
雪は一人で大丈夫と言っていたけど、さっきの様子を見るにどう考えても平気ではない。今年は同じクラスになったけどそんなこと全く気づかなかった。それでもこれからはもっと気にかけようと思う。
「ほんとはね…声をかけられた時怖かったんだ…。一回だけ、初めて外で症状が出た時、同じように男の人に声をかけられてね、あの時は怖かったなぁって…。でも今日葵の顔を見た時安心できたの、ああ良かったーって。」
笑顔で話してはいるけど不安だったことは顔を見るだけで伝わってくる。
「変な男の人だっていないわけじゃないもんね、でもそっかあ…。」
俺は少し考え込んでしまった。急に黙り込んでしまったことで不安にさせてしまったのか、雪はおそるおそる顔を覗き込んでくる。
「あ、ごめんね。…症状が出る前に前兆みたいなやつってあるの?もしそれで分かるなら…俺が一緒にいようか?」
雪は俺と一緒にいるところを見られたくないみたいだが、そんな話を聞いた後に一人で帰すのも心配だ。
雪は少しだけ悩んだような表情を見せつつ考え込んでいる。
「その…あんまり言えないんだけど…前兆みたいなのは少しだけ分かるよ…。でも葵の邪魔になっちゃわない?」
前向きだろう気持ちを聞けた気がして俺は思わず微笑んでしまった。
「そんなことないよ。俺雪と疎遠になったの寂しかったんだ。だから頼ってくれると嬉しいな。」
「じ、じゃあお願いしてもいい…?ほんとは学校でも出たらどうしようって不安だったから…嬉しい。今日…あの時話しかけてくれてありがとね…!」
そう言って飛びついてきた雪は先ほどよりもとにかく可愛かった。昔は仲が良かったのに、俺が話しかけようとしても一時期から避けられてしまい、それで俺も話しかけられなくなってしまった。そんな過去もあったからこそ、今こうして彼女が自分の腕の中にいるということが何より嬉しかった。
「俺もまたこんなふうに話せるなんて思ったなかったから、不謹慎かもしれないけど嬉しかったんだ。…俺はいつでも協力するからさ!遠慮しないで言ってね。」
「うん…ありがとう。それと…今までごめんね。でも嫌いになったことは一度もないの、それだけは信じて…。」
優太くんもいるし、俺たちはさっきより軽いハグだったがそれでもさっきよりもわだかまりのようなものはなくなったと思う。
雪は少しして離れようとするが、俺は名残惜しくて引き止めてしまう。
「もう少しだけいい…?嫌だったら全然離すんだけど…。」
「私が嫌がってないって分かってて聞いてる…?ずるいなぁ…頭、撫でてくれるなら…もう少しだけ付き合ってあげる。」
その後俺たちはどれくらいそうしていたか分からない。
今度は俺のスマホが鳴ったことで俺たちは慌てて離れる。
「あー…柚のやつだ…。あ、覚えてる?俺の妹の柚。あいつも雪ちゃんに会いたがってたから今度会いにきてよ。」
「うん!…でも私、言い辛いけど…柚ちゃんとは連絡取り合ってたんだけどね…。」
その時俺がどんな顔をしていたが分からないが、帰るまでずっと謝られ続けた。やっぱり俺が何かしたのが原因なのかな…。しかし全く心当たりがない…。
白坂家からの帰り道もずっと考えていたが全く分からなかった。
「葵…!連絡先…変わってない?連絡してもいいかな…?」
帰り際に玄関の前で雪がそうたずねてくる。
「もちろんだよ。待ってるから!」
雪も笑って見送ってくれる。俺の心の中にずっとあったようなしこりが消えていく気がした。
ーー
「ただいまー、柚いるか?」
俺が帰宅してリビングに行ったが妹の姿は見えない。すると上の部屋から声がする。
「お兄ちゃん!遅いよー!今日はお母さんが早く帰ってくるから一緒にご飯作ろうって約束したのに!」
頬を膨らませて俺を睨みつけているが全く怖くないし、可愛らしさしかない。俺は適当にあしらいつつ自分の部屋に荷物を置きに行く。
「柚…お前下で待ってろよ。着替えられないだろ?すぐ行くからさ、ちょっと待っててよ。」
柚は部屋にこそ入らないもののドアの脇に立ってこちらを覗き込んでいる。最近じゃすっかり大人っぽいことなんかを言うようになったが、こういうところはまだまだ子どもだなと思う。
「…別にお前が見たいっていうなら俺は全然脱ぐけど。ていうかあれだ、見たくないなら今すぐ出た方がいい、俺は一刻も早く着替えたい。」
「お、お兄ちゃんはそんなこと言ってもどうせ無理だからね!」
俺も一瞬考えるもののここはもう着替えた方が早い。そして俺は別に柚に着替えを見られることに特に抵抗はないので宣言通りシャツを脱いだ。
「わー!見てない見てない!…下で待ってるから!ポンコツでヘタレでナルシストなお兄ちゃんのしょぼい肉体には興味ないですから!」
後半はほとんど悪口を言い残して階段を駆け降りて行った。そ、そんなにしょぼいかな…自分では結構いい感じになってきたと思うんだけど…。
俺は少しだけ落ち込みつつ着替えを終えて階段を降りてリビングへと向かう。
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