斎藤勇太②
日本冒険者学校中等部にて、ある2人の決闘が行われようとしていた。日本冒険者学校では、生徒の向上心を煽るために決闘制度が設けられている。決闘は生徒による申し込み制であり、指定された相手は断ることができない。決闘の場には最上級回復魔法の使い手がおり、多少の怪我ならどうということはない。
今回、決闘を申し込んだのは中等部2年の遠藤俊であり、指定された相手は同じく2年斎藤勇太である。俊は、勇太が転校してきたその日に決闘を申し込み、1週間後の今日に決闘が行われることが決定した。
2人は今、日本冒険者学校内にある演習場に来ており、見物人には、担任の先生、同じ2学年の生徒、そして興味を持った他の学年の生徒の約100人ほどの見物人がいた。日本冒険者学校にて、決闘は1つの娯楽的要素を含んでおり、興味を持つ生徒は多いのだ。
俊と勇太は演習場の真ん中で向かい合っている。
「ゆうちん、もしかしてだけどビビってる?」
俊がふざけた顔でそう言った。
「ビビる?お前なんかにビビる訳ないだろ」
「ちっ、相変わらず上から目線だね。でもねー、俺知っちゃったんだよね。ゆうちんがC級ってことをね」
「それがどうした?お前にはちょうど良いハンデだと思うが?」
「はいはい、そう強がらなくて良いですよー。一瞬でぶっ殺してあげるから。それよりさ、ちょっとした賭けをしない?」
「賭け?そんな意味もないことをすると思うか?」
「あれー?それって負けるかもしれないからビビってるってことだよねー?」
「ちっ、良いだろう。それじゃあ何を賭ける?」
「やったー!そうこなくっちゃ。じゃあ、負けた方は卒業するまで勝った方の舎弟になるってのはどう?」
「まあ良いだろう、ちょうど雑用係が欲しかったところだ」
2人がそう会話していると、会場がザワつき始めた。
「おい、あの人序列1位の秋山晃樹さんじゃないか?」
「本当だ。しかもとなりにいるのは、一年生ながらに序列13位の加藤健さんじゃねぇーか」
勇太と同じクラスの2人がそのような会話をしている。2人の会話にある通り、日本冒険者学校には高等部から序列制度が導入される。これも生徒の向上心を煽るためにあるようだ。
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「いやー、見事に注目されちゃったねー。これって皆僕のこと見てるのかな?」
「そうかもな。お前って意外と目立ちたがりな所があるよな」
「そんなことないってー。それより健が注目してる子ってあの坊主の子?」
「いや、そっちじゃない方だ」
「えー、そっちなの?あんま強そうじゃないけど」
「まあ見てれば分かるさ」
そう会話するのは秋山晃樹と加藤健の2人。この2人は、日本冒険者学校で今一番注目されている2人だ。秋山晃樹は日本史上最年少S級冒険者として、加藤健は現役S級冒険者加藤龍介の息子としてだ。
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「うっひょー!まさか秋山晃樹が見にくるとは。良いとこ見せちゃおーっと」
「そうか、そろそろ始めないか?」
「そうだね、それじゃあ審判の人合図よろしく」
「分かりました。それでは、ただいまより遠藤俊と斎藤勇太による決闘を始めたいと思います!殺す以外は何でもありなのでお互い手を抜かないように!それでは、試合スタート!」
審判の合図を皮切りに、最初に動いたのは俊であった。まずは、スキルを使わないステータスだけの攻撃。勇太もそれに応えてステータスだけの殴り合いが始まった。俊の方がレベルは高いがお互いに殴り合いでは拮抗している。
「さすがに、これじゃあ決められないか。さっそく変身するかな」
