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第七話 不死の騎士団

 これはまずい。

 俺は酷く動揺していた。

 正体がばれたのだ。


 どうする?


 この子には何の罪もないわけだが、今ならこの子の口を塞ぐことが出来る。俺の顔は隠れているにしても、理性があり人を殺す不死者がいると人に知られれば大変な事になってしまう。


 よし、断腸の思いで殺そう。

 俺は目の前の少女を見て、真面目にそう思った。

 そう決めるとすぐに行動を開始する。近くに剣はないかと探し始めた時、彼女の口からは驚くべき事を言われた。


「私を助けに来てくれたのですね!」


 彼女は縛られたまま感激の涙を流しているらしい。

 どうやら俺に感謝しているようだ。

 確かに彼女の視点から考えてみると、盗賊に捕まってこれからどうなるかも分からない不安な時に、いきなり俺が現れて盗賊を殺したのだ。自分を助けに来たと思うのが普通の論理だ。

 何もおかしいことはない。


 俺はひとつため息を吐いた。


 結局のところ、俺は泣いている彼女を殺すことが出来なかった。

 見つけた剣も彼女が縛られてある縄を切る為に使った。


「ありがとうございます。“救世主”様!」


 彼女は縄から解放されると、すぐに地面に手をついて深く頭を下げる。それから涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらお礼を言った。

 別にそんなお礼は求めていないんだけど、まあ、いいか。

 それよりも彼女の言葉の中に聞きなれないものが含まれている事に驚いた。


「お礼はいいんだが、救世主とはどういう事だ?」


 俺の質問に彼女はきょとんとした顔をしていた。


「あなた様は危険を顧みず、同じ不死である私を助けてくれました。きっと私のような不死人を世間から掬ってくれる救世主なのでしょ?」


 全く理解ができない。


「不死? 君がか?」


「はい! そうです! 救世主様と同じ不死でございます! もしも信じられないなら証拠をお見せします!」


「別にそんな事は……」


 俺が止める暇もないままに彼女は近くに落ちていた剣を見つけると、逆手に持って笑顔で自分の胸に突き刺した。彼女の服は赤く染まって、口から血も吐き出す。それから彼女は自力で剣を抜いて、地面へと倒れた。


 何とも痛々しい光景だった。


 だが、俺が驚いたのはその直後である。

 彼女は胸に開いた穴が徐々に閉じていく。まるで過去へと戻っていくように。


 確かに俺と同じように彼女は不死のようだ。

 よくよく話を聞いてみると、どうやら彼女はいつの間にか不死になっていたらしく、高いところから落ちて頭が割れた時にその傷がすぐに治るのを見つけられて不死だと知られたらしい。


 不死だとばれた彼女はすぐに教会へと通報された。

 勿論彼らの不死殺しによって殺されるという道もあったが、自ら通報した両親の慈悲により東にある不死の監獄に幽閉されることになったのだ。

 その時は絶望の真っただ中だと彼女は涙ながらに語っていた。


 そして教会の者達によって輸送される途中で、盗賊に襲われたようだ。

 盗賊たちも殺すことができず、かといって手元に置いておくのも危ない彼女の扱いには困っていたらしく、手足を縛られたまま放置されたようだ。


「でも、救世主様が助けてくれました!」


 彼女はうっとりとした表情で言った。

 自分を絶望から救ってくれたと。

 あなたが希望の光だと。

 だけど、別に助けたつもりはないんだけど。

 

「不死者とばれたからには、この地で暮らすわけにも行くわけにもいかないだろう。どこか遠いところに行って、生者としてひっそりと生きた方がいい。勿論、苦労だってあるだろうが、君にはそういう穏やかな生活がよく似合っている」


