四ツ谷ダンジョン再び
勇太が急に転校してから最初の土曜日。今日は、美月と美優とダンジョン攻略に行く日だ。現在の時刻は朝の9時半。待ち合わせ時間はこの前と同じで10時だ。僕の隣にはそわそわしているレンがいる。
あの後レンに2人の写真を見せたら、どうやら美優に一目惚れしたらしい。たしかに可愛いけど、あの性格を知ったら幻滅するんじゃないだろうか。
10分後…
「お待たせしました!」
そこには相変わらずのおさげ眼鏡の美月ちゃんとその隣には、知らない人がいた。
「えっとー、どちら様?」
「え?何がですか?」
「え?いや、美月ちゃんの隣にいる子」
「何言ってるんですか?美優ちゃんですよ?」
「えぇーーー!!この前と全然違うじゃん」
そう、今の美優は黒髪ショートで肌はほんのり黒く、スポーティーな格好をしているのだ。
「何ジロジロみてるのよ」
「この感じは、本当に美優なのか」
「なんで気づかないのよ!見た目が変わったから?」
「うん、そう。あんなギャルからこんな可愛いらしい子になるなんて」
「か、可愛らしいって何よ!前も言ったけど私ギャルじゃないから。この前は、美月が変な男に捕まらないようにギャルになりきってたの」
「そういうことかー。本当にギャルじゃなかったんだな」
ガシャン
隣からそんな音が聞こえて来た。隣を見るとレンが武器である槍を落とし、四つんばいになっていた。
「どうしたのレン?」
レンは体をピクピクさせて
「どうしたのじゃねぇーよ拓也!美優ちゃんてギャルじゃなかったのかよー。俺は、ギャル好きだってのによー。グスン」
「ちょっと拓也、誰この気持ち悪い人」
レンの体がビクッとした
「こいつは、今日から一緒にダンジョンに行く影山レンだよ」
「この人がレンって人?めちゃくちゃ気持ち悪いんだけど。美月はどう思う?」
「え、えっとー個性的な人だなーと思う」
レンの体がビクビクした
「うっせぇーぞこの偽ギャルが!人のこと散々気持ち悪いって言いやがって。ギャルの時は可愛いって思ったけど、素のお前は全然可愛くないな」
「な、何よあんた!初対面の人によくそんなこと言えるわね」
「おめーも人のこと言えねーだろーが!」
なんと2人は、周りに人がいっぱいいるのにもかかわらず、大声で喧嘩を始めてしまった。一緒にいると恥ずかしいので、僕は美月ちゃんと遠くから見守るようにした。
30分後…
ようやく喧嘩を終えた2人がカフェでお茶をしていた僕たちのところにやってきた。
「おつかれー、だいぶ白熱してたね」
「ああ、このクソ女が物分かり悪くてな」
「ええ、このキモ男の頭が悪くてね」
まったく喧嘩は終わっていなかった。でもある意味ではお似合いの2人のような気もするが、それを言うとまた喧嘩しそうなので心の中に留めておいた。
「まあ、そんなことよりダンジョンに行こっか」
「「「そう(だな)(ね)(ですね)」」」
美月ちゃんが敬語に戻っているがそこは気にしないでおこう。
僕たちは、すぐに入場の手続きを済ませ、今は四ツ谷ダンジョンの1階層にいる。今日は2階層に行く予定だ。まあ、2階層って言ってもスライムの数が増えるくらいで、1階層とあまり変わらない。
30分後…
僕たちはもう2階層に着いた。やっぱりDランクの人が一緒だとサクサク進むな。レンの武器は、槍で中級槍術.6のスキルを持っている。僕の場合は、スキルのレベルを上げるのに明確な基準があるけど、普通の人の場合は、気づいたら上がっているんだそうだ。レンは最初は中級槍術.2だったのを1年半でここまで上げたらしい。最初から中級の武術スキルがあるのは才能がある証拠である。中には最初から上級の人もいるんだそうだが、本当に稀である。僕の父さんだって最初は中級からだったと言っていた。レンはユニークスキルも持っているし、このまま行けば日本冒険者学校に入れるだろう。
それからしばらく2階層を歩いていると、宝箱を発見した。道中のスライムはほとんどレンが一瞬で倒してしまった。まあ、パーティだから経験値は入るんだけどね。
ここでパーティについて簡単に説明しておく。この世界では、ダンジョンに入る時に手を繋いでいるとパーティと認識される。でも、パーティを組むとその分経験値も分割されちゃうから効率はちょっと悪い。