そう言うと、俊は後ろに下がりチーターのような姿に変身した。すると突然俊が消えたかと錯覚するほどのスピードで勇太を爪で攻撃し始めた。勇太はその攻撃にギリギリで反応し、防戦一方となってしまった。
「あれー?やっぱりたいしたことないじゃん。まさかこんなもんじゃないよね」
俊が攻撃を一旦やめ勇太にそう問いかける。
「あたりまえだろ。それじゃあ、俺もスキルを使うとするか」
そう言うと、勇太は腰に掛けてあった剣を手に取った。
「今頃剣を持ったって何も変わらないよ?」
「もちろん、ただ剣を持つだけじゃないさ。」
『豪雷剣』
勇太がそう唱えると、勇太の剣に雷が付与された。
「ふーん付与系のスキルかー。そんな強そうじゃないけど。僕のユニークスキルは「獣化」だよ。かっこいいでしょ?」
「そんなことどうでもいい、今度はこっちからいくぞ」
そう言い、勇太は俊へと駆け出した。俊はすかさず勇太に攻撃するが、先ほどと違い俊の方が防戦一方となってしまった。勇太の豪雷剣のスピードに俊は攻撃するタイミングを見失ってしまったのだ。俊の体にかすり傷が増えていくと、俊はまた後ろに下がった。
「なんか今のは俺が逃げたみたいに見えちゃったかな?」
「逃げたんだろ?これでお前に勝ち目がないことに気づいたか?」
「悔しいけど、このままじゃ俺は勝てないねー。それじゃあ、切り札を使わせてもらうか」
そう言うと、俊の姿が突然消えた。まるで最初からそこにいなかったかのように。すると勇太は急に後ろから攻撃された。勇太の背中には大きな爪痕が残されており血が流れている。
「あはは!痛そうだねー、ゆうちん。今の攻撃見えなかったでしょ?このスキル使うとすぐ決闘終わっちゃうから使いたくなかったんだけど、しょうがないよね?」
「はあ、はあ。クソ!どういうことだ?急にお前の姿が見えなくなったぞ」
「かわいそうだから教えてあげるけど、これもユニークスキルなんだ。効果は、自分の姿を消せるくらいに思ってくれて良いよ。これで、俺に勝てないって分かった?」
「ふん。お前バカだな。自分からスキルをベラベラと喋りすぎだ。タネが分かればこっちの勝ちだ」
勇太はそう言うと、剣を鞘に収めた。
「おいおい、戦意喪失か?それじゃあ、一気に決めてやるよ」
俊はそう言い、勇太の背後から襲いかかった。俊が勇太を攻撃しようとするその瞬間、勇太は剣を一気に引き抜いた。二人の攻撃が交差し、激しい火花が散った。お互いの攻撃が当たったように見えたが、倒れたのは俊だけであった。
「ぐはっ、てめぇ何しやがった」
俊は口から血反吐を吐き散らしそう呟いた。
「ふん、これがお前との実力差ってことだ」
勇太はそう言い、闘技場を後にした。
勇太が去った後、審判が試合終了の合図をしすぐに俊の治療のために日本冒険者学校専任の治癒術師が俊に近づいた。すると、俊の腹にはざっくりと切り傷がつけられていた。その傷はとてもC級冒険者がつけられるような傷ではなかった。治癒術師は応急処置の魔法を使い俊を治療室へ連れて行って、この試合は終わった。
この試合を見ていた他の生徒たちは、勇太の存在を強く認識し、勇太は名実共に日本冒険者学校中等部2年の頂点に立ったのであった。
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「うひょー、強いなあの子。健が目をつけるだけあるね」
「まあな。だけどまさかあそこまで強くなってるとは思わなかった」
「健は最後の攻撃見えた?」
「ああ、なんとかな。晃樹はあの攻撃しのげると思うか?」
「うーん、やってみないと分からないけど、多分いけるんじゃないかな。でも、あの攻撃はA級冒険者じゃあ防げないと思うな」
「たしかに。恐ろしい奴が入って来たよ」
秋山晃樹と加藤健の二人も斎藤勇太を強く意識することになったのであった。