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1、女護衛官ラヴィーニア、伯爵令嬢に転生する


タイトル変更しましたm(__)m


「転生した伯爵令嬢は、拳で殴って解き放つ」

  ↓

「転生前から好きだった。だから愛妾になれ」と国王陛下から命じられた転生伯爵令嬢の話




コンテストに応募するため、ガンガン更新していきたいと思います。

楽しんでお読みいただければ幸いです。


それは、些細な呪い。自分自身への呪縛。


例えば、身分が違うとか。

相手に釣り合わないくらい不細工だとか。

自分を裏切った相手に何でもないよと笑顔を向けて、ずっと一緒に暮らし続けなければならないとか。


仕方がないとあきらめて、痛む心は見ないふりをして、たいしたことではないと思い込む。

釣り合わないから仕方がないね。諦めた方が楽だよね。

長い物に巻き込まれた方が良い。だって、逆らったってどうしようもないでしょう?

相手の言う通りにしていたほうが波風立たなくて済むじゃない。


そうして乾いた笑いでも浮かべていれば、日々は淡々と問題なく進む。



これは、そんな呪縛を「ぶん殴って幸せになる」ための物語。







はあ、はあ、はあ……。

吐き出す息が、熱い。

目の前が、翳む。

何千もの針で刺されているかのように全身が痛む。

受けたのはかすり傷。だけど、その剣には毒が塗ってあった。……だから、きっともう間もなく。わたしの命は尽きる。

足が、もう、まともに動かなくなって、わたしは膝から崩れ落ちた。


「ラヴィーニアっ!」

「ラヴィっ!しっかりしてっ!」


フラヴィオ殿下とリリーシア姫様の、叫んでいるはずの声が、どこか遠い。沈んだ水の中から聞いているみたい。


ああ……。


わたし、護衛なのに。

お二人を、今、ここで、お守りできるのはわたししかいないのに……。


悔しさで、涙が出そうになる。

だけど、泣いている場合じゃない。

まもなく、わたしの命が尽きるなら。

その前に、やらなくてはならないことが、ある。


だけど……神様。それは、許される行為ですか?


「しっかりしろラヴィっ!」


わたしが守るべきフラヴィオ殿下が、倒れたわたしを抱き起そうとする。ああ……申し訳ない。お手を煩らわさせてしまった。


「……申し訳、ございませ……。ここ、まで、の、ようで……」

「そんなこと言うなよっ!カルーゾ侯爵のところまで行けば。侯爵なら、きっと俺達を助けてくれるんだろう!?だから、立てよっ!歩けっ!頼むからっ!ラヴィーニアっ!」


あの狸親父(カルーゾ侯爵)なら、きっとフラヴィオ殿下とリリーシア様を保護してくれる。イラレア王妃にも対抗できる権力がある。そう言って、わたしはフラヴィオ殿下とリリーシア姫様を連れて逃亡した。

逃げて逃げて。王都を抜けて、川を下り、今、この森まで来た。カルーゾ侯爵の領地まであと少し。きっと、侯爵なら助けてくれる……はず。陛下の葬儀の時だって、王妃様に対して声を荒げたのはカルーゾ侯爵だったと思うし……。まあ、リリーシア姫様と自分(カルーゾ侯爵)の息子を娶せて、生まれてきたのが男子なら、その子を将来の王太子として擁立、狸親父は王太子の祖父として権を振るう……とか程度はするだろうけど。それともフラヴィオ殿下を養子にして、殿下を将来国王にでもするかしらね。狸親父にいいように使われてしまうかもしれない。でも、王妃様からの追手によって殺されるよりマシだろう。とにかく生きていれば何とかなる。だけど、カルーゾ侯爵領までの、そのあと少しの距離は、なんて遠いのだろう。攻撃の手段を持たない殿下と姫様が、二人きりで森を彷徨い、カルーゾ侯爵のところまで無事にたどり着けるとは思えない。魔物も出る。追手も来る。


わたしが死ねば、フラヴィオ殿下とリリーシア様をお守りできる護衛はいない。武器もない。


だから、私は決断しないといけない。


ああ……神様。わたしが今から行う行為は、許されることですか?わたしのように行き遅れの独身で、ゴリラみたいにデカくてゴツい女護衛官が、護衛対象である十五歳の王子様のキスを奪うことは……犯罪ですか?不敬ですか?

