15、まるでエンディングみたいだけれど、飛ぶ疑問符
本当の、ラヴィーニアの想い。
フラヴィオ様のことが好き。命を差し出せるほどに。
だけど、フラヴィオ様から好きになってもらえるなんて、これっぽっちも思っていなかった。
そもそもゴリラ面の女が、さわやか少年殿下と恋愛なんて、無理でしょうし、身分も違う。
だけど、きれいだとフラヴィオ様がラヴィーニアに言ってくれたから。だから、好きになってしまった。
どうしようもなく。
叶うはずなど無い思いだとわかっていただけではなく……本当は、ちょっと、フラヴィオ様のことを信じてもいなかったの。
ラヴィーニアが綺麗なんて。信じられない。
何処をどう見たら、きれいなのよ?
だから、愛妾になれ、惚れているからと言われたけれど。
そして、好きかどうかを問われたけれど。
何もかもをかなぐり捨てて、一直線にフラヴィオ様に飛び込む……ってふうにはなれなかった。
あの襲撃を受けたデビュタントの日から時間が経って。
わたしとエドアルド様の婚約は無事に解消となって。
周りの状況は変わっていっているのだけれど、わたしの心はどこか置き去りにされたままのようで。
ずっと呆然と、外なんかを見ているだけだったりして。
多分、婚約解消もフラヴィオ陛下が手を尽くしてくださったのだとは思うのだけれど。ああ、そうそう、お父様はにこにこ顔でお婆様に婚約がなくなったことを報告してくるわっと一足先に領地に戻られた。いつまでも領地をお母様お一人にお願いしているわけにもいかないしね。だけど、だ、大丈夫かな……お婆様、怒り狂うんじゃ……。ま、心配だけど、あちらはお父様にお任せしよう。お兄様とジュリアちゃんは、わたしが西の離宮に向かう日まで、一緒に南翼に居てくれるとのこと。もちろん侍女のマリーちゃんも一緒に。
愛妾だから、結婚式とかはないけれど。それでもこれからずっとフラヴィオ陛下と一緒に居られると思うと。心臓、ひっくり返って三回転半位しそう。胸の中はすっきりしないままだけど。
騙されているわけではないし、フラヴィオ様はそういうことはしない。
じゃあ、何なんだと思ってしまって、わたしは自分の頬を抓る。毎日毎日、何度も何度も。
夢じゃないのか?これ、神様がご褒美として、夢を見させてくださっているんじゃないかと思ったこともある。だけど、頬をむにっと詰まんでみても痛い。これは現実なのか……。これまでの事は全て、死に間際のラヴィーニアが妄想ではないのか……と、何度も何度も疑った。
それを何度も繰り返す日々。
どうしても、胸がモヤモヤしてすっきりはしない。
その原因は、フラヴィオ陛下。
殿下だった時からラヴィーニアを綺麗って言って、それで、今のわたしにも好きだって言ってくださっている……とはわかっている。
分かっているけれど、そもそもの「ラヴィーニアが綺麗」って言うのが、信じられないんだな……。だから、わたし、もやもやっているんだろう。多分、きっと。
自分で言うのもなんだけど、ラヴィーニアのどこが綺麗なんだろう?ゴリラですよあれ。
なかなかそんなことを陛下に尋ねも出来ないまま。南翼での日々が経過。
南翼での住まいは三階から最上階へと移されて。
ドレスや化粧品や装飾品やらが山のように届けられて。
王城の侍女達が付けられて、眉とか整えられて。肌も髪も、これ以上もなく磨き込まれて。
……わたし、嘘みたいにきれいになった。我が家の侍女のマリーちゃんなんて「ふんすふんす」と息を荒くしながらも、王城の侍女さんたちの化粧技術を盗み見ている。それで得た技術を、マリーちゃんはジュリアに施して。すると元々ウサギのように可愛らしかったジュリアは、天使のような超絶美少女に変身した。……化粧ってすごい。
陛下は、隙を見て、わたしのところに顔を見せに来てくださるけど、襲撃後で忙しいというかなんというかいいのかな。なんか気持ちがふわふわして恐れ多いというかなんというか。納得できない思いを飲み込もうとして、呑み込めない感じ。
そしてそのまま。わたしは恐れ多くもフラヴィオ陛下と共に馬車に乗せられて、西の離宮へ向かっているのです。
お兄様とジュリアちゃんに「幸せになってねーっ」と見送られて。
おかしいよねこの状況。フラヴィオ様が馬車に乗るのはいい。だけどわたしも一緒に馬車の中というのが、どうにもこうにも……落ち着かない。前世の時は、当然馬車の外ですから。馬に乗って、馬車に並走。それがラヴィーニアのあたりまえだったから。フラヴィオ陛下の横に座り、その陛下に肩を抱かれ、陛下はわたしの髪を指に搦めて微笑んでって……ちょっと待ってこれどういう状況って首をかしげたくなる。
ええ、そりゃあ、もう公式に、わたしラウラ・ディ・ロベルティは、フラヴィオ・ジェスタ・ヴィセンティーニ国王陛下の愛妾となりましたよ、書類上は。
領地に戻る前のお父様が書類にサインもしたし、わたしもした。
結婚式とかはしなかったけれど、西の離宮へ向かう前の南翼でのわたしの扱いはもう最上級のものだったし。いえ、愛妾としてのお勤めはまだですが。閨は共にしておりませんがまだ。
でも、西の離宮について、生活に慣れた頃には、そこでフラヴィオ陛下とそういうこともするようになるんだろう……愛妾になったんだし。
これじゃあまるでお姫様 (じゃないけれどわたしは) は、王子様(というか陛下だけど)と一緒に幸せになりましたっていう、よくある童話のエンディングみたいじゃない。
そのお姫様のように、幸せいっぱいで花が咲き乱れている感じじゃなくて、わたしには疑問符が飛びまくっているけれど。
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