4、女性恐怖症……ではないですよね?
そう、メスゴリラなのよ……ラヴィーニアは。いえ、顔はね、そこそこ可愛らしかったと思うのよ?目もパッチリしてね。「きれい」までは言えないかもだけど、顔だけだったらそれなりに見られたはず。
でも顔の可愛らしさに対して体格がね、非常にアンバランスだった。ラヴィーニアが所属していたのはヴィセンティーニ王国騎士団の近衛隊第二小隊って言うんだけど、その小隊の中でも背は高いほうだった。
ついでに言うのなら、細身だけど、がっしりとした筋肉の持ち主よ。戦闘力も高かった。例えば……直角に曲げた肘をラリアットのように向かってくる敵の顔面に叩きつけ、敵を気絶させる……という技が出来るほどの。
……で、ついたあだ名が「メスゴリラ」とか「ゴリラヴィーニア」よ。泣ける。
そのメスゴリラの死に際に、キスを奪われてフラヴィオ陛下の心情を鑑みると……、トラウマになるかしら、ね。なったかしら、どうかしら。いきなりキスされただけでもツライっていうのにそれがメスゴリラからとあれば……。
えっと、ちょっと待って。考えよう。
キス位なんともない……よね?
死ぬよりましだよね?
でも……フラヴィオ殿下は国王になられてからも独身を貫いていらっしゃる。婚約者もいない。国王なのに。ということは……。
もしかして……。
ラヴィーニアがフラヴィオ殿下に無理矢理くちづけて、《炎の魔道》を《継承》させたことがやっぱりトラウマになってしまった……とか。
いや、トラウマどころか、女性恐怖症……とかなのかもしれない。
もう怖くて女には触れらない……とか。ゴリラ恐怖症……とか。
ざああああああああっと、わたしの血の気が引いた。
あああああああフラヴィオ殿下のお心に傷を残してしまったのか前世のわたしっ!!
ご、ごめんなさああああああああいっ!十五歳の少年の唇を、行き遅れのメスゴリラが奪うのは、そりゃあ《継承》云々があっても、怖いよね!恐ろしいよね!結婚したくないと思うくらいには心の傷になってしまうわよね!!しかも説明も何にも無しで、いきなり唇奪っちゃったし!!
こ、この罪をどうやって償えばいいのー……。死んでお詫びを?いやいやラヴィーニアはもうとっくに死んで、わたしに転生しているのよおおおお。
あああああ、と頭を抱えていたら、我が家のメイドであるマリーちゃんが「ラウラお嬢様、そろそろお召し替えを」とわたしを呼びに来た。
そう、今日はこれから支度をして王宮に行くのです。
何かと言えば、デビュタントでございます。
うー……フラヴィオ様の件は一旦保留。ここで考えていても仕方ないし。でも、もしも万が一、ラヴィーニアのせいで女性がダメになったのなら……謝ろう。うん、それしかない。謝ってもわかっていただけないかもしれないし、謝るなんて、わたしの自己満足でしかないかもしれないけれど……。うん、何らかの方法を……。
で、とりあえずデビュタント、なのですよ。
も、この一年、今日催される王宮でのデビュタントに備え、親戚や父の友人たちの屋敷を訪問し、いろんな人に面会し、お母様に引きつれられてお茶会なんかに参加したりして、正式デビューに備えて妹と一緒に頑張ってきたのよ!礼儀とかカーテシーとか社交とかダンスとかをね!
あ、そうそう、妹のジュリアと一緒なのは理由がある。
ウチのロベルティ伯爵領から王都まではちょっと遠いのね。えっとね、馬車に揺られてだいたい十日の旅なのよ。だから、わたしのデビュタントと妹のデビュタントを一緒に済まそうってことなの。伯爵領から王都までの往復にお金もかかるしね。王都滞在中は、王城に泊まれるんだけれど。あ、一応言っておくけれど別に我が家は貧乏ではないわ。大金持ちではないけれどそこそこ潤ってはいる。単にわたしの両親は合理的思考の持ち主で、まとめて行った方が効率的と考えているだけです。でもって遥々(はるばる)ウチの領地から王都に到着したのが昨日。王城の「南翼」と呼ばれる建物の一室に泊まって、迎えた今日。娘二人のデビュタントの準備で大忙しのマリーちゃん【我が家の侍女】たち。
ええと、近隣諸国ではデビュタントと言えば盛大なダンスパーティを催すところもあるようだけれど、我がヴィセンティーニ王国のデビュタントというのは、国王陛下や王族の方々への正式な紹介且つ厳正な式典なのです。ドレスコードの尊守を含む厳格な礼儀作法の披露を期待されるフォーマル性の高いもの……と言えばいいのかしらねえ。
流れとしてはまず、まず真っ白なドレスを身につけ、王宮で国王陛下や王族の方々に拝謁させていただく。列を成しての順番待ちね。うちはまあそこそこ豊かな領地を持つ伯爵家だし、今日のデビュタントでは公爵家や侯爵家のご令嬢の参加は無いと聞いているから……まあ、そんなに順番は遅くないだろうと思われる。でも一刻くらいは待つかなー……?その間、大人しく並んで待つのよ。つらいー……と、普通なら思うところだけれど、わたしはね、楽しみにしているの。
だって、陛下となられたフラヴィオ様と、二児の母になられたリリーシア姫様に拝謁できるのだもの!
ああ……、艱難辛苦を乗り越えて、ご立派に成長為されたお二人にお会いできるなんて夢のよう!転生してよかった!もう、何時間でも待てるわよっ!死んでから数えるなら十四年ぶりだもの!ああよかった、ラヴィーニアの死は無駄じゃなった。そう思える。人生って素晴らしい!神様ありがとう!!
なんて、両手を組んで神に祈りを捧げていたら、
「ラウラ様っ!呆けていないでさっさと着替えをっ!お化粧もばっちり致しますからね!あ、ドレスはジュリア様のものとお間違えなきようお願いいたしますっ!」
ものすごい形相のマリーちゃんに怒鳴られた。はいはい、了解。じゃ、準備しましょうねー!
わたしはマリーちゃんに手伝ってもらいながら、デビュタントの白いドレスに着替えた。もちろんこっそり武器を仕込む。一応、姿見で確認をする。うん、大丈夫。武器を仕込んでいるなんてバレないバレない。鏡に映るデビュタントドレスのわたしはなかなかに可愛い自画自賛。
腰までの長いオレンジ色の髪は、後ろで緩やかに一つにまとめててもらった。くりっとした琥珀色の瞳に、リスのようなふっくらとした頬に小さめの唇。まあ、若干前歯が大きめ?と思うこともあるけれど、まあ、愛嬌があると思える範囲だろう。
じゃあ、そろそろ時間だし、行きましょう!転生果たしてようやくフラヴィオ陛下に会えるのよ!ああ、心臓が!どくどくバクバク!うるさいくらいよ!
お読みいただきましてありがとうございましたm(__)m
誤字報告くださった方!ほんとうにありがとうございます!!
いいねもありがとう!感想を閉じているため、いいねを頂けるとめっちゃ励みになります感謝☆
登場人物紹介
■ロベルティ伯爵家の人々
父・ランベルト
母・オルガ
祖母・リタ
妹ジュリア
兄・クロード
メイド・マリー