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第十七話 サミュエル

「お前は不死か――」


 俺は体が再生した女に向かって言った。


「貴様も不死か――」


 女も俺に向かって吐き捨てる。

 彼女は現在、俺と対面するように目の前のソファーに座っていた。少女はいつの間にか俺の隣に移動して俺の服を掴んだまま怯えている。


 俺と女は既に敵対していなかった。

 不死者同士の争いに意味などない。

 どちらも死なないので決着がつかず、時間の無駄だからだ。


「だけど、不死でも俺とは性質が違うようだな」


 俺は蝙蝠に変身など出来ない。


「知らないのか? 私は貴様より上位の不死だ。私はヴァンパイア。貴様よりも数多くの事ができる不死であり、夜を統べる者だ」


「ヴァンパイア? なんだよ、それ?」


 聞いたことがなかった。

 確かに不死にも種類があることを知っている。

 例えば骨だけとなって肉がないスケルトンや、肉が殆ど腐った個体――あれはゾンビとでも呼べばいいのだろうか。

全ての不死の成れの果てと言われている理性のなくなった不死も存在する。


 だけど、ヴァンパイアという不死の種類は聞いたことがなかった。


「知らないならいい。所詮、貴様は只の不死。どうせ人の身からいつの間にか不死になっていたんだろう?」


「……似たようなものだよ」


 俺は死んでから不死となった。

 これまで出会った不死者達だと、生者の時に気付かない間に不死者になっていたという話ばかりなので、死んでから蘇った不死者は珍しいかもしれない。


「そうか。だが、同情はしない。仲間意識も持っていない。私とお前は違う存在で、違う不死者なのだから。それで、お前は何をしにここへ来た? 私とじゃれ合いにでも来たのか?」


「はあ、そんなわけがねえだろうが。たまたまだよ。教会の連中から逃げていたらたまたまこの屋敷に辿り着いたんだ。騎士たちが散るまで少しばかり休憩を取ろうと思ってここで休んでいたんだ。廃墟だったから」


「そうか。不死狩り共か」


「厄介だろう?」


 同じ不死者なら気持ちを共有してくれると思ったが、彼女の反応は違った。


「そんな厄介なものを私のところに持ち込むな。ああ、そう言えば、最近不死の話題で町が騒がしかったな。お前たちの仕業か?」


「知らねえよ……」


 俺はこの町で不死として活動をしたのは初めてなのだ。


「だろうな。お前のように矮小な不死に何かが出来るとも思えん。きっと別の不死の仕業だろう――」


「不死ってこの町にはそんなに多くの不死がいるのかよ?」


 この町にいる俺の知っている不死と言えば、不死の騎士団に入っている数人の不死だけだ。他の不死など見た事がない。話も聞いたことがなかった。


「いるさ。私のように闇に紛れている不死が。不死はどこにでもいるぞ――」


「……確かにそうかもな。不死になる条件なんて人によって違うし」


 でもいるとすれば俺たちのように理性を持った不死だろう。

 誰彼構わず襲う不死など、すぐに教会の連中に見つかって殺されるのだ。


「ああ、そう言えば、お前に一つ聞きたいことがあった――」


 彼女はこちらへと脅すように言った。


「何だよ?」


「お前の様子だと、不死の知り合いが何人かいるのだろう?」


「ああ」


「なら、サミュエルという不死は仲間にいるか? 特徴は私と同じ白髪赤目で、顔色の悪い男だ。犬歯は人の者とは違って狼のように鋭い。もちろん私と同じ不死だ」


「答える義理はない――」


 俺は強く言った。

 先ほどいきなりナイフで切られたのを根に持っているのだ。

 死ぬことはないが、喉を切り裂かれた痛みが消える事はない。あれはとても痛いんだぞ。


「……ならば、助言だけしておこう。サミュエルには手を出すな」


「不死だからか? だけど、そんな忠告は必要ねえよ。俺には不死を殺せないが、倒す方法はいくつか考えてある」


 殺せない相手と戦うのは骨が折れるが、それでも戦い方は幾つか考えてある。

 例えば縄や鉄枷などで相手を動けなくしたらいい。そうするのは骨が折れるが、不死と言っても肉体の再生にはタイムラグがある。そこを突けば上手いこと行くと思うのだ。


「ふん。無駄だ。サミュエルは倒せもしない」


「何故だ!」


「教えぬ!」


 彼女は大声で言った。


「どうして教えてくれないんだ!?」


 教えてくれてもいいじゃないか。


「貴様が先ほどサミュエルの事を教えなかったからだ!」


 この目の前にいる女は心が狭いらしい。

 酷く残念だ。

 俺はしょうがないなあ、と深いため息をつく。


「やれやれ。なら教えてやるよ。残念ながら俺はサミュエルなんて不死は知らない。そんな男に会ったこともない。これでいいんだろう。さっさとサミュエルの秘密を教えろよ」


「……なぜ貴様はそんなにも偉そうなんだ。まあ、いい。教えてやろう」


 それから俺は彼女からサミュエルの事を教えてもらう。

 どうやらサミュエルは不死であるが、彼女と同じくヴァンパイアのようだ。ヴァンパイアは様々な力を持つが、その中の一つに無数の蝙蝠こうもりに変身することが出来るという。


 だから縄などで縛ることも難しく、例え不死を殺す力を持っていたとしても、サミュエルは一匹でも蝙蝠が残っていれば復活できるそうだ。

 その力のおかげで、これまで数多くの不死殺しと戦ってきたが生き残っているらしい。


「他にもサミュエルは力を持っている。奴は真祖と呼ばれるヴァンパイアだ。奴は無数の不死を生み出すことが出来る。だから数でも勝つことが難しい」


 そんなサミュエルに生み出された哀れな不死が彼女らしい。

 ついでに彼女の名前も教えてもらった。

 彼女の名前はシエル。

 ヴァンパイアと言う不死になって以来、サミュエルの殺し方を探しているそうだ。サミュエルがこの町の近くにいるという情報を手に入れたからこそ、この町でずっと見張っているらしい。


 うん。なるほど。

 今回の件がよく分かった。


 きっと教会が追っている不死もそのサミュエルなのだろう。彼を討伐しに、教会の連中もこの町に来たのだ。隣にいる不死の少女と言う餌を手に。

 なんて迷惑な奴だ。

 好き勝手やるのはいい。

 だけど、他の不死に迷惑をかけるな、って思う。

 特に俺に。

 彼のせいで、この町に教会の連中が来たのだ。

 これから不死の取り締まりが来たら困ると言うのに。


 俺はシエルの話を聞いて、まだ見ぬサミュエルと言う男の事を酷く恨んだ。

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