25、最初からの話
「なるほどね。あなたの決意を教えて貰ったお礼という訳じゃないけれど、ボクのことも少々話しておこうか」
「お待ちくださいネフィスト様っ!」
イヴォン殿が止めたけれど、ネフィスト様は首を横に振った。
「あのねえ、イヴォン。ラウラ嬢は陛下の愛妾になったんだ。ボクの事情なんていつかそのうち陛下から伝わるでしょう?イヴォンがラウラ嬢を信じる信じないに関わらず、この離宮で一緒に暮らしていくんだから、ボクの立ち位置くらいさっさと理解してもらわないと困るのはボクなんだよ?」
「ですが……」
「あー、はいはい。お前とボクは一蓮托生。だけどさ、現状維持のままでいいわけないだろ?変化を恐れていては何ごともなすことはできない。お前もさ、このままこの離宮で隠れ住んでいるままで一生終える気?それともここに居るのは止めて、さっさと恋しい女のところに行く?言っておくけどお前の最愛の女はともかく、その親はいずれ潰す」
「殿下っ!」
「もう、殿下じゃない。エルネストは母と共に死んだ。お前だって似たようなものだろう?何のために近衛を辞してこんなところに潜んでいる?いずれギド・デ・ドルフィーニは陛下に潰される。だけど、サーラ嬢だけはギドの失墜に巻き込まれないようにしたいって、その一心で雌伏しているんだろ?ラウラは味方になる。だって陛下が愛妾にするだけじゃなくて、この離宮に連れて来たんだ。不安がってないで、信じろ」
「……それは、ご命令ですか?」
「ボクは既にお前に何かを命じられる立場じゃない。信じろっていうのはボクの希望であって、命令じゃあないよ。だけど信じられないなら、お前はお前の道を行けばいい。もうギドたちは事を起こしてしまったんだ。陛下はようやくあいつらを潰せる。もう動くんだよ。で、おまえは?ドルフィーニの館の奥で閉じ込められているサーラ嬢を無理矢理さらって、お前と二人、隣国に逃げるとかしてもいいさ。ボク達と同じ道を行くなり、一人で行くなり好きにすればいい」
わたしには何のことか全くわからない会話。だけど、口を挟む気にはなれなかった。
転生とか、そんなのじゃなくても、色々と事情はある。ラヴィーニアが死んで、ラウラに転生して十四年。その十四年の間、わたしの知らないことがたくさんある。
フラヴィオ陛下のこの十四年。
きっと聞けることと、聞いてはいけないことと……たくさんある。
考え込んでいるのか、俯いてしまったイヴォン殿。
エルネスト殿下……えっと、ネフィスト様が「待たせてごめん」とばかりに、わたしに会釈をした。
「じゃ、イヴォン。そこに居るのはいいけど、ボクのやることに口を挟むな。これも命令じゃなくて希望だけどね。じゃあ、ラウラ嬢に最初から掻い摘んで説明をしますか。ボクはね、正真正銘、前王妃イラレアを母に持つ、元王太子エルネストだ。前国王ジョヴァンニ・ロッシ・ヴィセンティーニが亡くなり、その葬儀で母がジョヴァンニ王の側室、カーティア・ダ・ベルッティを殺害した。そして、逃亡したフラヴィオ異母兄がダリオ・ド・カルーゾ侯爵の後見を得て、内乱を起こし、それに勝利し、フラヴィオ異母兄は国王となった。その時にイラレア前王妃とエルネスト王太子は共に死んだ……ということになっている。だけど、ボクは生きている。名を変えて、この離宮の奥にひっそりと、フラヴィオ異母兄の庇護のもとにね」
お読みいただきましてありがとうございます。
次回からイラレア前王妃視点になります。