それが小児性愛者による変態性欲的に邪な想いを込めたキスではなくて、殿下に《炎の魔道》を《継承》していただくために必要な行為だとしても、許されませんか?


だけど、するしかない。許されなくても。


わたしは死力を振り絞って手を伸ばす。フラヴィオ殿下の頬に、触れる。


「でん、か……」


そのままわたしはフラヴィオ殿下の唇に自分の唇を重ねた。そして≪魔道の呼気≫を魂と肉体の奥底から吐き出して、フラヴィオ殿下に《継承》させる。


驚きに見開かれるフラヴィオ殿下の翡翠色の瞳。


……ああ、綺麗だなあ。


この瞳に、いつまでも映っていたかった。

ずっとお側で、フラヴィオ殿下とリリーシア姫様をお守りしたかった。


「わた、しの……≪炎≫を、継承……、どう、か、これで、御身と……シア姫様、守、って……」


唇に触れたことをお許しくださいと、謝罪する前に、わたしの視界は暗転した。


「ラ、ラヴィーニアっ!」

「嫌ああああ、目を開けてえええっ!」


もうフラヴィオ殿下の翡翠色の瞳も、夜のような漆黒の髪も見えない。

リリーシア姫様の若草色の大きな瞳も見えない。


泣き叫んで下さる殿下に「唇を奪うような行為をしてしまって申し訳ございません」と言えたかどうか。

分からないまま、わたし、ラヴィーニア・デ・スピネラーデは死んだ。




これが、十四年前の出来事。




お二人をきちんと最後までお守り出来なかったことに未練があったのか、それとも神様の気まぐれなのか。


わたしは死してすぐ、転生というものを果たしたらしい。

しかも、フラヴィオ殿下とリリーシア姫様が生きていらっしゃるそのままの時代に。


今のわたしはラウラ・ディ・ロベルティという名の伯爵令嬢だ。


前世、ゴツくてデカイ女だったコトの反動か、今のわたしは小柄だ。二つ年下の妹よりも頭一つ分小さい。夕焼けのようなオレンジ色の髪と琥珀色の瞳は前世のラヴィーニアの時と全く同じだけれど、背が低くて身が軽いのでちょこまか動くようになった。だから今のわたし(ラウラ)前世のわたし(ラヴィーニア)とでは印象が全く異なる。


そう……ね。動物に例えて言うのならば、ラヴィーニアはゴリラ。そしてラウラはリスかしらね。うんうん、ラヴィーニアの時(転生前)のあだ名は「ゴリラヴィーニア」とか「メスゴリラ」だったしねえ……と、そんな感じ。ま、まあ、ちょっと胸にグサッとくるものがあるけれど、前世は過去。過ぎだったもの。それに今のわたしは可愛い子りす。


可愛いなんて、家族からしか言われたことはないけどね!

婚約者のエドアルド様からも言われたことはないけどね!

ああ、リスと思っているのは自分だけで、小さいゴリラだったらどーしよー……。


でもね、容姿なんて、変えられないものを悩んでいても仕方ないわよね!美人ではないけれど、不細工ではないということに感謝しましょうか。ゴリラじゃないだけマシというものよ!うんうん、多くは望みません!フツーでオッケー!そう、何事も普通が一番です。顔も、成績も、友人関係もごくフツーの、何の特徴も特長もないごくフツーの平凡な伯爵令嬢。


それが今のわたし。十四歳のラウラ。


そんなふうに「普通」や「平凡」を主張すると、妹のジュリアから白い目を向けられるんだけどね。


「ラウラお姉様のどこが普通なのですかっ!普通の伯爵令嬢はドレスの中に短剣などを隠し持っておりませんっ!騎士の真似事も致しません!!」


あはは、ジュリアちゃんごめんなさい。短剣を服の中に忍ばせているご令嬢なんて、普通じゃなかったか。それに、低いヒールの靴の踵には鉄板が仕込んであるし、輪が連なっているようなデザインのネックレスは、わたしの指の大きさにあつらえてあって、手に装着するとカイザーナックルのような武器としても使えるようになっているし!素晴らしいでしょう!!ま、普通じゃないけどいいか!細かいことは気にしない!!前世のラヴィーニアが規格外の女だったので、普通というものに憧れがあるだけなのよ!


