23、いったいどういった立場の人なのだろう?
けれど、いつまでも顔を赤くしている場合じゃない。
色々各方面気になることだらけなのだ。
まず、王城襲撃犯は親イラレア前王妃筆頭ギド・デ・ドルフィーニ伯爵というのなら、わたしのお婆様も関わっているのではないのかという懸念。
元婚約者のエドアルド様が、イラレア前王妃様の孫だったというのは本当なのかとか。
フラヴィオ陛下は王城襲撃犯たちに対してどう動かれるのだろうかとか。
元・護衛としては、離宮でのんびりしているより、フラヴィオ様と共に城へ戻り、そのお傍でフラヴィオ様をお守りしたいのだけれど、今のわたしは愛妾であるからして、陛下の護衛を行える権限はない。政治の場に出しゃばる愛妾なんて……フラヴィオ陛下の評判を落とすだけ、よね。うーん、今からでも騎士団に入団して、前世のように護衛の地位を掴み取るべきか……でも、もうわたし公式に陛下の愛妾だし……。うーん。ホント、色々、頭の中ではぐるぐるしているのだけれど……。
なのにわたしは今、離宮のローズガーデンを見下ろすような位置にあるガゼボにてお茶などを頂いているのです。しかも、先ほどの男性と共に。……何故、どうしてこうなった?
そもそもこの方は、いったいどういった立場の人なのだろう?フラヴィオ陛下を呼びに来たのであれば、侍従とか、執事とか?そういう立場の人間なのではないかと思われるのだけれど……。
でも、仮にも国王陛下の私室の扉を、ノックしたとはいえ返事もないままに勝手に開けたりしていたし、会話も、ずいぶんと気安いものだった。
それに、立ち居振る舞いが実に優雅なのよね、このヒト。このガゼボに連れてこられた時の有無を言わさぬ雰囲気とか、笑顔で威圧とか、もしかして高貴な血を引く方?とか思ったけれど、前国王陛下のお子はフラヴィオ陛下とリリーシア姫様だけだし。うーん、わっかんない。今も、優雅にお茶を嗜んでいらっしゃいますが……。ほんと絵画のようにお美しい。別に心惹かれたりはしないけれど。
この目の前のこのヒトにどう対処していいのか……わからない。
「さっきは邪魔してごめんね。えーと、ラウラ嬢。とりあえず、掻い摘んで説明を……とか思うんだけど。ああ、その前に、自己紹介が必要かな?ボクはねえ、今はネフィストと名乗っているんだ」
ネフィスト様がにっこりとお笑いになられた。うわ……。もの凄い麗しい笑みっ!
「ええと……名乗っている、とおっしゃられるということは、本名ではない、ということでしょうか」
「うん。まあ、でも内緒ね?対外的には俺はネフィスト。オッケーかな?」
オッケーではないですが、じゃあ誰だ、本名は何だと詰め寄って、なんらかの厄介ごとに頭を突っ込んでもなあ……なんて思ったりもするんだけれど、やっぱり元・護衛としては、フラヴィオ様の周囲の人間に関しては把握しておきたいという気もあるのよね。それに何となくどこかで会ったような気もするし……。
金髪青目の人なんてたくさんいるだろうけれど。ラウラとして生まれなおして十四年。これほどまでに優雅な所作をする方に出会ったことはない。
前世のラヴィーニアの時なら……そう、イラレア前王妃様は実に美しかった。遠目で見ただけ、だけど、なんていうか。美術館に飾られている絵画のような美しさだったのよねイラレア前王妃様って。何時までも見ていたいというか。何時までも見れるというか……。イラレア様にどうしても目が惹かれて、周囲を警戒できなくて困る……なんて、前世での護衛官の仲間たちはよく言っていたのを覚えている。それに匹敵する麗しさよね、この目の前のネフィスト様は……って思ったところで、ネフィスト様の後ろに、まるで影のように控えている男にわたしは気がついた。年の頃は三十代半ばね、直立不動。伸びた背筋に……って、この男のもしかして?
「あの……後ろに立っている方は、護衛の方ですか?」
まず、探りを入れる。だけど、彼は多分、ラヴィーニアと同じ、近衛隊にいた人。
「ああ、そう。一応ね、でも近衛隊とかの人間じゃあないよ。陛下の私兵みたいなもので、それをボクにつけてもらっているんだ」
じっと見ていたら、その男の人がわたしに対して軽く会釈をした。じっと見る。
「近衛隊第一小隊のイヴォン・ド・サーフェンス殿ですね。あ、元、と言った方がよろしいでしょうか?」
真正面からその名を告げてみれば、イヴォン殿は一瞬だけ動揺したようなに瞳を揺るがせた。けれど、姿勢を崩すことはない。そのあたりはさすがだ。イヴォン殿とは真逆に、明らかに動揺したのがネフィスト様だった。
「え、ちょっと何で分かるのラウラ嬢っ!」
「以前に何度もお会いしておりましたので」
小隊は第一と第二で異なってはいたけれど、同じ近衛隊の仲間。特に親しくはしていなかったけれど、顔と名前くらいは元々知っている。
「はあ?以前っていつのことさっ!?」
「……十四年よりは前ですね」
「貴女、今十四歳でしょうにっ!」
もっと詳しく述べるのならば、ラヴィーニアはフラヴィオ陛下の母君でいらっしゃったカーティア様の護衛で。フラヴィオ様やリリーシア様の護衛。
そしてイヴォン・ド・サーフェンス殿はイラレア前王妃の息子にして、王太子であったエルネスト殿下の護衛のうちの一人だった。
式典などの前に、警備の配置なんかを一緒に検討したりしたこともある。年を取ったくらいで見間違えるわけはない。
あ……。わかった。わかってしまった。というか、何でわたし、今まで気がつかなかったのよっ!目の前にいらっしゃるネフィスト様の、その正体。
わたしは慌てて立ち上がり、ネフィスト様に向かってカーテシーを行う。
「気がつかずにおりまして、大変失礼いたしました。ネフィスト様……いいえ、エルネスト王太子殿下」
およみいただきまして、ありがとうございましたm(__)m