27、【イラレア前王妃視点・過去 その2】
ジョヴァンニ様が亡くなった。視察中に落馬して。
それを報告された時も、わたくしの心には波一つ立たなかった。冷えた心で淡々と葬儀を取り行う。
だけどその葬儀でカーティアがわたくしに言ったのだ。
「イラレア王妃はジョヴァンニが死んで悲しくないのねっ!涙一つ流さないなんてっ!これで清々したとか思っているんでしょうっ!こんな人を王妃にしていたなんて、なんて可哀想なのジョヴァンニ!こんな冷たい女の息子が王太子なんて、嘆かわしいわ!ジョヴァンニは……本当は王太子をあたしの息子に変えたいて言っていたのに!」
では……何のために、わたくしはエルネストを産んだのか。
抱かれたくはなかった。
カーティア様を愛したその腕で、その唇で、わたくしに触れてほしくなかった。だけど、ジョヴァンニ様がわたくしに望んだのではなかったのか。王妃の産んだ子を王太子にすると。
それとも、ジョヴァンニ様も、わたくしを抱きたくなど無かったのに、家臣に言われたから、仕方なくわたくしとの間に子を成したのか。
それほどまでに、わたくしは道具としての役割しか求められていなかったのか。
わたくしの心のどこかが、音を立てて崩れていった。いえ、何かが切れたのかもしれない。
気がつけば、わたくしは護衛の者の剣を取り、その剣をカーティア様に突き立てていた。何度も何度も。返り血を浴びて、カーティア様が動かなくなるまで何度も。
この女さえいなければ、わたくしはジョヴァンニ様と童話の結末のように幸せでいられたのに。
嫉妬。いいえ、もっとどす黒い感情かもしれない。
いいえ、違う。
分からない。
こんなことになるくらいなら、ジョヴァンニ様をこのわたくしの手で殺めておけばよかった。
ああ……これも、違う。いいえ、これもわたくしの本心。わからない。
もう、何も考えたくない。
カーティアの産んだ子ども……フラヴィオとリリーシアを殺せと指示を出した。
だけど、本当はもうどうでもよかった。
カルーゾ侯爵がフラヴィオの後見につき、リリーシアがカルーゾの息子、ダリオと婚姻を結び、それを旗印に国内の勢力をまとめ上げ、内乱を起こしても。
わたくしを支持してくれるギド・デ・ドルフィーニ侯爵の一派が、カルーゾとフラヴィオに対抗したとしても。
何もかもがどうでもよかった。
エルネストはわたくしに何か言っているようだったけれど、そんな言葉は耳に入らない。
死にたいというほどに積極的な想いがあるわけではない。
ギド・デ・ドルフィーニが逃亡し、足元を固め、再起し、フラヴィオを倒そうだのなんだの言っているようだったけれど、どうでもいい。
母親を殺されて、逃亡を余儀なくされたフラヴィオとリリーシアがわたくしをどうするか。
殺すか、幽閉するか。逆にギドが優勢になって、彼らを弑するのか。
ああ……、でもそうね。いっそ、全てを終わらせてくれればと願わないこともないわね。
わたくしはただ、王座に座り、その時を待った。