で、ええと。何でこんなこっそりとした武装をしているのかというと……ね。騎士や護衛官なら帯剣は普通だけど、一般的に伯爵令嬢が武器を携帯するなんて、ちょっと無理、だからなのです。そもそもドレス姿では剣を腰に下げることも出来ない。


でもわたし、武器の一つや二つ、持っていないと不安なのよ。


前世と同じように《炎の魔道》とか使えるのなら、手ぶらでも敵の一匹や二匹簡単に倒せるんだけど……。まあね、《魔道》を持っていても、前世は死んだけどね!ゴリラなラヴィーニアも毒には勝てなかったわ。ええと、過去は置いておこう!今のわたしは《炎の魔道》を失った代わりに何と《身体強化》という魔道が使えるようになりました!ラッキーです!これもなかなか使い勝手の良い《魔道》なのよ。神様ありがとうございます!これ、神様のご褒美みたいな能力ですよね!前世でフラヴィオ殿下にしてしまったキスは罪にならなかったと判断してもよろしいでしょうか!?宜しいですよね!……でも、わたしの《身体強化》はまだまだレベルは低い。これから鍛えるつもりだけど、今のところは武器との併用が必要。


「どこの世界に襲撃者に備える令嬢がいるのですかっ!王家のお家騒動だって、もう何年も前に終わっております!当時ならともかく、既に平和となったこの世の中に、そんなものに対する備えなど必要ありませんっ!もしも、万が一、襲撃などを受けるかもしれないと、非常事態を想定されるのであれば、相手を倒そうとするのではなく、まず逃げることをお考えになるべきでは!?」


あら、鼻息荒いわね、ジュリアちゃん。それに平和、ねえ……。うん、でも、前世の時だって、殿下や姫様も、カーティア様があんなことを言うまではそれなりに平穏にお暮しだったのよ。わたしの前世、ラヴィーニアは前国王陛下のご側室のカーティア様の護衛官だったのだけれど。だから本来はカーティア様のお傍に付き従って、その御身を守る……というか、庭先とか離宮の廊下とかで直立不動の警護……だったのが、いつの間にかフラヴィオ殿下やリリーシア姫様の遊び相手みたいになっていたのだけれどね。何故か、慕っていただいてね。護衛というか遊び相手のようだったわ。追いかけっこに木登りにかくれんぼ。すごく楽しかった。リリーシア姫様のことも「シア姫」と愛称で呼ぶことも許されたほど信頼とか信用とかしてもらっていた。

それが前王妃イラレア様からの刺客に襲われてからは、一転。フラヴィオ殿下とリリーシア姫様を連れて、山とか森とか、追手を倒しながらの逃亡劇よ。挙句、追手からの毒を受けて、死んだしね。


そんなふうに、平穏というものはいきなり破られるものですのよジュリアちゃん。だから、日ごろの備えが重要なんです。





お読みいただきましてありがとうございましたm(__)m






登場人物紹介


■ラウラ・ディ・ロベルティ


主人公。伯爵令嬢、十四歳。

オレンジ色の髪、琥珀の瞳。リス顔、小柄。

持っている魔道能力は《身体強化》

転生前はゴリラ似の女護衛官ラヴィーニア。

前世の影響で、武器を隠し持つ。

父・母・兄・妹の五人家族

婚約者はエドアルド・デ・ドルフィーニ伯爵令息

後にフラヴィオから「愛妾になれ」と命じられる。


■ラヴィーニア・デ・スピネラーデ


ヴィセンティーニ所属国騎士団近衛隊第二小隊隊員として国王の側室の護衛となる

行き遅れの29歳。長身、筋肉質。あだ名は「メスゴリラ」「ゴリラヴィーニア」

フラヴィオとリリーシアには「きれい」と言われる。

持っている魔道能力は《炎》だが、それをフラヴィオにキスで継承させたのち、毒にて死亡。

ラウラに転生する。




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