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11、何がどうしてそうなるの!?


わたしの話を聞いた後、ジュリアはずっと何か考えているみたいだった。


「あの……お姉様」


エドアルド様に無理矢理引きずられて歩いた廊下を半分くらいまで戻った時、ジュリアが足を止めて、真剣な顔でわたしを見た。


「ラヴィーニアのお姉様が八歳の殿下に恋をするのは、ちょっと……と思うのですけれど。十四歳のラウラお姉様が二十九歳の陛下をお慕いするのは問題が無いのでは?」

「へ?」

「立場的にも護衛と殿下ではなく。今は伯爵家という、身分的にはそこそこの貴族の令嬢と独身の陛下ですから。婚姻を結ぶのもありかと思うのですけれど」

「え、えええええええっ!な、何を言うのジュリアっ!そんなわたしが陛下に……なんて、身の程知らずよっ!わたしは……ラヴィーニアの時も今も、陛下がお幸せで……笑ってお過ごしくださればそれでいいのっ!護衛で十分だったし、命を懸けてお守り出来て幸せよ!それ以上を望んだことなんてないわよっ!」

「……良いのですか?例えば……今、陛下は独身でいらっしゃいますけれど、何れ王妃様をお迎えになられるかもしれません。その時お姉様は後悔なさりませんか?」

「しないわ。陛下が幸せならわたしそれでいいの。王妃様ごと陛下をお守りするわ!それに……」

「それに?」

「ジュリアちゃん、忘れてない?わたしには婚約者がいるのよ」


あのエドアルド様がね……。愛も情もなーんにもありませんが。

お婆様のご命令で結ばれた婚約でしかありませんが。


「あ……」


ジュリアちゃん、完全に忘れてたでしょうエドアルド様の事。ジュリアは眉根を寄せて、顔を顰めた。


「も、もうっ!あんな、いるだけ無駄な方との婚約など、無かったものにすればいいのにっ!」


全く持ってその通りよね。うんうん。陛下云々はともかく、エドアルド様とは距離を置きたい。


まあ、お父様とお母様はね、わたしの気持ちを分かってくださると思うの。婚約などなかったことにしたいと言えば、承諾してくださる。


だけど、お婆様がね……。お父様たちに、お婆様を説得していただくのは……大変申し訳ない。逆上したお婆様、ヒステリー……っていうか、お年を召して、自分の考えだけに固執されて。イラレア様至上主義っていうか……、イラレア様がお亡くなりになってしまったから、神格化してしまっているようで。それが年々ひどくなっていっている。ふう……。だけどお婆様の懐古主義に付き合って結婚するのもねえ……不毛だわ。

別に、貴族の婚姻なんて、愛も恋もない家と家の繋がりって言うのもわかるわ。だけど、わたしとエドアルド様の婚約は、別に家の為じゃないのよね。利益もない代わりに不利益もない。だって、単にイラレア様至上主義の、おじーちゃんとおばーちゃんが孫息子と孫娘を婚約させたってだけだもの。

ただねえ……。わたしが陛下のことを想いつつ、エドアルド様に嫁ぐというのもなあ……。なんというか、ごめんって感じ?


あーあ、時間が経てばそのうち何とかなるのかなあ……。

それとも、問答無用でわたし、ロベルティ家から出奔して、もしくは勘当してもらうっていう形を取らせてもらって、平民になって、護衛官に勝手になっちゃえば上手くいくかなあ……。でも、駄目だ。そうなったらエドアルド様の婚約者、わたしからジュリアちゃんに押し付けられちゃうわ。なんか方法考えなきゃ……。


なんて、ジュリアと話しながら、結構時間をかけながらもデビュタントの大広間にまで、ようやくのことで戻りました。

エドアルド様に言われたとおりに回廊を通って南翼に行かないのは……反抗とかではないですよ?大広間まで戻ればお兄様やお父様と合流しやすいかなーって。

そんでもってですね、付近を探してかなり時間がかかってから、ようやくお父様とお兄様と会うことが出来て、四人そろって南翼の割り当てられた部屋の方へと戻って行ったの。


部屋に閉じこもっている人もいるのだろうけれど、南翼三階の廊下は割と大勢の人があちこちに小さな輪を作ってなんやかんやと話をしていた。

襲撃された興奮とか。

王城を襲撃されるのは現王がふがいないからだとか。

今回のデビュタントはどうするのかとか。

王都まで来るのもタダじゃないのにとか。

そんな愚痴愚痴とした言葉はあまり聞きたくないな、と顔を顰めながら部屋へ戻ろうとしたら、その部屋の前には不機嫌な顔で腕を組んでいるエドアルド様がいた。


「遅いっ!今まで何をしていたんだっ!もうとっくに戻っているはずだろう!」


……何を言っているのでしょうね、この方は。そりゃあ確かに、先ほど上腕を掴まれた時、部屋に戻っていれば、確かにとっくに戻っていたでしょうけれど。あー、エドアルド様が怒鳴るから注目浴びちゃったじゃない。愚痴愚痴言っていた皆様の視線が集まる。うわー……。


「そう仰られましても……。父と兄を探しておりましたもので」


淑女の仮面で粛々と答える。エドアルド様はわたしの返答に舌打ちをする。


「それにそのドレスっ!裂けている上に血塗れじゃないかっ!」

「ええ。襲撃者を撃退していましたもので」


涼しい顔で答えてやる。エドアルド様はちょっと呆気にとられた顔をしたけど、すぐに真顔に戻った。


「まあ、いい。だが、オレの指示にも従わず、そんな血塗れで裂けたみっともないドレスを着て平然としているようなお前など、オレには相応しくない。ラウラ、お前との婚約など破棄してやるっ!」


婚約破棄の理由になどならないことを唐突に叫んできた。

わたしとしては婚約破棄上等!寧ろラッキーだけど。

こんなところで注目を集めて行うことじゃないでしょう。そもそも貴方のお爺様のギド・デ・ドルフィーニ伯爵の、許可、取れてるの?


