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36、ぶん殴る


フラヴィオ陛下の後ろで、護衛ですって顔で、ちゃっかり近衛隊に混ざっていたわたしが、いきなり怒鳴ったものだから、墓の前にいるほぼ全員が、わたしをぎょっとした目で見つめてきた。


あああ、色々事前準備して、近衛隊なんかに実力を認めさせて、根回しして、事前準備完璧に頑張ったのに、わたし、自分でそれ台無しにしちゃったかも。


だけど、もうなんか……我慢ならなかった。


だいたいドルフィーニ伯爵気持ち悪いわっ!

サーラ様はエルネスト殿下と年が離れているから、サーラ様はエルネスト殿下の婚約者になれなくて。だったら閨指導係にして、一夜でも二夜でも、子が出来るまで共にして、庶子でも何でもいいからイラレア前王妃様と自分の孫が欲しいなんてさ。サーラ様もエドアルド様もある意味お可哀そう。

それにも増してジョヴァンニ・ロッシ・ヴィセンティーニ前王がホントムカつくっ!ラヴィーニアの時からそう思っていたのよねっ!あ、別にラウラのお婆様の愚痴によってジョヴァンニ前王が嫌いだとか言う訳じゃないのよ。献身的なイラレア前王妃様。魔物討伐しか能がないジョヴァンニ前王。まあ、カーティア様が側室になれなければフラヴィオ陛下もリリーシア様もお生まれになってないけどさ。だけど、制度上では国王は側室も愛妾も持てるし、イラレア様が正妃で、カーティア様が側室で、問題はないけどさ。でもねえ、少しはイラレア様のことを大事にしたらどうなのよっ!って、お婆様でなくとも思うわよっ!

魔物討伐に出た愛する夫が無事に帰って来たと思ったら、女連れで、「君が王妃で、彼女が側室。もちろん問題はないよね」なんて言いやがったジョヴァンニ前王。

そんなことを言われたイラレア前王妃がどれほどショックだったのか考えないのかよお前っ!諸悪の根源はこいつだこいつっ!!


わたしは大勢の注目を浴びているのも無視して、ジョヴァンニ前王の墓の前へとずかずかと近づく。

等身大の立像の墓石に、自己顕示欲ばりばりの副葬品。


わたしはジョヴァンニ前王の墓のその立像を、ぎりと睨む。


「お前がっ!イラレア前王妃様を大事にしないからこんな馬鹿々々しくも拗れた事になっているんだろうっ!」


右手の拳を握る。ジョヴァンニ前王の立像の、胸部に当たる部分を目掛けて、思いっきりわたしの拳を振るう。つまりは、わたしは《身体強化》した拳で、ジョヴァンニ前王の立像を思い切りぶん殴ったのだ。

ホントはジョヴァンニ前王のお綺麗な顔でも殴りたかったんだけど、わたし、背が低いから胸部までしか拳が届かなかったのよっ!ラヴィーニアのゴリラ的にでっかい身体だったらこんな立像くらい粉々に粉砕してやるのにっ!


胸部を破壊された立像は、足からみぞおちのあたりまではそのまま立ったまま。首の部分が付いたままの頭部が地面に落ちてごろんごろんと転がった。ふっ、間抜けね!


ふんっ!と、鼻息の洗いわたしを、皆様呆気に取られて見ていたけど、ひとりだけ、フラヴィオ陛下は苦笑されていた。


「さすがラウラ」


脳みそ筋肉ですが?

ぐちゃぐちゃ言うより拳で解決する体育会系ですが?

それを知っていて、わたしなんかを選んでくださるフラヴィオ陛下だって相当なものですけれど!?


とかなんとか、思っていたら。


墓地にさああああああっと、冷たい風が吹いた。何故だかぞくり……とした。


「あ、ああああああああ……っ!」


イラレア派の、誰かが指を指した。わたしではなく……イラレア王妃の墓を。


「い、イラレア様っ!」


ドルフィーニ伯爵の叫び声。


わたしが殴って、転がり落ちたジョヴァンニ前王の銅像の頭部は……イラレア王妃の墓の前で止まった。その頭部をそっと手に取って、持ち上げた人……が、いた。いえ、人ではないわ。だって、そのお姿は透けている。


「い、イラレア前王妃の……ユーレイ?」


手にした頭部を、じっと見つめて。そうしてイラレア元王妃の幽霊は……そのジョヴァンニ前王の銅像の頭部をすっと持ち上げると、そのままそれをイラレア前王妃の墓石に叩きつけた。


ものすごい音がして、ジョヴァンニ前王の銅像の頭部は砕けた。


『ふふ……、生きているうちにこうしていれば良かったわ……。しがみ付いていないで、捨ててしまえば……そんな簡単なことだったのに、もう遅いわね』


わたしが記憶しているあの虚無とでも言えそうな暗い目つきではなかった。

泣き出しそうな、それでいて笑顔に見える、生前と何ら変わりのないお美しいイラレア様。


ふわっと、風に乗るように。イラレア前王妃の幽霊が宙に浮かぶ。そして、わたしの方を見つめてきた。


『ありがとう』


くるり……と、イラレア前王妃はわたしから向きを変えた。フラヴィオ陛下と……エルネスト殿下の方へ。


『ごめんなさいね』



それは、フラヴィオ陛下に向けて、カーティア様を殺してしまったことに対する謝罪の言葉だったのか。

エルネスト殿下に対して母としての言葉だったのか。


そうして又くるりと向きを変えて、今度はドルフィーニ伯爵たちを睨んだ。


『迷惑よ』


イラレア前王妃は、それ以上は何も言わなかった。


ただ舞踏会のダンスのように優雅に空中をくるくると舞い……そうして、イラレア前王妃の幽霊は、青い空へと消えていった。


わたしは、呆然と、そのイラレア前王妃を見た。


雲一つない青い空は、幽霊なんてものとそぐわなくて。わたしは今見たものが幻ではないのかなんて考えてみたんだけれど……。


でも、ドルフィーニ伯爵を筆頭としたイラレア王妃派の人たちが、ぺたんと地面に座ったまま、空を呆けたように見ているし……。


あー、イラレア王妃に「迷惑」って言われちゃったからねぇ……。



お読みいただきましてありがとうございます!


次回最終回、明日の朝投稿予定です。


最後までお付き合いいただければ嬉しいです!!

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