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映したら

作者: 青墨

梅雨になったので。

我が家の裏手には紫陽花が咲いているらしい。紫陽花は紫色ではないものも多数あり、裏手に咲いている紫陽花も水色や桃色に近いもの、紫色もあるらしい。十年以上住んでいても、我が家の敷地だから分かるという訳でもないのは単純に実家ではあるが、生家でもなく、名義も勿論私の家ではないからだ。家は必ずしも人が住んでいるだけで保たれることはなく、住人が積極的に手入れをすることで綺麗に保たれるものである。私はそれもしていない。それが、私が最近まで裏手に紫陽花が咲いていることも知らず、今も遠目に裏手からはみ出している花しか見ていないから、咲いているらしいとしか言えない理由だ。

ただ、私は紫陽花がこの数年で好きになった。

切欠は写真である。誰かは分からない人の、綺麗に紫陽花を撮った写真で蛞蝓がたまにくっついている不思議な形の花、という印象が大きく変化した。実際には蛞蝓はあまり紫陽花とは相性が悪く、子どもの頃の偶々見た風景で、後々間違った組み合わせであることが分かった。それでも写真を見た段階ではその印象があるまま、一枚の写真で紫陽花へ抱く気持ちが変わった。

私の中では梅雨の時期に咲く泥臭く、陰鬱な花だった。小学生の頃、梅雨の時期は一人で帰ることが多く、余計に横を通ったときの何とも言えない不穏さを思い出すことが多かった。桜と同じように下には人が埋まっていて、そこから養分を吸収してるなんて話も聞いたことがあり、不気味だとすら思っていた。

印象が変わった写真では水に浮かんでいたり、小柄な人間の背丈よりも高く上に咲いていたり、雨の滴も相まって瑞々しく淡い存在に思えた。淡いものに滅法弱い私はその写真で惹かれてしまった。紫陽花の陰影を強くして撮られたものも、私が抱いていた陰鬱な印象と不穏さを美しく昇華されたものが多く、美しさはやっぱり恐怖からも感じてしまうのだと改めて思わされた。

我が家の裏手には紫陽花が咲いているらしい。

私にとって、これは曖昧な話であり、開かずの間の話を聞いているようなものだった。

今年の梅雨が終わらないうちに私は我が家の紫陽花を写真に残したい。いつまで住むのか分からないというのもあるが、知らないでおくには怖いもののような気がしてきたからだ。

最近好きになった花を綺麗に写真に残せたらそれでいいのだけど、何か違うものが映ったら次に私は紫陽花をどう思うんだろう。

写真はまだ撮ってません。2021年6月20日午後7時14分

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