16、即帰れ、ですわよっ!
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そんなふうに、ぐるぐるぐるぐる困惑しているうちに、馬車は西の離宮に到着。
その離宮の母屋というか、屋敷の入り口の扉の前には、ものすごい形相で、仁王立ちされているリリーシア様がいらっしゃった。
「ラウラ・ディ・ロベルティ……だったわね。この恥知らずは。まあ、よくも厚顔にも、わたくしたちの住む西離宮まで来れたわねえ」
ぎりと、リリーシア姫様がわたしを睨む。
……ええと、これは出迎えというよりは、ご自分のテリトリーである西離宮の屋敷には、わたしを入れはしないぞという意思表示、かしら……。
「こら、リリーシア。挨拶もしないうちからなんだその敵意丸出しは」
陛下はリリーシア様を咎めるけれど、寧ろわたしはほっとしてしまった。
うんうん、そうですよね。わたしごときがフラヴィオ陛下の愛妾なんて、厚顔だし恥知らずだし。お怒りになるのは当然ですよ。寧ろ納得。
「とりあえず、入らせろ。ラウラの部屋は」
「そんなもの用意しているわけないじゃないですかっ!即帰れ、ですわよっ!」
「……じゃあ、とりあえずどっか空いてる部屋でいいから」
「冗談じゃないですわヴィオ兄様。そんな女を我が離宮に入れたとあれば末代までの恥。彼女に対する裏切りです」
「だから、それは違うって言っているだろうが。良いからとりあえず、こんなところで話す話じゃないんだよ」
「嫌、です」
ええと……つまり、リリーシア姫様は、わたしを西離宮に入れたくないということですね。
「じゃあ言うが。俺は別に東の離宮をラウラに用意して、そっちで俺とラウラと二人で暮らしても良かったんだ。だけど、ラウラのことが分かったら、一緒に住まないとリリーシア、お前が拗ねるだろ?」
フラヴィオ陛下がため息をお付きになる。
リリーシア様は「まあ何を戯言を」と馬鹿にしたように高笑いをされた。あら、まるで物語の悪役令嬢みたい。シア姫素敵。
「拗ねる、ですって?ヴィオ兄様はお馬鹿になられたの?ああ……そうね、そんな女に入れ込んで、ラヴィーニアのことを忘れたヴィオ兄様なんて、まともな思考をなさるわけはなかったのですわよね。……ああ、可哀そうなラヴィーニアっ!ヴィオ兄様はずっとラヴィーニアを愛し続けると言ったくせにっ!」
え?リリーシア姫様、今何と?
わたしの頭の付近に幻の疑問符が大量に浮かぶ。
誰が、誰を、愛し続ける……ですか?
耳がおかしくなったのかなと思って、ちょっと頭を振ってみた。
……大丈夫かな?音声良好?もう変な聞き間違いしないかな……?
「忘れてないって言っているだろうがっ!ああ、もうめんどくせえっ!リリーシア、手を出せ。それでそのままラウラを《見ろ》っ!」
フラヴィオ陛下がリリーシア様の腕を掴んで。そうしてそのままリリーシア様をわたしの方に向けた。
「……シア。お前ならわかるだろう?」
ぎりと、わたしを睨みつけていたリリーシア様の顔が急変した。え?何?フラヴィオ様は何かしたの?
ピクリとも動かないリリーシア様。大きな若草色の瞳をこれ以上もなく見開いて。
「な、シア。だから、ラウラを連れて来たんだ、ここに。俺たちのところに」
ゆっくりと落ち着かせるように紡ぐフラヴィオ陛下の声も、リリーシア様には届いていないよう。
ふらりと、一歩、フラヴィオ陛下から離れる。一歩、また一歩と、リリーシア様がわたしに近づいてくる。
「ラ……、ラヴィー……」
リリーシア姫様の大きな瞳から、大粒の涙がばたばたと零れて落ちた。
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登場人物紹介
■リリーシア
フラヴィオの妹。ジーノとルシアンの母
夫はダリオ・ド・カルーゾ
フラヴィオの5歳年下。