7月16日(3回目)②
「結衣ちゃんが死んだっていったいどういうことよ」
美鈴は部長に問う。
「俺もついさっき知ったんだけど、昨日、俺たちが解散して学校から帰るとき、通り魔に殺されたらしい」
「通り魔なんて、なんでそんな急に。元の世界線ではこんなことなかったじゃないですか!」
「それなんだけど、覚えてるか? 元の世界線で、最近隣の市で通り魔殺人が起きてたこと」
俺は記憶を遡らせる。確かに、言われてみればそんなこともあったかもしれない。
「でも、その通り魔犯人は逮捕されてたはずじゃ」
「その犯人が逮捕されたのは7月16日だ。タイムマシンを使う前の元の世界で俺たちは何日過去に戻った? ここまで言えばもうわかるよな」
タイムマシンを使う前の世界は7月20日だった。そして、俺たちはタイムマシンを何回使った? 5回だ。ということは、俺たちは7月15日までに戻った。つまり、それは通り魔殺人犯が逮捕される前だ。元の世界線では、その通り魔犯は7月16日に逮捕されたが、俺たちが過去に戻った結果、パラレルワールドの分岐点が変わり、16日に逮捕されなかったということか。そして、昨日下校途中の結衣が殺された。
「えっ、でも待って。理屈は分かったけどさ、そんなことって普通ありうる?」
美鈴が泣きながら言う。
「まあ絶対にありえないとは言えない。まさか俺もこんなことになるなんて思ってもみなかったけどな」
「そんな! てかどうしてあんたそんな冷静なのよ。結衣ちゃんが殺されたんだよ。悲しくないの?」
「もちろん悲しいよ。めちゃくちゃ驚いたし焦ったよ。でも、まだ打つ手はある」
部長が言おうとしていることが分かった。俺はそれに続けて言う。
「もう一度タイムマシンを使えば、結衣が生きているときに戻れるってことですよね」
「そうだ。これしか方法はない。もう一度昨日に戻って、結衣ちゃんが殺されない未来にすればいい」
「そっか。そうだよね。タイムマシンを使って過去に戻ったせいで、こうなっちゃったんなら、もう一回タイムマシンを使えばいいだけの話だよね。ごめん、私ちょっと焦りすぎてたかも」
「いや、部活仲間が殺されたんだ。当然の反応だよ。謝らなくていい」
「じゃあ、さっそく過去に戻りましょうか」
俺がそう言うと、部長はバッグの中からタイムマシンを取り出した。
ボタンを押すと、タイムマシンが発光し始める。
結衣が殺されない未来を創るために、もう一度俺たちは過去に戻った。