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番外編 小説の彼と彼女のその後


 ロゼリアが転生者ではなかった場合、小説通りの展開になった後のライルと本家ロゼリアのif話です。短めです。


 ライルもうすぐ16歳、ロゼリア17歳です。





「ちょっとライル! さっきわたくしの部屋に来なさいって言ったでしょう、主人の命令を無視するなんてどういうつもりよ!」


 耳障りな甲高い声を張り上げ、顔を真っ赤にして責め立てるお嬢様を、僕は心底冷えた目で見下ろした。


 本当に、見た目しか取り柄のない可哀想な女だ。

 もう少し性格がまともなら、ここまで落ちぶれることもなかっただろうに。


 一年前、現在の王太子の婚約者であるリーナ・メイビス様を虐げたとして、ロゼリアお嬢様が王太子から婚約破棄され、王都追放に処された事件は記憶に新しい。

 リディウス侯爵家の影響力は地に落ち、侯爵様は宰相職を降ろされた。爵位降格も時間の問題だ。


 王都追放になり、パーティーどころかお茶会にすら呼ばれないロゼリアお嬢様は、ひたすら領地の別邸に引きこもっている。

 少しはしおらしくしているのかと思えば、この通り我が儘放題で、外に出られない鬱憤を全て使用人にぶつけているらしい。


 今日は別邸の管理者であり、僕の祖父でもある執事のシュトラール様に侯爵様からの伝言を伝えに来たのだが、厄介なことにお嬢様に目をつけられてしまった。


「まだ仕事が山積しているので、もう本邸へ帰らなければなりません。何か用事があれば、ここでお聞きしますが」


 この女と密室で二人きりになどなってしまえば、後から何を言いふらされるか分かったものではない。


 社交会に出ることもできないお嬢様にまともな縁談など来るわけがなく、歳を取って隠居した辺境貴族の後妻の話がいくつかのみだと聞いた。

 お嬢様は絶対にそんなところには嫁がないと、別邸の若い使用人を片っ端から誘惑して、妊娠しようとしているらしい。子を孕んでいるとなれば嫁がせるわけにはいかないからだ。


 お嬢様はなんとしてでも侯爵家に居座るつもりなのだと苦々しげに語る同僚の話をまさかと思って聞いていたが、この傍若無人な振る舞いを見れば、その話が真実であることは間違いないだろう。


「そう。それならお父様に頼んで、あんたを本邸から別邸の従者にさせるわ。それならずっとここにいられるでしょう?」


 意地悪く口角を上げ、蔑むように笑う姿に虫唾が走る。

 侯爵様は僕を重用して下さっているので、この女の言いなりになどならないと信じたいが、この女をこんな風に育てた張本人でもある。

 最悪の場合侯爵家から出て行くことも考えなければならない。


「それにしても、こんなに立派に育つとは思わなかったわぁ。初めて会ったときはただの子供だったのに、未来は分からないものね。背が高くてスタイルもいいし、美しく精悍な顔つきで…わたくしの好みよ?」


 上から下まで舐め回すように見られ、鳥肌が立った。


 この女と初めて会ったのは僕が十歳になり、父に連れられてリディウス侯爵家へ挨拶に行ったときだ。

 最初はなんて綺麗な女の子だろうと思ったが、次の瞬間彼女の評価は地に落ちた。


「まぁ。エディルと同じで地味な髪に目の色ね。顔はいいみたいだけど、将来うちに仕えるんだから、せめて髪の色くらいはなんとかしてよね。美しいわたくしには美しい従者がお似合いなんだから」


 高飛車に話す、見た目にしか興味のない浅はかな少女に絶望した。僕はこんな人に生涯仕えなければならないのかと、ガーナ家に生まれたことを呪わしく思った。

 十五歳になれば従者教育を終え、侯爵家に出仕しなければならない。

 あっという間に五年の月日が流れ、その日が刻一刻と迫ってくるのを断腸の思いで日々過ごしていると、例の事件が起こった。

 お嬢様は本邸からいなくなり、入れ違いで侯爵家に入った僕は、この僥倖ぎょうこうをありがたく享受きょうじゅすることにした。


 このまま侯爵様の従者として侯爵家に仕えられればと、そんな思いを抱いていたが、別邸に来てしまったのが全ての運の尽きのようだ。


「別邸には充分な人数の従者がいるはずですが。僕が別邸に行かなければならない理由はありません。では、失礼します」


 冷たく言い放ち、踵を返して邸を去る。

 後ろからまた甲高い怒鳴り声が聞こえたが、振り返るつもりはない。


 お嬢様にはああ言ったが、正直なところ侯爵様がどんな采配を下すかはわからない。


 ガーナ家の人間として侯爵家を見捨てるのは忍びないという思いはある。しかしそれでも、あの女をどうにかしない限りは公爵家とともに共倒れになることは明白だ。

 この期に今後の身の振りを考えなければならない。


 お嬢様の欲情を含んだ視線を思い出し、嫌悪で顔が歪んだ。


 一刻も早く、父と面談の機会を設けなければならない。

 自分の中で侯爵家を去るという結論が確かなものになっていることに気づかないふりをしつつ、帰路を急いだ。





 ロゼリアが転生してなかった場合のライルを書いてみたら辛辣すぎて面白かったので、番外編として載せてみました。

 15話があまりに甘すぎたのと、今後もやや甘めな展開が続くので、お口直しとして読んでいただければと思います。

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