3、側室カーティアの失言、そして逃亡
タイトル変更しましたm(__)m
「転生した伯爵令嬢は、拳で殴って解き放つ」
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「転生前から好きだった。だから愛妾になれ」と国王陛下から命じられた転生伯爵令嬢の話
そのエルネスト殿下が九歳になったその年。あっさりとジョヴァンニ陛下がお亡くなりになったのだ。視察中に落馬って……、ホントか?何かの陰謀じゃないの?とかいう噂も流れたけどね。ホントにホントの事故だったようなのよね……。
まあ国王陛下がお亡くなりになっても、イラレア王妃が政治を取り仕切るし、後継だって正当なるエルネスト殿下がいらっしゃる。だから、故人への心情はともかく、国家としては別に何ともないはずだったのだけれど。当時の騎士や護衛官や王城の女官たちも「陛下?別にもう要らないんじゃない?エルネスト殿下が成人なさるまではイラレア様が女王になればよろしいのでは?さ、さっさと葬儀を終えましょう!」って雰囲気だったしねー。
ただそのジョヴァンニ陛下の葬儀で悲劇が起きた。
ご立派に葬儀を執り行っていたイラレア王妃に、側室であるカーティア様が失言をしたのだ。
「イラレア王妃はジョヴァンニが死んで悲しくないのねっ!涙一つ流さないなんてっ!これで清々したとか思っているんでしょうっ!こんな人を王妃にしていたなんて、なんて可哀想なのジョヴァンニ!こんな冷たい女の息子が王太子なんて、嘆かわしいわ!ジョヴァンニは……本当は王太子をあたしの息子に変えたいって言っていたのに!」
カーティア様を庇う訳じゃないけれど、多分、カーティア様は、ジョヴァンニ陛下がお亡くなりになって焦ったのだと思う。愛する……というよりも、自分の後ろ盾であるジョヴァンニ陛下がお亡くなりになってしまえば、カーティア様やお子様方を守ってくれる存在はいない……ってね。王妃様の権を削いでおかなきゃとか、そんな感じで。ほら、一応、わたしの前世のラヴィーニアはカーティア様にお仕えしていたからね。悪いヒトじゃないんだけど……短絡的な方だったからなあ……。考えが浅いというか。
イラレア王妃様のお気持ちを少しでも汲んでいればよかったものを……。
で、多分。カーティア様のその発言で、イラレア王妃の心のどこかがブチっと切れたのだ。
我慢の限界、だったのかもしれない。
イラレア王妃は自分を守る護衛の剣をすっと手にすると、カーティア様をその剣で突き刺した。
何度も何度も。繰り返し。まるでそれしかできない壊れたカラクリ人形のように。
何が起こったのかわからないというぽかんとしたお顔のまま、カーティア様がお倒れになった。うめき声も上げないままだった。ただ、恐ろしいほどの大量の血が流れ、カーティア様のドレスをその血で染めた。そのままカーティア様はすぐに動かなくなった。
その光景を、わたしの前世のラヴィーニアは呆然と見ていた。
目の前で起こった出来事。それが理解できなかったのだ。護衛なのに。
言い訳になってしまうけれど、ラヴィーニアだけでなく、葬儀の場にいた誰もが凍り付いたみたいに動けなかったのよ……。
イラレア王妃が、カーティア様をご自身の手で殺したなんて……自分の目で見ても、信じられなかった。
だけど、しんと静まり返った中、血塗れの剣を持った幽鬼のような顔のイラレア王妃が、動かなくなったカーティア様に興味を無くしたように、今度はわたしの方を見たのだ。正確に言うと、わたしではなくフラヴィオ殿下とリリーシア姫様の方を、だけど。
あんな恐ろしい目を、わたしは見たことが無い。
何の感情も見えない真っ暗な瞳。
虚無、という言葉そのものの、目。
そうしてそのまま、イラレア王妃が近づいてきた。
夢遊病者みたいなゆらりとした足取りで。血塗れの剣を引きずりながら。
次はフラヴィオ殿下とリリーシア姫様だ。イラレア王妃はお二人も殺す気なんだ。
そう理解できた瞬間、わたし……ラヴィーニアはフラヴィオ殿下の手を掴み、もう片方の手でリリーシア姫様を抱きかかえて、即座にその場から全力で走って逃げた。
「王妃命令よ、捕まえなさい。殺しても良いわ」