パーティの話はここで終わりで、ダンジョンには宝箱がランダムで現れる。どのタイミングで現れるかはまだわかっておらず、本当にランダムなのだ。だが、結構な確率で宝箱は発見される。ほとんどがいらないアイテムなのだが、たまにレアアイテムも入っているため無視は出来ない。さてさて、この宝箱は何が出るかなー。
「じゃあ、僕が開けるね」
パカッ
中には薬草が入っていた。
「なんだ、薬草か。はずれだな」
そう言うのはレン。その通りで薬草は外れだ。この世界の薬草は、「使う」と唱えればすぐにHPが回復するものではなく、しっかりとすりつぶしてそれを擦り傷などのちょっとした傷に塗ると傷の治りを速くするぐらいの効果しかない。それなら消毒使うわ、となって薬草は持って帰っても売れないので基本はダンジョンに捨てていく。それでも僕は、初めての宝箱から出て来た物なので記念に持って帰ろうと思う。
「拓也、お前それ持って帰るのか?」
「うん、一応記念にね」
「私も記念欲しいです」
美月がそう言った。
「じゃあ、これあげようか?」
「あ、そう言うつもりで言ったわけではないんです。次の宝箱があったら私が開けたいなっという事で」
「そういうことか。じゃあ次宝箱があったら美月ちゃんのね」
「うぃーす」「分かったわ」
「ありがとうございます」
それからしばらくした後また宝箱を見つけた。
「じゃあ、この宝箱は美月ちゃんのだね」
「はい、ありがとうございます」
美月ちゃんは早速宝箱を開けた。すると中には青い宝石のついた指輪が入っていた。
「やった!指輪だ」
珍しく美月ちゃんのテンションが上がっている。可愛い
「まじか!?すげー、初めてみた」
レンも興奮している。なんかキモいな。美優がキモいキモい言うから気持ち悪く見えて来ちゃった。
「私も、初めてみたわ」
「そんなにすごい物なの?」
僕がそう尋ねると
「凄いなんてもんじゃねーよ。超凄いんだよ。この指輪はステータスを上げる効果があるわけ。青ってことは、素早さを上げる指輪だな。美月ちゃんそれつけて、ステータス見てみて」
「は、はい」
美月は、指輪をつけてステータスを見た。
「え?10%も上がってる」
「10%も!?そんな効果の指輪B級ダンジョンで出るレベルだぞ。それを売ったら2000万ぐらいになるんじゃねーか?」
「「「2000万!?」」」
僕と美月と美優はその金額にびっくりして、ハモってしまった。
「そ、そんなものが私の指にハマってるなんて」
美月ちゃんは、金額を聞いてから手がプルプルと震えていた。
「美月ちゃんってもしかしてユニークスキル持ち?」
「ちょっとあんた何聞いてるのよ!」
この世界では、人のスキルを聞く事はあまり良い事とされていない。パーティを組む時は別だが、興味本位でスキルを聞くのは失礼にあたるのだ。
「え、えっとー、ユニークスキルは持ってないですけど、「幸運娘」っていう称号は持ってます」
「称号持ち!?それって最初からついてたの?」
「ちょっと!あんたいい加減にしなさいよ」
「大丈夫だよ、美優ちゃん。はい、最初からありました」
称号名から察するに、おそらく相当LUK値が高いのだろう。そんな称号持ちだったとは。羨ましいなー
「そっかー、それでユニーク持ちだったら相当上位の冒険者になれたのに」
「そんなのまだわからないでしょ!」
「あー、はいはいそうですねー」
「何よ、その適当な返事は!」
また、レンと美優の喧嘩が始まってしまった。
「美月ちゃん、その称号のことはなるべく言わない方が良いと思うよ」
「やっぱりそうですよね、これからは気をつけます」
「うん、それがいいよ。後、その指輪も売らない方が良いかもね」
「もちろん売りませんよ!これは私の初めての宝箱から出た記念品何ですから」
「そうだね、それよりいーなー。指輪が記念品で。僕なんて薬草だよ?」
「そ、それはそうですけど。薬草はなんか拓也君って感じがして良いと思います」
「あ、そう?ありがとう」
それってどういう意味ですかー?僕は、薬草みたいにあんまり役に立たないって事ですかー?まあ、たしかに今のところかっこいい所見せれてないからしょうがないか。美月ちゃんにかっこいい所を見せられるように、もっと強くならなくちゃ。
30分後…
やっと2人の口論が終わり、今日はこれで帰ることにした。ダンジョンから出て、それぞれの帰路につくことになった。帰り際にレンを僕たちのグループトークに入れて解散となった。
僕は家に帰り、自分の部屋でステータスを見ていた。すると、いつの間にかレベルが上がっていた。