7月15日(2回目)
「いやー、なんだかんだ言って5日間も戻っちゃったね」
美鈴は、んっと言って腕を伸ばす。
「今日は7月15日か。また明日テストがあるって考えると少し億劫だな」
「ちょっとそんな嫌そうな顔しないでくださいよ。ほんとに俺のテスト悲惨な結果になりそうだったんですから。ここは俺の顔に免じて許してください」
「お前の顔に何の価値があるんだよ」
部長は軽く俺の頭を小突く。
「それにしても楽しかったですね、タイムマシン。本当に貴重な体験でした」
「まだまだ改善の余地あるけどな。俺が将来もっと金持ちになって何でも自由に実験できるようになったらもっとすごい体験させてやるよ」
「なんですかそのイケメン発言! シンタローさん、一生ついて行きます」
「ははは、そうだお前ら俺に一生ついてこい」
部長はドヤ顔で笑う。
「ドヤ顔がくっそ腹立つけどマジですごいから何も言い返せないのが悔しいわ」
「美鈴、俺を将来テレビで見るのを楽しみにしとくんだな」
「はいはい、楽しみにしときますよーだ」
部長は冗談っぽく言ってはいるが、実際、数年後に彼のことをテレビで見る日が来ても何もおかしくはないだろう。彼は本当に天才なのだ。今のうちにサインなどをもらっておいて将来メルカリに出せば高く売れるかもしれない。
「もう17時半か。そろそろ帰るとするか」
「そうですね。帰りましょうか」
「このタイムマシンは俺が持ち帰るとするよ。部室に置いといて先生とかに取られたら最悪だからな」
部長はタイムマシンをカバンの中にしまう。
俺たちは帰り支度を始めた。
最初は一度だけタイムマシンを試しに使ってみるだけのつもりだったが、ついつい5回も使ってしまった。まあ、これだけすごいものを目の前に出されてしまっては一回だけで我慢しろというのも無理がある。
「おいお前ら。こんなところで何してるんだ」
学校の廊下を歩いていると、後ろから急に声をかけられた。そこには生徒指導の先生が険しい顔をして立っている。
「えっ。何してるんだって、今から帰るとこですけど」
俺がそう言うと、先生の顔はますます険しくなる。
「だから何しに来たんだって聞いているんだ。今日は日曜日だぞ。どうしてお前ら学校にいるんだ」
「「「あっ」」」
先生のその言葉に、俺たち4人全員は思わず驚きの声が出てしまった。そうか、最初の元の世界は金曜日だった。俺たちはそこから5回タイムマシンを使ったので今日は日曜日になっていたのだ。確かに日曜日に生徒が校舎の中にいたらどう考えてもおかしい。完全に忘れていた。
「俺たち、学校に忘れ物を取りに来たんですよ。ほら、明日から期末試験があるじゃないですか。教科書とか取りに来たんですよ」
部長が平気な顔をして嘘を吐く。
「4人揃って忘れ物か。仲が良いな。まあいい、気を付けて帰れよ」
そう言うと、生徒指導の先生はその場を去っていった。
「意外と簡単に見逃してくれましたね」
「俺らがそんなに素行不良の生徒じゃないっていうのと、制服を着ていたのが大きかったんだろう。さすがに制服で堂々と悪いことをする奴はそうそういないだろうからな」
部長はそう言って歩き出した。
校舎の外に出ると、夕日が眩しかった。
今はまだ7月。これからどんどん暑くなってくるだろう。
遠くの空を見ると、分厚い雲が迫ってきていた。
もしかしたら明日は雨が降るかもしれない。
俺はそんなことを考えて、少しだけ憂鬱な気分になっていた。