2、前イラレア王妃が亡くなってからもう十年
タイトル変更しましたm(__)m
「転生した伯爵令嬢は、拳で殴って解き放つ」
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「転生前から好きだった。だから愛妾になれ」と国王陛下から命じられた転生伯爵令嬢の話
そもそも今だって、実のところフラヴィオ陛下の地盤は盤石じゃない。
側室のお子であるフラヴィオ陛下が、国王であることに反する派閥もあるのよ。即位されてからもう十年も経っているというのにね。いい加減新しい王の元、平穏に暮らそうと前向きになればいいのに……とわたしなんかは思うのだけれど。未だにいるのよ、反フラヴィオ陛下を唱える人たちが。
わたしの婚約者のエドアルド様のお爺様でいらっしゃいますドルフィーニ侯爵、じゃなかった、今は降格して伯爵だ、とか。……わたしのお婆様とかね。こちらを総称して親イラレア王妃派もしくは復権派。けれどイラレア前王妃も、そのお子であるエルネスト殿下も既に故人だ。前国王でいらっしゃいましたジョヴァンニ・ロッシ・ヴィセンティーニ陛下のお子など、側室のカーティア様がお産みになったフラヴィオ様とリリーシア姫様しか残っていない。
だから、反フラヴィオ陛下の人たちがいくら「側室の子が王になるとは嘆かわしい」などと愚痴っても無意味なんだけど……。
前王妃イラレア様に心酔している人たちには、ホント未だに愚痴愚痴とうるさいんだわ。
わたしのお婆様もねえ、未だにフラヴィオ陛下のことは「あの簒奪者っ!」と蛇蝎の如く嫌っている。血圧上がり過ぎてプチンと逝きそうなくらいよ。
「イラレア様が正統でいらっしゃるのよっ!イラレア様は私に『リタ、あなたが傍仕えで良かったわ』と何度も言ってくださっていたというのに……。ああ、イラレア様、あんな簒奪者に王位を奪われて、さぞお心を痛めていらっしゃることでしょう!何も出来ずにいるこのリタをお許しください……」
はいはいはいはい、お婆様、その話はもう聞き飽きています。あんまりにそういうこと言い過ぎるから、わたしのお父様だってイラレア様のお話に嫌気が差しちゃったくらいなんですけどね。フラヴィオ陛下だってご側室の息子だけど、立派に国を治めていますよ。もう王位を継承してから十年にもなろうとしているっていうのにねえ。「お婆様、いい加減に我がロベルティ伯爵家もイラレア王妃派を改めてフラヴィオ陛下を支持しましょうよ」って、お父様が言ったら、お婆様は「裏切者っ!あの簒奪者の味方をするとは情けないっ!」って泣き叫んで、我が家から家出していかれてしまった。今ではお一人で、と言っても護衛だとか侍女とか付けているけれど、ウチの領地の端っこにある別邸にてお暮しです。わたしもお父様もちょっとほっとしまして、お婆様におかれましてはそのままそちらでひっそりとお暮しになってくださいませ……と、放置している。まー、穏やかな晩年をお過ごしいただければいいかなあ……とね。
それにしてもイラレア前王妃がお亡くなりになってからもう十年だというのに。よくもまあ、イラレア前王妃に忠誠を捧げ続けられるものだわ。呆れを通り越していっそ感心するほどね!
