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35、グダグダといつまでも不満ばかりは嫌だから


「エ、エルネスト……殿下……。まさか、そんな……」

「あはは、そのまさかだよ。母の死体が本物だったから、ボクの死体がニセモノだったなんて、だーれも考えやしなかっただろう?所詮貴方たちが大事なのはイラレア王妃様というだけで、ボクは単なるイラレア王妃の付属物だからね。ま、そんな愚痴はともかく。ボクはこうして立派に生きているよ。それともボクの存在も、あなた達は嘘だと思うのかい?」


現れたエルネスト殿下に、イラレア派の人たちは一斉に地面に膝をついて身をかがめた。ドルフィーニ侯爵さえも、だ。


「でさあ、なに?サーラ嬢のご子息がボクの息子だって?馬鹿も休み休み言え。確かにギド・デ・ドルフィーニ、お前はボクの閨指導係としてサーラ嬢を送り込んできた。だけど、その当時ボクはいくつだと思っているのさ。サーラ嬢が出産したのはボクが9歳の時だよ?8才の子供に子作りなんて出来るわけないだろう。経験豊富な恋多き女性が手ほどきに来るのならともかく、閨指導係のサーラ嬢は実に奥ゆかしい女性だ。男に導かれるならともかく、自分から積極的にボクを押し倒すなんてこと出来るはずもない。僕だって男女の閨に関する知識なんて、当時は皆無だった。ボクとサーラ嬢の間には何もない。手くらいは触れたけどね。サーラ嬢は当時ボクの護衛をしていたイヴォンと恋に堕ちて、彼と結ばれた。結果、出来たのが、そのエドアルドという訳さ。なあ、ギド・デ・ドルフィーニ。お前も、それからイラレア派と名乗るお前の一派共も、ボクの年齢を忘れていたわけじゃないだろうね?それとも十年も経てば、そのくらい誤魔化せるとでも思っていたのかい?そうだとしたら馬鹿としか言いようがないね」


辛辣なエルネスト殿下の言葉に、イラレア元王妃派の誰もが何も言えないでいた。


「まあ馬鹿というよりも、君たちは幻想にしがみ付きたかっただけなのかもしれないけどねぇ。女神のようなイラレア様が死んで、ボクも死んで。そしてボクの子が……というよりもイラレア王妃の孫が生きていたらよかったのに……なーんてありもしない夢、追いかけてさあ。良い大人が何してんの?そんなことだから母、イラレアは自分で自分の命を捨てたんだよ」

「……は?」


エルネスト殿下の言葉に、ドルフィーニ伯爵だけでなく、イラレア王妃派の面々も目を見開いた。


「それはいったい……」


どういうことかとの問いに、答えたのはフラヴィオ陛下だった。


「俺がイラレア元王妃を刺殺したがな。あの方は全く抵抗もしなかった。いや、抵抗しなかっただけではない。彼女が俺に言ったのは『遅かったのね。もっと早く復讐に来ると思っていたのに』だ。まあ、別に俺の母の復讐でイラレア前王妃を弑したわけではないんだが」


復讐。うぬぼれているわけではないんだけれど、きっと、わたしが……ラヴィーニアがイラレア前王妃のせいで死んだようなものだから、フラヴィオ様はイラレア前王妃を弑したのでは……と思ってしまう。

多分、いえ、きっと。

ちょっと、空気読んでいない感があるけれど……ちょっとだけ、嬉しいとか思ってしまう。

ラヴィーニアの復讐をするくらいに、きっと、あの時からフラヴィオ陛下はラヴィーニアのことを好いていてくださったのね……と。


「異母兄上に殺してもらった。それは結果であって、母の自殺に兄を使った。ボクはそう思っているよ。だってねえ……、母は、イラレアは……絶望していた。だけど死にたくても死ねなかった。何故だかわかるか?母が死ねば、ボクがイラレア元王妃を偲ぶ形代みたいになって、王として祭り上げられてしまうからさ。イラレア王妃の息子で王太子だったからね。だから、母はフラヴィオ異母兄上に殺される前に言ったんだ。『エルネストは死んだことにして、自由にしてくれる?』とね。ボクは、それが母の残した唯一のボクへの愛情だと思っているよ。イラレア王妃派の、お前たちの妄執にボクは付き合ってなんかやらない。エドアルドとか言ったか、お前だってそうだ。ギド・デ・ドルフィーニ達の妄想に付き従って、お前がボクの息子だとか言う?自分が次代の王になるとか思ってる?」