 俺俺は優しく諭すように彼女へとと手を差し伸べたが、返ってきた返事は違った。


「嫌です――」


「どうして――」


「それならば、救世主様はどうしてここにおられるのでしょうか。きっと私たちを救うためでしょう?」


「違う。俺は不死者から生者に戻る為に――」


「なんと素晴らしい考えですか!?」


 彼女は凄く嬉しそうに俺の両手を握った。


「世界から不浄の存在と言われている不死という病を、治そうとしているなんて!? 是非とも私にもそのお手伝いをさせてください!」


 俺は何度か断ったのだが、彼女の強い押しには逆らえなかった。

 それに彼女には俺が不死と言う秘密も握られている。下手に外に出して彼女が捕まり、この辺りにはもう一人不死がいると思われるよりも近くに置いておいたほうがいいと思ったのだ。


 それに彼女はどうやらいい所の生まれのようだ。

 きっと高貴なお方なのだろう。油で髪が固まった短髪の庶民とは違い、なんとも美しい金髪を持っている。また着ている服も肌触りのいいシルクだ。庶民には着られるものでもない。


 俺は彼女が協力することを渋々頷くと、彼女から名前を付けるように言われた。

 勿論、生者だった頃の名前を使えばいいと言ったのだが、不死となった時に過去は捨てた。それに同じ名前を使ってばれたら困るという彼女の意見に、俺は何も言う事ができなくなった。

 俺も似たような考えで名前を変えたのだから。


「では、君の名前はアリエスだ」


 空に浮かぶ星座から名前をつけた。

 ぱっと見えたのが牡羊座アリエスだったのだ。


「分かりました! 私にお名前を……! とても嬉しいです! 感謝します! 救世主様のお名前は何というのでしょうか?」


「俺は過去を捨てた男だ……」


 別にルージュという名前でもいいのだけど、彼女が捕まった拍子に俺の新しい名前が知られても困るので適当にごまかすことにした。


「ならば、新しいお名前は?」


「別に名前などいらないが、……そうだな。俺は不死だ。死の象徴としてデスとでも名乗ろう」


 特に深い意味はない。

 我ながら安易なネーミングセンスだと思う。

 前に考えた偽名は結構捻って生み出したというのに。


「なるほど。デス様。分かりました。早速ですが、デス様、私たちの目的は不死と言う病を治すことでございますが、デス様に他の協力者はいるのでしょうか?」


「そんなものはいない。俺は一人で行動している」


 だって不死者となってからまだ日が浅いし。


「でしたら、一人で行動するには限界があると思います。まずは私たちの協力者を探すのが先決だと。この世には不死者になってしまったけど、その事実を隠して生きている者も沢山います! 彼らも元に戻りたいと思いますので、きっと協力してくれる筈です!」


「そうだな。そうしよう」


 別に俺一人でもよかったんだけど、確かに彼女の言う通り一人で行う行動にはっ限界があると思った。

 俺には無限の時間があるとはいえ、両親や妹はそうではない。彼らに会う為にも早く生者に戻る必要があるので、彼女の意見には頷いた。


「ならば私たちにも組織が必要です。不死を救うという大義名分を掲げた組織が。デス様がいかに素晴らしいお人だとしても、組織があったほうが人は付いてきます!!」


「それならば……『不死の騎士団』とでも名乗ろうか。俺達は不死を救う騎士となるのだ。そこには正義がある――」


「なんと素晴らしい! この身が尽きるまで私はつかえさせていただきます!」


 アリエスはその場に片膝をついて俺を敬っていた。

 そこまでしてもらわなくてもいいし、別にもっとフレンドリーな感じでいいんだけど、細かいことは気にしないことにした。

 不死を直す手がかりを探してくれる仲間はありがたいから。


「それでは、まずは拠点を作ることが先決ですね! 私たちの敵は多く、数も多いです。この灯火が、不死者にとっての希望の光が、簡単にかき消されないためにも!」


 彼女はずっと涙を流して感動していた。

 どうやら俺の想像以上に彼女は涙脆いのだろう。


「そうだな――」


 そして暫くの小目標が決まった俺たちは、ここから少しだけ離れた森の中にログハウスを作ることになった。流石に人が死んでいるところに家を建てようと言う気にはならない。

 彼女と二人でログハウスを建てるのは大変だが、お互いに不死だ。休みなく働くことが出来る。

 それからギルドの約束の日までに出来たらいいな、と考えながら朝になっても俺は斧を振るって木を倒していた。

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