始まりの親友「一」挿絵あり
(読み飛ばしていただいて、かまいません)
皆さん、初めまして。
作者です。
作者のヘリックです。
この度は拙作の第一ページ目を開いていただきありがとうございます。
心からの感謝を申し上げます。
今までいくつかの作品を投稿させていただいた経験のあるわたしですが、今回の作品も今までの作品の例にもれず、ゆるく適当な感じに進んでいく物語に仕上がったと思っています。
相も変わらずキャラクターの心情描写は苦手なので、情緒が不安定だと感じた部分がありましたら、遠慮なく感想にぶち込んでおいてください。
さて、ここからが本題なのですが、この作品、実はイラストが付いているのです!
気づきましたか? 気づいていますか? 気づいていることでしょう!
まあ、まだ読んでいないかたは気づいていないとは思いますが。
これはわたしのリアルの友人に書いていただいたものです。
そのかたは恥ずかしがり屋なので、仮に「彼」とお呼びいたしますが、わたくしとしては拙作の内容よりも「彼」のすばらしきイラストをその眼球に焼き付けてほしいものです。
もし、拙作の内容について感想を言ってくれる人がいればそれはそれで大満足なのですが、イラストだけの感想をしたい方もいるでしょう。
その場合は
かぁいいサイコー
とでも、感想欄に書き込んで下されば、「彼」もよろこんでくれるはずです。
以上で、前書き……前書きと言ってもいいのかどうかはわかりませんが、ともかく、作者の戯言はこれで終わりです。
さて、本編をどうぞ、ごゆるりとお楽しみください。
物語の始まりはいつだってなんの前触れもなく唐突に訪れる。
それは梅雨が通り過ぎた六月の終わりのこと。
内海は午前に出るべき講義をすべて終え、午後の講義までの自由な時間を確保していた。
あいにく暇をつぶすものもなく、方法も思いつかない。
スマートフォンを持ってはいるものの、SNSやゲームで時間をつぶすようなことはあまりしない。
(まあ、散歩でもするか)
そんな感じで内海は大学の広大な中庭を散歩することにした。
体を芯から温めるような太陽の日差しと心地よい冷たい風が吹いていて、学生からは大好評のスポットである。
「あれ、内海君?」
突然後ろから声をかけられ、内海は体をびくっと震わせた。
「ああ、ごめん。驚かせちゃったね」
「なんだ、隼か」
振り向いた先にいたのは、イケメンだ。
小日向隼。内海裕幸と小山内千尋の友人にして、なんでもできる優男。
正直最初はいけ好かない野郎だと、嫉妬の嵐にその心を置いていたりもしたが、接してみると案外そんなことはなく、ただの身も心もイケメンな青年だった。
「ところで、なにをしていたんだい?」
「別に、仕事が早めに済んだから散歩してただけ」
「暇なんだったら、僕のところにでも会いに来てくれればよかったのに」
「お前、俺が他人の課題を手伝うと思ってるのか?」
「先週、小山内君の課題は手伝ってたけど?」
「…………あいつはいいんだよ、親友なんだから。それに、お前はお前で課題を手伝ってくれる優しいお姉さんがいるだろ」
隼のジトっとした目に耐え切れず、内海は言い訳をするように言葉をひねり出した。
「……姉さんは、今日は仕事だよ」
「今日、土曜日だよ?」
「急な仕事が入ったらしい。まったく、仕事と弟どっちが大事なんだか。はあああ」
隼のなにか含みがありそうな、小さくも長い溜息に、内海はすばやく背景を察してにやにやとした笑みを浮かべた。
「なあ、もしかして、今日デートの誘いでも入れようとしてたりした?」
隼はぎぎぎ、と音を鳴らしながら、内海を見る。
内海を見ても、いつになくにやにやと、なんでもわかっているかのような表情をしているだけだというのに。
かあああ、そんな擬音が適切な感じで急速に顔を赤くするイケメン。
男がやると似合わないことこの上ない表情の変化だが、さすがイケメン。様になっている。
「な、な、なにを言っているんだい?」
明らかにテンパっている様子の隼に、内海は楽しくなり目を輝かせる。
実のところ、小日向隼は四歳上の義姉の優のことが好きなのだ。
家族としてではなく、異性として、恋愛対象として。
現代日本において家族婚ならともかく、義兄弟姉妹間の結婚なんてありふれた出来事だ。
恋愛や結婚に関する障壁などもはや、ないに等しい。
イケメンととびきりの美人ということで、くっついたらとてもお似合いのカップルになるだろう。
というわけで、内海は今日も今日とて、恋の応援──という名のただの冷やかしを実行することにした。
「たしか今月までの遊園地のペア招待券が当たって発狂してたって、同期たちの目撃証言があるんだぞ」
鬼畜の内海。友人たちから恐れられている内海の本領発揮だ。
「遊園地なんて、そんなのあるわけないじゃな──」
ちらり。
「──いか…………え? え⁉」
内海の手に握られた二枚の紙に隼は驚き、目を見開いた。
「ほう、じゃあ、これはどう説明する気なんだ? ぜひ教えてほしい」
「ど、どうしてそれを?」
