34、再会
「サーラ・デ・ドルフィーニ。貴女の息子の父親は誰だと、貴女に問う前に会ってもらいたい者がいる」
フラヴィオ様の強い視線に、サーラ様の体がびくりと震えた。
「あ、会う……ですか?」
か細い声。手はまるで神に祈るかのように握られている。
「そうだ。イヴォン・ド・サーフェンス、前に出ろ」
そう告げたフラヴィオ陛下。そして、護衛に扮していたイヴォン殿が前に出る。イヴォン殿が深くかぶっていたフードを取り払い、サーラ様をひしと見つめる。
サーラ様は、イヴォン殿がフードを取り払ったと同時に走った。まっすぐに、イヴォン殿目掛けて。
「イヴォン様……っ!」
「ご連絡も出来ずに……申し訳ございませんでした」
「いいえ、いいえっ!父に知られればお命を落としてしまったかもしれません。生きていてくださっただけで……」
涙するサーラ様をイヴォン殿は強く抱きしめた。それ以上は言葉もなく。
わたしの知らないところで、きっと色々あったのだろう。察するに、イヴォン様を害されたくなければ、大人しく指示に従えだとか、まあそんなことをドルフィーニ伯爵はサーラ様に言っていたのかもしれない。
「再会を喜ぶ恋人たちの邪魔をするのは無粋だが、答えてもらおう。サーラ嬢、貴女の息子の父親は誰だ?」
「イヴォン様ですっ!エドアルドはわたくしとイヴォン様の子ですっ!」
フラヴィオ陛下の問いに、サーラ様はきっぱりとお答えになった。
けれどドルフィーニ伯爵は顔色一つ変えやしなかった。
「我が娘に何を言わせるのですかなフラヴィオ様。さすが側室の子はやることが陰湿だ。我が娘、サーラを脅してでもしましたか?その男が、我が孫エドアルドの父親であると嘘の証言をしろとでも」
「嘘はお前だろうドルフィーニ伯爵」
「エドアルドは我が娘とエルネスト殿下の子。そんな何処から連れて来たかもわからない下賤な者の子ではないわ」
……うん、没託したとはいえさすがに元宰相というべきか。
サーラ様とイヴォン様が二人してエドアルド様はエルネスト殿下の子ではないと言っているのに、それを真っ向から否定してくる。
「母親の、サーラ嬢の言葉も信じないと?」
「我が娘はエルネスト殿下の閨指導を務め、そして、それがもとで懐妊した。それが真実だ」
「それを証明できる者はおらんだろう。当のサーラ嬢だとて、エドアルドは自分とイヴォンの子だと言っているのに」
「娘の発言だけで証明にはならないでしょう。貴方が娘を脅してそう言わせているだけだ。真実はただ一つしかないのですよ、フラヴィオ様。未練がましく王座にしがみ付いているのはみっともない。貴方様は単なる側室の息子でしかない。元より貴方が王座に就くのがおかしいのだ」
「……イラレア王妃が俺の母や俺の護衛を殺したり、俺たちの命を脅かしたりしなければ、大人しくしていたさ。やりたくて王なんざやっているわけではない。父王ジョヴァンニ・ロッシ・ヴィセンティーニの血を引き、そして後を継ぐ者がこの俺しかいなかったというだけだ」
「おりますとも。エルネスト殿下の血を引く我が孫、エドアルドがね」
フラヴィオ様とドルフィーニ伯爵は静かににらみ合う。
そこに、くすりと笑う声がかかった。
睨み合うフラヴィオ陛下とドルフィーニ伯爵の間に進み出たのは……ネフィスト殿……ではなく、エルネスト殿下だった。
「やあ、ギド・デ・ドルフィーニ侯爵……ではなく今は伯爵だったね。だいたい十年ぶりくらいだけれどボクが誰か分かるかい?」
エルネスト殿下は、まるで罠にかかった哀れな獣でも見るかのように、ドルフィーニ侯爵に笑いかけた。
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