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33、嘘と可能性

イラレア前王妃とジョヴァンニ前国王が眠る墓所は広大な敷地を持つ。単に広いだけでなく、その周囲を宮殿のように壮麗な建造物がいくつも囲んでいる。宮殿と宮殿の間には長く美しい回廊があり、そこには様々な形の墓碑や美しい彫刻が並んでいる。

緑の芝生、石畳。右を見れば天使の像。左を見れば女神像。更に奥へと歩いていけば、神に祈るように両手を組んでいる夫人の立像があり、剣を持ち、マントをたなびかせている騎士の彫刻もある。

彫像ではなく、単なる墓石だけが並んでいるところもあるが、その墓石もまるでレリーフのように花や死者の名が浮き彫りにされている。

墓所というよりはまるで美術館の展示物が、屋外の広い公園に整然と並べられているよう。


ならば、イラレア前王妃のお墓など国宝級の作りかと思っていたのに、たどり着いたそのお墓は予想外にシンプルなものだった。大理石の墓石には生没年とイラレア様の名前のみが彫られている。女神像や天使像などという彫刻もなされてはいなかった。ただ、美しい花が飾られているだけ。

少し離れたところにあるジョヴァンニ前国王陛下のお墓なんてすごいんだけど。生きていたころのジョヴァンニ前国王陛下の等身大の立像よ。王冠を被っていて、その王冠には本物の宝石がこれでもかっていうくらいに散りばめられている。右手に金属の装飾をつけた長い杖……王笏を持っていて、左手には宝珠。それだけじゃなく、このジョヴァンニ前国王陛下の等身大の立像の足元には、たくさんの魔物の彫刻が施されていて、つまりは生前の魔物退治のご活躍を、この墓所の彫刻で表しているというわけなのよね。

それから墓石の後ろには、実際にジョヴァンニ前国王陛下がお使いになられた兜に鎧、それから剣やメイス、盾なんかがずらりと並べられている。うーん……陳列も数が過ぎるとなんかこう……偉大というよりもはや笑い話のように感じるわよね。まあ、個人的にジョヴァンニ前国王陛下のことが好きじゃないから、わたし、そういう感想を持つのかしら……。あ、いけないいけない。これでもジョヴァンニ前国王陛下はフラヴィオ様のお父様!もうちょっとご尊敬を……って、無理だわ。


まあ、墓談義はともかく。


大量の護衛騎士を引き連れたフラヴィオ陛下との陛下の政務を支えるカルーゾ侯爵達フラヴィオ陛下の側近の皆様。それに対峙しているギド・デ・ドルフィーニ伯爵。もちろんエドアルド様や親イラレア王妃派の面々も大勢いる。


で、ね。

わたしやエルネスト元殿下、それにイヴォン殿もこっそり護衛騎士に紛れてこの場に居たりするの。


このために、わたしはホント奔走した。

この場にいる権利を獲得するために、ものすごく奔走した。それを話すと長いので、まあともかく。


ギド・デ・ドルフィーニ伯爵にサーラ様とエドアルド様だけでなく、結構大人数のイラレア派の者たちと、それから護衛まで引き連れて来た。

お墓参りとしては相当な人数だけど、幸いにしてここは広い。


それらのイラレア派の人たちをぐるりと見渡して、フラヴィオ陛下がまず口火を切った。


「さて……お前たちもイラレア元王妃の墓前であれば、嘘偽りなど無く答えるだろう。俺の問いはたった一つ。そこにいるエドアルド・デ・ドルフィーニの父親は誰だ?」


ギド・デ・ドルフィーニ伯爵が不敵な顔で答えた。


「もちろんエルネスト殿下です」


わたしは見ていた。エドアルド様とサーラ様を。


サーラ様は目を伏せた。エドアルド様は口をぎゅっと結ばれている。


……多分お二人とも、ギド・デ・ドルフィーニ伯爵が嘘をついているのを知っている。わかっていて、何もできないのだろう。……家族としての情なのか、それとも何か弱みでも握られているのか、それはさすがに分からないけれど。

ホント、これは予測というよりも当て推量でしかないんだけれど、エドアルド様は、自分が王位継承者だなんてそんなドルフィーニ伯爵の嘘に賛同したくないんじゃないかな?

あのデビュタントの襲撃の時、その事件が起こる前にわたしを王城から逃がそうとしてくれたのは……、わたしを巻き込まないようにっていう、エドアルド様の優しさだったんじゃあないかなーって、今さらながらに思うのだけれども。

フラヴィオ陛下がわたしを愛妾に、なんて言いださなければ。今でもきっとわたしの婚約者はエドアルド様のままで、その場合、わたしもイラレア王妃派の一味として見られた可能性もある。

だってねえ、エドアルド様がエルネスト殿下の息子っていうのが嘘じゃなかったら……いずれエドアルド様が王となり、わたしが王妃?


いーやいやいやいや、冗談じゃなくて、そうさせられている可能性だってあった。


思わず冷や汗をかいたわたしを、正気に戻したのはフラヴィオ陛下の平坦な声。


「ほう、この場で、イラレア前王妃の墓前でも、そのような戯言を言うか」

「戯言ではない。お前はたかが側室の息子。正当なるイラレア王妃の血筋はこのエドアルドに引き継がれておるわ。当然、国王となるのはこのエドアルドだ」


嘘だとわかっていることをよくもまあ、ここまで言い切れるものだと感心する。


「では、その言が本当であるかどうかを問おう。ドルフィーニ伯爵ではなくサーラ嬢にな」


名を呼ばれて、サーラ様がビクリと肩を震わせた。



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