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5、婚約者、エドアルド


わたしとお父様ジュリアにお兄様の四人で、「南翼」から王城へと向かう。全員で領地を空けるわけにはいかないので、お母様だけがお留守番。あ、リタお婆様もか。お婆様は別荘で暮らしているから普段会わないけれど。

あ、そうそう、王城の説明していなかった!まず、敷地の中央に大きな城がドン!とあって、その北と南に対を成すように一つずつ建物がある。北は「北翼」と呼ばれていて、侍女や文官たちの部屋や調理場に洗濯場等々の使用人エリア。わたしたちが宿泊している「南翼」は一言で言えば客のための宿泊施設と考えてもらえればいいのかな。最上階は他国の要人や王族も宿泊できるくらいのご立派なお部屋。その下の階は侯爵位を持つ方のためのお部屋。今日は空いているそうだけれどね!

で、私たちロベルティ伯爵家の者は、この「南翼」の三階にある客間の一つを待合室兼今日の宿泊場所として利用できるようにしてもらっている。男爵位とか子爵位の皆様は一階と二階を使うとのこと。厳格な身分の区分けですねうんうん。あとはそうね、ここの西側と東側に一つずつ、すんごーくひろーい離宮があるの。カーティア様は生前西の離宮にお住まいだった。今はそこでリリーシア様がご夫君とジーノ様と共にお暮しで、東の離宮は空いたままと聞いている。

ラヴィーニアはね、元々はその西の離宮の警備をしていたのよね。で、「北翼」に一部屋貰ってそこで寝起きしていたの。なつかしいわー。といっても、今日は西の離宮にも「北翼」にも足を踏み入れることはできないだろうなあ。ちょっと行ってみたい気もするけれど、迷ったとかそんな言い訳効かないだろうし。衛兵の皆様にしょっ引かれるのはごめんだわ。


という訳で、大人しく「南翼」のこの部屋から、デビュタントのための大広間へと向かうのです。みんなでね、ぞろぞろと。

大広間に向かう時のエスコートは婚約者であるエドアルド様にして頂くのです……と、言いたいところだってけど、あいつ、部屋に迎えにも来ないのよっ!まあ、予想通りだけどね!こういう事態を見越して、ちゃーんとお父様とお兄様に一緒に来てもらっています!オッケーです!うん、エドアルド様なんかどーでもいいや。今となってはお婆様だけが乗り気の婚約ですし!



さてさて、しずしずと歩いてようやくたどり着いた大広間。そこには既に白いドレスの令嬢とそのエスコート役の男性達が大勢、陛下達の登場を待っていた。

で、わたしたちも指定の場所に立ち、他の参加者たちも全員大広間に入った。後は王族の皆様のご登場を待つのみ……なのに。


待って、待って、待って……。既に開始時刻を過ぎていると思うのに、フラヴィオ陛下もリリーシア様も、王族の方々は誰一人として現れはしなかった。


おかしい、何かあったのかとざわつく会場内。わたしのお父様は「ちょっと見てくる」と言い残して会場の外に向かわれた。しばらく待ってもお父様は帰ってこないので、今度はお兄様が「小用ついでに父上を探してくるよ。ラウラとジュリアはこのまま会場で待機してて」と小走りで行ってしまった。お手洗い、切羽詰まっていたのかしら?まわりにいる参加者の皆さんも、そわそわしているし。


仕方ないのでそのままジュリアと待っていたら、誰かを探すようにキョロキョロしているエドアルド様を見つけてしまった。


「……お姉様、エドアルド様ですわ」


圧し殺したようなジュリアの低い声。


「あらそうね。エスコートでもして下さるおつもりかしら」

「今っ更、ですわねっ!あんなのが将来の義兄になると思うと、水でもぶっかけてやりたくなりますわっ!」


発言は過激だけれど、「ぷんぷん」と音が聞こえて来そうなほどに頬をふくらましているジュリアちゃん可愛い。

わたしはにこにこしながらそんなジュリアちゃんを愛でる。エドアルド様なんてホントどーでもいーわー、わたしの妹かわいー……という心の声が聞こえたのか?エドアルド様がすごい形相で、わたしを睨みつけて来た。ズカズカと大股でわたしの方へと近づいてくる。


