表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/37

7、再会



たんっ!と黒装束の男が階段の上から、わたしの方を目掛けて飛んだ。男の手には鎌形刀剣という幅の広い刀身の短剣。接近戦での使用に適しているやつ。ついでに言えば、あれ、重いのよね。ラヴィーニアには楽勝だけど、今のラウラでは重すぎる。とは言え《身体強化》すれば問題ないから、隙を見て奪えれば……と思う。わたしが手にしている淑女の護身用の短剣なんて、おもちゃのナイフみたいなものだし。だけど、こんな小さな短剣でも、使いようはあるのよ。


わたしの短剣を左手に持つ。この短剣もわたしの身体の一部と考えて、剣ごと左腕を《強化》する。わたしの手はこの短剣。金属の、強い腕。


上から降って来た男が振り下ろした鎌形刀剣を、短剣で受け止める。そしてそのまま右腕も強化。渾身の力で男を殴るっ!


「どおおおおおおりゃああああああっ!」


淑女の掛け声ではないですね。はい、わかっています。ラヴィーニアのゴリラモード発動っ!なんてね!

襲撃者の男の頭を《強化》した全力で殴って、それでもって大理石の壁に、そのままその頭を埋め込んだ。

ふうっ!一匹討伐完了!気絶しているだけかもしれないけど、頭骨が骨折くらいはしているかもね!しばらく動けないでしょう。よし、鎌形刀剣は貰っておく。と、その鎌形刀剣を思い切り、階段の上に投げる。階段の上からこちらを覗いていた黒装束の男の顔に命中。男はそのまま階段の上からこちらの方へと落ちて来た。「う……」と唸っているので、短剣で背中から刺しておく。はい、二匹目討伐成功。よし、いける。この男と一緒に落ちて来た鎌形刀剣を再度拾って三匹目、四匹目と切り捨てていく。十匹……まで数えていたけど、後はもうわからない。白いドレスも血で染まった。ジュリアと殿下が心配そうにこちらを見ていた。あ、全部返り血ですので、大丈夫です。大丈夫だけど……、流石にわたしの息も荒い。そろそろキツイ。やっぱり、小柄な体では体力が……と思ったときに、また今度は大勢の足音が聞こえて来た。あー……ダメかなこれ。ううん、弱気になるなわたし。まだまだいけますともっ!気合でファイト!!だけど、一応ジュリアと殿下の安全は確保しておきたい。わたしは天使像の後ろに隠れたままのジュリアに叫ぶ。


「ジュリア、わたし此処で敵を食い止めるから、王太子殿下連れて逃げなさいっ!回廊抜けて行くのよっ!」


わたしが叫んだと同時に、視界の端に、黒髪ですらっとした体格で、姿勢が良い男の姿が見えた。長剣を手に、数人の護衛らしき男たちを引き連れている。

その男……、ううん、その方を見た瞬間に、わたしの心臓がドクンと鳴った。息を飲む。手が震えて、鎌形刀剣を落とす。音を立てて剣が大理石の床に転がった。信じられずにわたしは目を見開く。時が止まったように、動けない。


あれは……あの方は……フラヴィオ殿下……だ。ううん、ご成長されたフラヴィオ陛下だ。


胸が詰まって、棒立ちになったままのわたしの横を、ジーノ殿下が駆け抜けていく。


「叔父上っ!」


王太子殿下が声をあげて、階段を駆け上がる。安心したような笑顔でフラヴィオ陛下に飛びついた。


「ジーノ、無事か?」


声が。

十五歳の時のフラヴィオ殿下の声よりも、少しだけ低くなった落ち着きと深みのある声。

ああ……わたしの耳が、しびれそう。


「はい!あちらのご令嬢が助けてくれました!」

「ご令嬢……?」


フラヴィオ陛下がわたしを見る。目が合った。わたしの心臓がこれ以上もないほどに、跳ねる。


夜空のような漆黒の髪も、翡翠色の瞳も変わらない。少年だった殿下が、精悍さすら感じられるほどにご立派にご成長された。

身体の奥底から熱いものがこみ上げてくる。目の奥が熱くなる。それを歯を食いしばって抑える。涙なんかで視界を遮りたくない。あの方のお姿を、余すところなく目に焼き付けたい。


フラヴィオ殿下も信じられないものを見たように、目を見開かれて。そうして一歩一歩ゆっくりとわたしに近寄って来た。そうして、わたしの目の前で足を止められた。


「……ラヴィーニア」


呟きのような小さな声。

外見的にもぱっと見の印象も、ラヴィーニアとラウラは似ていない。なのに、陛下は……わたしをラヴィーニアと呼んだ。髪の色が同じだから?それとも……ラヴィーニアが生まれ変わってわたし(ラウラ)になったって、直感的にお分かりになられたのかしら?もしもそうなら……。ああ……押さえていた涙がこぼれ落ちそうだ。それを隠すように、頭を下げる。ぎゅっと目を瞑る。


「今は……ラウラです。ラウラ・ディ・ロベルティと、申し……ます」




お読みいただきましてありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