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five days time travel  作者: たまねぎねぎお
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7月20日(金曜日)

【7月20日(金曜日)】


 退屈だった午後の授業もすべて終わり、俺はのそのそと帰り支度を始めた。机の中から筆箱と先生から配られた大事なプリントが入っているクリアファイルだけをカバンに入れる。悲惨な結果になっているであろう期末試験も5日前に終わったので、わざわざ重たい教科書を家に持ち帰る理由はない。勉強ガチ勢の真面目な生徒はテスト期間以外のときも教科書を家に持ち帰って自主学習をするのかもしれないが、あいにく俺にはテスト期間でもないのに家でお勉強をする趣味はなかった。


「まあ、他にこれと言った趣味があるわけでもないんだけどな」


 独り言を呟くと、近くにいた女子生徒が少し驚いた顔をしてこちらを見てきた。誰にも聞こえないように、かなり小さい声で呟いたつもりだったがどうやら聞こえてしまったらしい。やはり教室で独り言を呟くのはやめた方がよかったかもしれない。俺は軽く咳払いをして誤魔化し、バッグを手に取ってその場を後にした。

 廊下に出ると、ドアのすぐ横に同じクラスの佐藤結衣が立っていた。


「やほ、行こっか」

「ああ、でもすまん。先にトイレ行かせてくれ」


 俺は自分のバッグを結衣に渡した。彼女とは幼馴染で、昔からそれなりに仲良くさせてもらっている。大人しい性格で、あまり目立つ方ではないが、よく見ると普通に可愛い顔をしている。たまにクラスの男たちが結衣のことを可愛いと言っているのを耳にする。彼ら曰く、クラスのトップカーストに君臨する女子生徒たちはもちろん華があって可愛いが、自分とは差がありすぎて手が出せない。しかし結衣なら「わんちゃん俺でもいけそう」レベルだということだ。彼らの言っていることは結衣に対してとても失礼なのだが、正直言いたいことは分かる。結衣は普通に可愛い部類に入る整った顔をしているのだが、誰にでも優しくあまり目立つ方ではないので、周りの男に「わんちゃん俺でもいけそう」と思わせてしまうのだ。それが彼女の魅力であり怖いところでもある。ちなみに俺と結衣は幼馴染なので、クラスの男連中よりかは結衣と仲いい方だが、決して彼女と付き合っているいうわけではない。大事なことなのでもう一度言おう。決して付き合っているというわけではない。

 用を足し、手を洗って結衣の元へ行く。


「バッグありがとう、じゃあ行くか」

「いえいえ、シンタローさんが待ってるもんね」


 結衣からバッグを受け取り、俺たちは歩き始めた。シンタローさんとは、俺たちが所属する部活、科学実験部部長の森草進太郎のことである。

 俺は正直科学など全く興味がなかったのだが、結衣に誘われて一緒に入部することにした。結衣は理系科目、中でも科学に興味があるらしく、この第一高等学校に科学実験部があることを知ったときはとても嬉しがっていたが、一人で入部する勇気はなかったらしい。最初は仲の良い女子生徒を誘ったのだが、やはり今時の女子高生は科学よりもオシャレや恋に忙しくて全員に断られてしまったということだ。


 科学実験部は校舎の3階、廊下の突き当りに位置する。俺たちは無言で階段を上る。

 そのとき、隣を歩いている結衣がいつもより元気がないように感じた。元から結衣はたくさん喋る方ではないが、それでも纏っている空気がいつもと違う気がする。一応俺は幼馴染なので、それくらいの変化には気が付くことができる。俺は彼女に元気がない原因に心当たりがあった。


「もしかしてまだ財布見つからないか?」

「うん、そうなんだよね。やっぱりもう諦めるしかないかな」

「まあ、正直これから出てくる可能性は低いだろうな」


 結衣はつい最近財布を落としたらしい。それは4日前の16日の下校中とのことだ。彼女はそれからずっと行方不明になった財布を探してるのだ。


「やっぱそうだよね。交番に行ってもなかったしもうどうしようもないよね」

「そうだなあ。でも財布落としたのは辛いよな。ポイントカードとかいろいろ作り直さないといけないし」

「私はそんなにカード持ってなかったからいいんだけど、大事な友達との写真が入ってたの」

「写真か。そんなに大事だったのか?」

「うん、とっても。無くしたことに気付いた日なんか日が暮れるまでずっと一人で財布探してたくらい」


 結衣は悲しそうに下を向いた。


「日が暮れるまでって、気をつけろよ。最近物騒なんだから」

「それって隣の市で起きた通り魔殺人のことでしょ? 大丈夫だよ。私が財布落とした日に逮捕されてるから」

「そうは言ってもなあ、まあ、あまり遅くまで一人で出歩かない方がいいよ」

「そうだね、心配してくれてありがと」


 部室に着き、俺は扉を開ける。鍵をかかっていなかったので、やはり部長が先にいるのだろう。


「シンタローさん、こんにちは」

「こんにちは、待ってたよ」


 俺たちは軽く挨拶を済ませて部室の椅子に座る。部室の椅子はとても古く、今にも壊れそうだ。普通に座る分には問題ないが、もし勢いつけて座ったら簡単に壊れてしまうだろう。


「シンタローさん、今日は何かあるんですか?」

「まあまあ、最後の一人が来るまで待っといてくれ」


 結衣が部長に質問したのに対して、彼は小さな子供が大好きなおもちゃを与えられたときのようにニヤニヤするだけだった。

 今日、俺と結衣は部長からラインで「今日は絶対に部室に来てくれ」と言われていた。俺たちはよっぽどのことがない限り部活をサボることはないので、どうして今日に限ってわざわざそんなラインを送ってきたのかが気になっていた。


「こんにちはー! わあ、もうみんな揃ってるね。お待たせしてごめんね」

「こんにちは、美鈴さん。私たちもついさっき着いたばかりなので大丈夫ですよ」


 部室のドアを思いきりあけて大きな声で入ってきたのは、第一高等学校科学実験部の最後の部員、金子美鈴だ。彼女も3年生で俺たちの1個上である。


「よし、みんな揃ったな。今日はあるものを持ってきた」

「あるもの? それを見せたくてわざわざラインで、今日は絶対に部室に来いって言ってきたの?」


 どうやら美鈴にも、部長から俺たちに送られてきたラインと同じような内容のものが届いていたらしい。


「そうだ、今日はお前らにとって一生忘れられない日になるだろう」

「いったい何を持ってきたんですか?」


 俺が尋ねると、部長は先ほどと同じようにニヤニヤしながらバッグの中から謎の機械を取り出した。


「今日俺が持ってきたものは、タイムマシンだ」

 部長の自信満々なその言い方に、俺たち3人は黙るしかできなかった。


よろしくお願い致します!!

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