「ラウラっ!」

「あら、ごきげんようエドアルド様。まさかデビュタントの場でお会いできるとは思いませんでしたわ!」


ふふんと嫌味たっぷりに告げる。婚約者のデビュタントでのエスコートもしないのに、よくもまあ顔を出せたな!くらいの意味ですわほほほほほ。わたしだってこのくらいの嫌味は言えるのよ。


「なんでこんなところにお前が居るっ!」

「なんでも何も、わたしだって今日デビュタントですのよ?居るに決まっているじゃありませんか」


まさか、知らなかったとか?ないわー、ありえないわーそれ。手紙も送ったでしょう?デビュタントの時のエスコート、お願いできますか?って。返事すら、来なかったけどね!読んでもいなかったのかしらね!まあ期待もしてなかったけどね!


……という内容を、お嬢様言葉で告げてみたら、エドアルド様は「ちっ」と舌打ちして、わたしの右上腕をむんずと掴んだ。


「……行くぞ、ここは危ない」

「はいぃ?」


行く?どこに?

危ない?なんで?

ここ、王城の大広間で、デビュタントのために集まった貴族の淑女と紳士とそれから山のような護衛と侍女たちしかいないわよ。


何が危ない?


首を横に傾げてしまう。


そんなわたしの上腕三頭筋をぐわっしっと掴んだまま、エドアルドはずんずん広間の外へと大股で歩く。うわわ、ちょっと待って、掴むならせめて手首にしてよっ!バランスがっ!歩きにくいっ!つんのめりそうっ!


「ちょっと待ちなさいよ、お姉様をどこに連れて行くつもりっ!?」


ジュリアちゃんがドレスのスカートをたくし上げつつ、わたしを追いかけてくれた。ジュリアちゃーんと、掴まれていない方の左手を伸ばす。だけど、届かない。エドアルド様、どこにこんな力あったのだろうかという勢いで、わたしはずんずんぐんぐん引っ張られてしまう。大広間を抜け、ドレスの裾を踏んだり、つんのめったりしながら、廊下を走らされる。ええい、こうなったら、わたしの《身体強化》の技を見よっ!息を整えて、ぐっと右手を引く。


「いい加減にしてくださいエドアルド様っ!わたしはこれからデビュタントで陛下方にご挨拶差し上げるんですよっ!」


王城の大理石の廊下にわたしの大声が響く。わたしはねえ、フラヴィオ陛下にお会いしたいのよっ!もちろん転生したわたしをラヴィーニアだとわかってもらえるはずはないから、普通の、伯爵家の娘のラウラとしてご挨拶申し上げるだけだけれども。

それでも、無事に成長されたフラヴィオ陛下を一目見たくて見たくて。だから、今日のデビュタントを心待ちにしていたというのに。


「大広間に戻らせていただきますっ!」


ムカついて、令嬢らしからぬ大声を出す。大理石の壁に、わたしの声が反響する。


「駄目だっ!」


わたしよりもっと大声で、エドアルド様も叫びかえしてきた。


「何故っ!」

「あちらは危険だ。それに今日のデビュタントは中止になるっ!」

「は、あ?」


……始まらないデビュタント。帰ってこないお父様。

エドアルド様は何か事情を知っていらっしゃるのだろうか?




お読みいただきましたありがとうございましたm(__)m


登場人物紹介


■エドアルド・デ・ドルフィーニ

 伯爵令息。16歳。金髪青目の王子様のような風貌を持つ。

 ラウラの婚約者だが、態度は悪い。

 

■ギド・デ・ドルフィーニ

 エドアルドの祖父。元宰相。今は降格して伯爵位。がちがちの親イラレア派。


■サーラ・デ・ドルフィーニ

 エドアルドの母。

 前王太子エルネストの閨指南役だったことがある

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