すっとんきょうな声をあげる隼に内海はにやりと笑い、
「おっと、聞いているのはこっちなんだけどな。まあいいか。招待券の話をしたとき、お前が右ポケットをちらりと見てたんだよ。それで抜き取ってみたら案の定──というわけだ」
隼は目にもとまらぬ速さで招待券をひったくり、少し非難するような視線を向けてくる。
「……勝手に人のポケットからものを抜き取らないでくれるかな?」
「そこに関して言えば、すまないとは思っているが。そもそも、あるものをないって言おうとしてお前のほうが問題なんじゃないか?」
「ぐっ」
言い返せない様子の隼を見て、内海は気分が良くなってきた。
「それで。優さんに招待券とともにデートの約束を取り付けようと思って連絡を取ったら、今日は仕事だと言われた、と。まあ、いつも通りって感じだな」
ははは、隼が乾いた笑い声をあげる。
「姉さんがデートと思ってくれるかどうかはわからないけどね」
隼の全身から湧き上がる負のオーラに、思わず内海は半歩後ずさりしていた。
イケメンと美人。この二人の関係は、内海や千尋が出会った当初から、一切変化なく、距離は、一ミリたりとも縮まっていないのだ。
内海や千尋が何度も何度も協力しているのにも関わらず、どうして二人の恋が実る気配は一切ない。
人の心を知る仕事をしているのに隼の恋心にすら気づかない優がいちばんの原因といえるかもしれないが、別に優が悪いわけではない。
ただ優は隼のことを家族としてしか見ていないのだ。彼女にとって隼は突然できたイケメンでかわいい弟でしかないわけだ。
そのことがわかっている内海は、隼に同情するしかない。
「まあ、頑張れよ。デートの誘いくらいなら、家ですればいいだろ。せっかく同じ家に住んでるんだから、その利点を生かさなくてどうする?」
(まあ、一緒に住んでてなにも起きない時点で、こいつの恋は絶望的と言ってもいいんだけどな)
そんなこと、口が裂けても言ってはならない。
内海は憐みゆえの微笑みを浮かべることしかできなかった。
「ありがとう、家に帰ったら、誘ってみるよ」
そんな感じで、内海と隼の会話が一段落したそのとき。
内海のジャケットの内ポケットから電話の着信を知らせる電子的な音が響いた。
すばやくスマートフォンを取り出し、発信相手の名前の確認をする。
小山内千尋。
「ん? 千尋?」
画面に表示された名前に疑問を感じた。
千尋から電話が来ることは非常に珍しいこと──千尋は用事があるとき、たいてい直接会いに来る──だ。
「小山内君なら今日は講義なくてずっと家にいるらしいね……どうしたんだろう?」
隣の隼も首をかしげた。
(お前はどんなしぐさもイケメンだな……って、そんなことはどうでもいい。俺はホモじゃないし、イケメンに欲情するような特殊な性癖は持ち合わせていないんだよ)
心のなかでくだらないことを思っていても、頭ではしっかりと可能性について模索する。
「家でなにか問題があったってことか?」
「出てみればわかるんじゃない?」
「それもそうだな」
隼のもっともな言葉に、内海はなるほどと頷きながら、スマートフォンの画面に表示された通話ボタンをスライドして電話に出る。
「もしもし、千尋、どうした?」
『裕幸、今すぐオレの家に来てくれ』
「え?」
『いいから! さっさと来い。ちょっと、いやだいぶ困った状況になった』
これが受話器を置くタイプの電話だったなら、ガチャン、という音が鳴っていただろう。
だが、内海はそんなことなど、気にも留めていなかった。
「悪い、隼。俺今から、千尋のところに行ってくる。なんかあったら、俺の代わりに頼む!」
隼に背を向け、走り出した。
考えるよりも先に、体が動く。
内海にとって、千尋が困っているというだけで十分な理由だった。
それだけ親友、小山内千尋のことが大切だったし、親友が困っていたら問答無用で助ける。そんな当たり前のことができない「親友とも呼べないなにか」になるなんて、内海の心が許さなかった。
だからこのとき、内海は気づけなかったのだ。
電話口で聞こえた千尋の声が、いつもよりも高かったことに。
その声が、鈴の音のごとく可憐な、まるで女の子のような声だったことに。
*
内海裕幸
黒髪で容姿は上の下の大学一年生。友人思いで、友人が困っていたら必ず手助けをする。明るい性格でノリも良い。
小山内千尋
黒髪で容姿は上の中の大学一年生。人が困っていたら必ず助けるなど、かなりの英雄気質。面倒見が良い性格で優しい。
小日向隼
茶髪で容姿は上の上の大学一年生。なんでもできる完璧超人で、どんな人間ともある程度付き合っていけるほどの心の広さを持つ。イケメンな性格。
*
十五分後──千尋宅前。
大学から二キロ弱の場所に、小山内千尋の家はある。
ピンポーン。
「はあ、はあ、はあ」
内海は肩で息をしながら、千尋の家のインターフォンを押した。
ここのインターフォンを押すのも久しぶりだな、なんて感慨深げに思っていると。
ガチャリ。
そんな音を立てながら、ドアノブがひねられ、扉が開いた。
「おいおい、どうし──」
たんだ?