「そもそもだ、我がドルフィーニ家は今は伯爵位だが、元は侯爵家。しかもオレの祖父はイラレア前王妃殿下の宰相を務めたギド・デ・ドルフィーニだ。何の特色もない田舎貴族の小娘がオレの婚約者だということ自体が元々おかしかったんだ。破棄でも白紙でも構わないが、今後一切オレとお前など無関係だと思えっ!」


……そこまで言うのなら、ドルフィーニ伯爵の許可はエドアルド様が取っていただけるのでしょうねえ。よし、じゃあ、この婚約破棄、乗っかってやれ。公衆の面前で大々的に婚約破棄されれば、流石のウチのお婆様も、エドアルド様に謝罪してもう一度婚約を結び直せなどとは言えないだろう。ふっふっふ、そう考えれば、寧ろ、大勢の人間の前での婚約破棄、ありがとうございますっ!だわね!!


「そうでございますね。エドアルド様のおっしゃられる通りですわ。よろしいでしょう。わたし、ラウラ・ディ・ロベルティはエドアルド・デ・ドルフィーニ伯爵令息のお申し出の通り、婚約の破棄を承知いたします。お父様、お兄様、よろしいですわよね?」


ちらりと、目線をエドアルド様からお父様へと移す。お父様は沸騰してるんじゃないの?と思うくらいに顔を赤らめて怒っていらっしゃった。


「もちろんだっ!こちらは元よりドルフィーニ伯爵家などのつながりは不要だっ!いいや、このフラヴィオ陛下の御代に、未だイラレア前王妃に執着している古い頭のドルフィーニ家など、我が家にとっては害悪以外の何物でもないっ!母が何と言おうと即座に破棄してくれるともっ!……ラウラっ!」

「はいいっ!お父様っ!!」


うわーあ、目まで血走っていらっしゃいますよ、お父様。いえ、そんなに怒ることはございません。こんな公衆の面前で、わたしが恥をかかされたとかお思いで怒ってくださっているのでしょうけれど……、わたしにとって婚約破棄はむしろ僥倖なのですから。


「さっさと婚約破棄の手続きを終えてやるっ!その後は別のまともな相手を探してやるっ!こんな阿呆より、何倍もいい男をなっ!」


口から唾を吐き出す勢いのお父様。鼻息までも荒いです。

あー、でも、わたしは別に、新しい婚約者を見繕ってもらわなくても、近衛隊に入団するからいいですよー……とは言えないですね今は。お父様、とりあえず落ち着いて。どうどうどう。ほら、わたし、元々ゴリラヴィーニアですからね。結婚願望なんて、前世から無いし。寧ろ近衛隊に入って、またフラヴィオ殿下の護衛官になりたいなーなんて。


そこまで考えたところで、ピッカピカに磨かれている大理石の廊下にかっつーんと、足音が、響いた。


「ほう、何倍もいい男か。では、俺などはどうか?」


聞き覚えのある声に振り返って見れば。

そこには何故か、護衛を引き連れたフラヴィオ陛下がいらっしゃった。


わたしも、お父様もお兄様もジュリアちゃんも……この場にいる誰もがいきなり現れたフラヴィオ陛下に慌てて頭を下げた。もちろんエドアルド様も。


「あー、皆、楽にしろ。で、お前がラウラの父親のロベルティ伯爵だな?」


いきなり名を呼ばれたお父様は、汗をかきながら、「陛下におかれましてはご機嫌麗しく。ランベルト・ディ・ロベルティでございます」と何とか答えられていた。


「うん、それでだ。ラウラは婚約を破棄する予定。で、次の婚約者にその男より何倍もいい男を見繕うということだな?」

「はっ!」

「ならば俺はどうだと問うたのだが?」

「は?」


俺はどうだ、の意味が分からず、お父様は首を傾げた。わたしもお父様同様、ぽかんとしてフラヴィオ陛下を見る。


コツコツと、音を立てて、フラヴィオ陛下が近寄ってくる。わたしの目の前で、足を止めてわたしを見下ろす。……デジャブ?いえ、単に本日二回目の構造ですね。

じーっと、穴が開きそうなくらい、フラヴィオ陛下はわたしを凝視してからおもむろに口を開かれた。


「ラヴィー……じゃなかったな、ラウラ」

「は、はい」

「一つ問う。お前の元婚約者と俺とでは、どちらがいい男だとお前は思うか?」

「もちろん陛下でございます」


わたしがそう即答したら、フラヴィオ陛下は嬉しそうに笑った。え、え、え、な、何?


「じゃあ、決まりだな。ラウラ・ディ・ロベルティ」

「は、はいっ!」

「お前、俺の愛妾になれ」

「へ?」


阿呆のような返答をしたことを許してほしい。


でも、だけど。あ、愛妾って、愛妾って……わたしがフラヴィオ陛下の愛妾!?

何がどうしてそうなるの!?




お読みいただきましてありがとうございます


次回10月28日12時ごろ更新です。よろしくお願いいたします。

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