エルネスト殿下に睨まれたエドアルド様は、静かに首を横に振った。


「お爺様は……あまりにもイラレア前王妃のことを愛しすぎて……妄想と現実の区別がつかなくなったのだと……、常々私も思っておりましたので」

「そうか……」

「元より、母、サーラより……自分の父親は、王太子殿下の護衛であった男性と聞き及んでおりましたので。ですが、ギドお爺様は……ご自分とイラレア元王妃の子ども……つまり、母サーラとエルネスト殿下にどうしても結ばれてほしかったのです。そして、母と殿下の間に子が産まれ、その子が王座に就く……。それを夢見ておりました。私には、その妄想を止めるだけの力はなく……申し訳ございません」


深々と頭を下げたエドアルド様。


妄想……というよりも、妄執ね。

ホント老人たちは度し難い。


まあ、きっと。それぞれ、若いころからの複雑な想いとか……こじらせてしまった願いとかだとか……いろんなものがあるんだと思うけれど。

だけど、同情なんてしない。


常に「お可哀そうなイラレア様」って、わたしのお婆様は嘆いていらして。かといって、何か行動をして、不満を解消なんてことはしなかった。


嘆くだけ。


それを何度も繰り返し聞くこちらはホントもう、鬱陶しいというかなんというか。


かといってドルフィーニ伯爵みたいに、想いがねじれにねじれて、エドアルド様(自分の孫)まで使って、妄想を現実とさせるというのもどうかな……って思う。


別にエドアルド様なんて好きじゃないけど。

だけど、一応元婚約者だし。

多分、デビュタントの時も、襲撃者にわたしが襲われたり巻き込まれたりしないようにって、先に逃がそうとか考えてくれたんだと思うし。多分、だけど。

受けた恩は、返さないと。


それに、わたしのお婆様みたいにいつまでもいつまでもグダグダと不満ばかり言うのはわたしは嫌いなのよっ!


思いっきり息を吸って、そうして、わたしはあらん限りの声で怒鳴りだした。


「あ、ああああああああああっ!もうっ!ごちゃごちゃとっ!うるっさいわアンタたちっ!特に、ドルフィーニ伯爵っ!!サーラ様とエルネスト殿下を結ばせて、イラレア前王妃とドルフィーニ伯爵の血を引く孫を作るなんて、そんな遠回りをしないで、ドルフィーニ伯爵が自分で、イラレア前王妃様に愛でも告白すればよかったのよっ!!イラレア前王妃様だって、あんな浮気者のジョヴァンニ・ロッシ・ヴィセンティーニ前国王陛下なんてさっさと捨てて、新しい恋にでも生きれば……あんなふうに絶望なんてしなくて済んだのにっ!」


カーティア様を剣で殺したイラレア王妃。あの時の虚無の瞳を、転生した今でもわたしは覚えている。

あれほど恐ろしい瞳を見たことはない。


あ、思い出したらなんかムカついてきた。


「イラレア様は……カーティア様を殺すんじゃなくて、いっそジョヴァンニ前王を殴ればよかったのよっ!浮気男で、イラレア様のご献身をあたりまえみたいに考えているジョヴァンニ前王なんて、イラレア様の方から捨てちゃえばよかったのっ!ドルフィーニ伯爵だって、イラレア前王妃が死んでからぐだぐだぐだぐだありもしない妄想を無理矢理現実にしようとするくらいイラレア前王妃様が好きなら、大事なら、イラレア前王妃が生きている間に愛でも囁いて、何が何でも口説き落として、自分の方を振り向かせて、イラレア前王妃を自分の物にしてしまえばよかったじゃない!ばっかじゃないのっ!!エドアルド様まで巻き込んでっ!」



お読みいただきましてありがとうございます。


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