……確かに、イラレア前王妃様は偉大で立派で素晴らしい方だった。心酔するのも無理はないケドねえ。わたしも前世の記憶があるからイラレア前王妃様がどれだけ素晴らしいかは、実体験として、知ってはいる。ホントご立派で尊敬できる方だった。……ただし、それは前国王陛下の葬儀の時までだけど。
イラレア前王妃様は……元々は公爵家のご令嬢で、尚且つ治癒の力を持つ聖女だった。で、王族で勇者でもあったジョヴァンニ・ロッシ・ヴィセンティーニ殿下と共に力を合わせ、国内の魔物を倒してまわったのだ。
魔物討伐の旅の途中にお互い恋に落ち、そして勇者のジョヴァンニと聖女イラレアは結婚。祝福されて国王と王妃となった。
ここで話が終われば文句なしのハッピーエンド、めでたしめでたし……だったのよね。
だけど、そうはならなかった。
ご結婚後一年も経たないうちに、また国中に、倒したはずの魔物がどんどんと溢れていったのだ。
ジョヴァンニ陛下は再び魔物討伐へと旅立った。
婚姻し聖女としての力を失ったイラレア様は、王が魔物討伐で不在の間、国を政治や経済の面から支えた。魔物討伐隊への後方支援だけでなく、平民たちへの不安や不満を押さえ、王が必ず魔物を討伐して帰還するから信じて待てと繰り返し国民を啓蒙し。地方領主と連携を密にし、街道を整備し、医療体制を整え……と、愛する夫のために、出来ることを全て行いましょうって勢いで、八面六臂のご活躍をされた。
もうね、万が一国王陛下が魔物に倒されても、王妃様がいらっしゃれば国は安泰!ってみんな思っていたくらいよ。魔物討伐が完了してしまえば、戦闘方面にしか才の無いジョヴァンニ陛下なんていらないんじゃない?ってこっそり思っていた者は実は多い。
だけど、イラレア様はジョヴァンニ陛下を本当に心の底から愛していらっしゃった。
で、魔物を一掃し、ようやく愛する陛下が帰って来たと思ったら……なんと、ジョヴァンニ陛下は別の聖女と恋仲になっていた。
それが、カーティア・ダ・ベルッティ様。
魔物討伐という苦難を共に乗り越えているうちに、二人は恋に落ちたらしい。ジョヴァンニ陛下はカーティア様を側室にした。
もう……ね、この時のイラレア前王妃様の心情を鑑みると、ホントお可哀そうとは思う。
だけど、イラレア前王妃はご立派だった。
帰還後も国政なんてまともにやらないで、狩りだとか騎士団の訓練とか、三度魔物が溢れるといけないからと言って国内中の視察に明け暮れているジョヴァンニ陛下の代わりに、引き続き冷静に国を治めていったのよね。
たくさん葛藤をお持ちだったと思うのよ。ご側室のカーティア様が、フラヴィオ殿下とリリーシア姫様の一男一女をご出産したというのに、ご正妃であるイラレア様にはなかなかお子様にも恵まれなくて。それでも妬心も憤りも苦しさも、何もかも呑み込んでさ。辛さは表情には出さずに淡々と、冷静に国を治めていたイラレア前王妃様。ホント立派な王妃様だった。
ウチのお婆様はこの辺のお話をするたびに、泣くのよ。
ああ、イラレア様。どれほどお辛かったことでしょう……ってね。
それでもリリーシア姫様がお生まれになった次の年に、ようやくイラレア王妃様はエルネスト殿下をご出産された。
耐えた上の、待望の王子殿下の誕生よ。
当時の宰相ギド・デ・ドルフィーニ達、親王妃派の皆様は、そりゃあ狂喜乱舞したらしい。
側室の子ではなく、正当なる王太子殿下の誕生だって。
だけど、そんな喜びも、それほど長くは続かなかった。
お読みいただきましてありがとうございましたm(__)m
登場人物紹介
■フラヴィオ・ジェスタ・ヴィセンティーニ
十四年前は15歳。現在29歳。
黒髪、翡翠の瞳、割と頑健。
父である前王ジョヴァンニ・ロッシ・ヴィセンティーニが亡くなり、内乱の後、国王となる。
母はジョヴァンニ王の側室であるカーティア・ダ・ベルッティ。
五歳下の妹が居る
持っている魔道は、ラヴィーニアから継承した《炎》と元々持っていた《『色』を見る》能力
ラヴィーニアに操を立て、独身。