本来言うはずだった疑問の言葉は、空気を震わせることはなく、代わりに出たのは、
「…………へ?」
そんなバカ丸出しの間抜けな声だった。
(お、女の子……?)
内海の目の前には、一人の少女がいた。
ぱっと見、年齢は十二歳ほどで、天使や女神かと勘違いしてしまいそうになるくらいの顔立ちだ。
なぜかはわからないが、千尋のパジャマを着ている。
(この子、誰?)
内海の脳は疑問で埋め尽くされ、それ以上の言葉を話す余裕なとあるはずがなかった。
結果、なにもしゃべれずに固まっていると、
「裕幸。オレだ。わかるか? 千尋だ。小山内千尋だ」
少女は見るからに不安そうな声と表情と上目遣いで、わけのわからないことを言った。
再び頭のなかが疑問符で埋め尽くされるのを感じながら、少しずつ正常な判断ができるようになった脳みそで、内海は必死に現状理解に努める。
まず考えるべきは、少女の言葉の真偽について。
少女は本当に千尋なのか、はたまた内海に嘘の情報を信じさせようとしているただのお茶目な子供なのか。
嘘を見抜く術など、まったく身に着けてはいない内海には、この少女の心理も、真偽も、一切合切わかりようもなかった。
(……でも)
内海は感覚を研ぎ澄ます。
そして、心を探った。
自分の心が下した判断を探った。
外見からも、言葉からも少女のことは見抜くなんてことはできないが……それでも、なに一つとして方法がないわけではないのだ。
内海には経験がある。
千尋と過ごした記憶がある。
千尋とともに過ごした時間がある。
他の誰にもない、内海と千尋だけが積み重ねてきた時間がある。
内海と千尋、お互いに親友と認め合った二人の間にある絆は、すべての壁を越える。
それは信じること。
それは疑わないこと。
心で感じたことが唯一の真実足りえるのだと、思いを貫くこと。
そして、たった一つの回答に行きついた。
内海はあえてにやりと、不敵な笑みをたった一人のだけの親友に向ける。
「わかる。わかるよ。お前は、小山内千尋。俺にとって最高の親友だ」
口に出してみるとなかなかに恥ずかしい言葉だったが、親友のためと思えば全然気にならなかった。
少女は、否、千尋はぽかん、とした表情を浮かべたものの、それを覆いつくして余りある満面の笑みをすぐさま浮かべた。
「……気づいてくれて、……ありがとう」
小さな雫をその目じりに溜め、それでも嬉しさに従い、満面の笑みを浮かべる千尋の姿は──。
とくん。
心臓が鼓動し、血液が急加速で全身に駆け巡る不思議な感覚。
顔が、熱をもって赤く染まっていくのが自分でもわかる。
「い、いや、別に、なんてことは、ない」
でもそれを千尋に知られることが余計に恥ずかしいような感じがして、内海はついついそっぽを向いてしまう。
「それでもだ」
千尋は優しい笑みを浮かべる。
「……どういたしまして」
千尋の声や表情につられて、内海の表情も柔らかくなっていった。
自然にお互いの口から笑い声が出る。
その高揚感がとても心地よくて。
しばらくの間、内海たちはなにも面白いことなんてないのにも関わらず、笑いあっていた。
「裕幸」
「ん?」
名前を呼ばれて千尋を見ると、
「オレも、お前のことを最高の親友だと思っているぜ」
(きれいだ)
思わず、そう口に出してしまいそうになるくらい、千尋はきれいな笑みを浮かべていた。
その笑みはまるでこの世のけがれを知らない本物の少女のようで──それは内海の知っている千尋と同一人物とは似ても似つかなかった。
「ああ! 俺たちはこれまでも、これからも唯一無二の親友だ」
そんな、まるで物語の終盤で言われるような恥ずかしいセリフを内海が吐くのを待っていたかのように。
誰もが日常的によく聞くであろう、車が通りすぎる音が内海の後方から聞こえた。
「まあ、とりあえず、立ち話もなんだし、昼飯でも食べるか?」
家に入りもしないまま、恥ずかしいセリフを吐いていたことに気づかされた内海は、
「食べる」
顔を真っ赤にして、そう答えることしかできなくなっていた。