後ろから、そんなイラレア王妃の淡々とした声が聞こえて来た。だけど振り向かない。ただ、走る。わたしを遮ろうとした者は《炎》で燃やした。
「何をなさるのですかイラレア王妃っ!」
誰かの怒声も、微かに聞こえた。多分、声からしてカルーゾ侯爵か誰かか……なんて、考えたのは後からの事。この時はもう、逃げて逃げて逃げまくった。
まあ、結局、王妃様の命令を受けた追手によって、わたしの前世であるラヴィーニアは死んだんだけどね。
あ、ついでだから、わたしが死んだ後のフラヴィオ殿下とリリーシア姫様の話もしておこうかな。
わたし【ラヴィーニア】が死んだ後の話だから、転生してラウラになった後、お婆様や家庭教師たちから聞いた話のまとめとなるのだけれど。
わたしが差し上げた《炎の魔道》を使って、フラヴィオ殿下とリリーシア姫様は何とかカルーゾ侯爵のところまで何とか無事に逃げられた。
もちろん追手や王妃様直属の討伐隊がカルーゾ侯爵領に向かったのだけれど、カルーゾ侯爵はフラヴィオ様を擁護して、王妃様に反旗を翻した。
で、この後は国を二分しての内乱勃発ね。
フラヴィオ殿下を擁するカルーゾ侯爵と、葬儀での様子を見て、王妃様の精神状態はもう真っ当じゃないと思った複数の貴族達。それから王妃様の元では甘い汁は吸えないからと、敢えてフラヴィオ殿下の元に馳せ参じた欲の深い者たち等々。反王妃の勢力は段々と力を増していったのよ。この辺りの手腕はきっとカルーゾ侯爵のものだとは思うのだけれどね。狸だし。多分ジョヴァンニ陛下がご存命の頃から武器を確保したり、兵力を集めたりと色々策謀を巡らしていたりしたに違いない。ま、そこまで考えていたかはともかく、当時勢力を誇っていた、がちがちの親イラレア王妃派のギド・デ・ドルフィーニを蹴落として、自分が宰相になろうってくらいの準備はしていたはず。
そうして内乱は続き、フラヴィオ殿下が十九歳の時、王妃様はもはやこれまでと、エルネスト殿下と共に自害をされた。ちなみにこの年わたしは四歳。エルネスト殿下は十三歳だったかしらね……。
イラレア王妃が亡くなったことで、フラヴィオ殿下は国王となられたのだ。狸親父はギド・デ・ドルフィーニを侯爵位から伯爵位に降格した上に、宰相の地位まで取り上げた。で、リリーシア姫様は狸親父の息子のダリオ・ド・カルーゾ侯爵令息と結婚をして、十六歳の時にジーノ様を、十八歳の時にルシアン殿下をご出産された。で、このジーノ様が今のこのヴィセンティーニ王国の王太子殿下。
フラヴィオ殿下は独身なのよね。しかも結婚などしないと宣言なされている。だからジーノ様が王太子となられたとのこと。狸親父に示唆されたのではなく、ご自分から王妃など娶らない。王太子はジーノ殿下であり、さらなる政争を起こしたくないから子は為さないし、また為したところで継承権は持たせない。ジーノが王太子として相応しくないのなら、ジーノ殿下の弟であるルシアン殿下に王太子の位を移す……などなどの宣言をされたそうなの。
独身主義……になったのかな?殿下が幼かった頃には将来のお嫁さんはラヴィーニアみたいなきれいな色の人が良いなーとか、言っていただいてたけど、まあそれは、社交辞令だろうけど、一応ご結婚の意志はあったような……。そうなのよね、何故だかフラヴィオ殿下はラヴィーニアのことを「きれい」と言ってくださっていて。リリーシア姫様も最初は「お兄様、おめめがどうかしたの?」と首をかしげていたけれど、いつの間にかリリーシア姫様も「ラヴィーはキレイよ!」とおっしゃるようになっていった。護衛仲間というか同僚たちは陰で嗤っていたけどね。「さすがご側室のお子は、審美眼が普通と違う。メスゴリラを綺麗だと思えるのはいささか……。いや、いや、人の好みはそれぞれですなあ」なーんて。……まあ、そんな記憶もある。
お読みいただきましてありがとうございました
登場人物紹介
■ジョヴァンニ・ロッシ・ヴィセンティーニ
前国王。故人。
■イラリア・テレーザ・ユアントレーナ
前王妃。故人。多大なる影響を持つ。
前国王との間の子はエルネスト
■カーティア・ダ・ベルッティ
前国王の側室。故人。
前国王との間の子はフラヴィオとリリーシア