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30、動け




ネフィスト様……エルネスト元王太子殿下の話に、わたしはなんていうか……気持ち悪いとか憤るとか、そんなもやもやした感情が湧き上がってくるのを押さえられなかった。大量にお酒を飲んだその翌日の、ものすごい二日酔い状態って感じに気持ちが悪い。

あ、ラウラはお酒なんて飲んだことなんてないけどね。

ラヴィーニアの時はそりゃあ……呑みましたが。

なんていうのかムカムカムカムカする。エルネスト殿下の話を遮らないようにと、口は挟まなかったけれど。ぎゅっとスカートを握りしめたわたしの手はこれ以上もなく白くなっているし。そのスカートも盛大に皴になっている。


お可哀そうなイラレア様。

わたしのお婆様は口を開けばそう言って嘆いていた。


確かに可哀そうだけど、何度も繰り返して同じことを聞いていればいい加減に嫌になった。


ねえ、お婆様。そんなふうに今も嘆くくらいなら、どうしてお婆様はイラレア王妃様をお助けしなかったの?


幼い頃のわたしがそう聞いたら、お婆様はこう言ったの。


「私ごときがイラレア様のお悩みを解消できるはずはない」ってね。で、延々と繰り返されるイラレア様お可哀そうという言葉。


お婆様の発展性のない愚痴を聞いていた時と同じように気分が悪い。


「……お話、ありがとうございます。事情はある程度理解いたしました」


わたしは不機嫌さを隠さないまま、立ち上がる。礼を欠いている?知るか、そんなもの。


「ラウラ嬢、何か怒ってる?」

「怒ってはいませんね」

「じゃあ、なんか不機嫌?」


わたしは盛大に、ため息を吐く。


「別にわたしが何を言うこともありません。発展性のない愚痴ばかり言って嘆く人もいれば、自分が不幸だと泣いて、いつか誰かが何とかしてくれるのを待つしか出来ない人もいるでしょう」


傍観者。現状を嘆くしか出来ない人。わたしのお婆様みたいにね。「イラレア様はお可哀そう」それを何年も何年も繰り返していた。発展性のない愚。共感しろ、イラレア様が可哀そうということに同調せよ。一緒に悲しんで頂戴。イラレア様のために、フラヴィオなんて側室の息子でしかない男が国王なんて冒涜だわ。ねえそうでしょう?あなたも私と同じ気持ちよね?


ばっかみたい。


現状に不満があるなら動けばいい。

それが出来ないから愚痴ばかりなのよね。


まあ、他人のことはどうでもいい。


要は、この気持ちの悪い気持ちを抱えているわたしがどう動くかだ。

他人なんてどうでもいいとは言わないけれど、他人の気持ちを動かせるなんて思っちゃいない。


わたしは愛妾になった。だけど、それ以前に護衛だ。


ラヴィーニアは護衛として生きて来た。全力で。その結果、一国の側室の護衛を任されるまでになったのだ。


ラウラに生まれ変わってからも。その努力と誇りを忘れたことはない。


だから、わたしに出来ることは……護衛対象を守るということだけ。対象外の人までは守れない。

わたしの手は小さいの。いや、ラヴィーニアの時はもっと大きかったけどね。

守れるものは一つか二つ。


だから、死んだ人までは守れない。それにわたしが守りたいものは……リリーシア様とフラヴィオ陛下。

リリーシア様はすでに結婚されて、お子様【ジーノ様】まで生まれて、そしてこの西の離宮でお元気でお暮しになっている。わたしが口や手を出すまでもなく、旦那様になった方【ダリオ・ド・カルーゾ様】やフラヴィオ陛下がリリーシア様を守っていらっしゃることだろう。


だから、わたしが今できるのは……フラヴィオ様を守ること。


愛妾として、この西の離宮で。フラヴィオ様に愛されて守られて、理由の外で起こっている出来事を何一つ知らずに安穏と暮らすこともできる。

というか、愛妾ってそういうことよねえ。

フラヴィオ様のお心を解して、慰めを与え、愛し愛される役目。


でも、わたしがしたいのはそれじゃない。


あ、いや、そのもちろん。フラヴィオ様と愛を育みたい……とかも思う。いや、わたしでいいのかなとか、フラヴィオ様が正妃様を娶っても、わたしはお傍に仕えさせていただければそれでいいとかなんとか、色々思うけど。

うん、わたしは、やっぱり骨の髄まで護衛なのだろう。

ラウラになってもラヴィーニアの時の気持ちは忘れていない。


最期までお守りできなくて申し訳ありませんでした……と、今でもそう思っているし、ラヴィーニアはお守りできずに死んだから、それが心残りになってラウラに生まれなおしたとかすら思っているし。


だから、守らせてもらう。

今度こそ、最後まで。

わたしは、フラヴィオ様を守りたい。それはラヴィーニアだけじゃなくて、今のわたしの願いでもあるの。

護衛として、だけじゃなく。

好きな男くらい守らせてよってそう思うんだよね。


「過去なんて変えようがない。イラレア前王妃様だって生き返ったりしない。お可哀そうって嘆いてうだうだ言うくらいなら、わたしはさっさと動きます」


早足よりもう少し早い速度で、わたしは大股で歩き、馬場へと急ぐ。


「ちょっとどこ行くのラウラ嬢っ!」


後ろからエルネスト殿下の声が聞こえて来たけど、足は止めない。ドレスを摘まんで、離宮の裏手へと、わたしは一気に駆け出した。





お読みいただきましてありがとうございました!

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