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第十六話 蝙蝠の館

 俺は少女を肩に担いだまま、街中を駆け巡った。

 誰もいない屋上や出っ張った柱などを走り、建物と建物の間を飛ぶ。道が無くなれば地面に降りて、また高く飛ぶ。


全力で走る街中は気持ちがよかった。

まるで一筋の風になったようだ。

思えば生前もこんなに早く移動した経験などない。きっと今の俺の速さは馬を超えており、人類の中で最も早く走っているだろう。


 もちろんそんな俺の背中を多数の魔術、矢が狙うが、地上にいる鈍足な騎士共の攻撃など俺に当たるわけがない。

 それからも俺は走り続けた。


 もちろん最終目標はこの町から出る事だが、どうやらこの町を取り囲んでいる塀は俺の全力のジャンプでも届かなかった。

 壁を登る事も考えたが、少女を持ったままだとリスクがある。それに流石に間抜けな騎士たちでも、壁をゆっくりと昇る俺を攻撃することは簡単だろう。


 どうやらちゃんと関所を通らないと、この町からは抜け出せないようだ。

 この町にある関所は四つ。

 騎士たちの攻撃を躱しつつ、自分が走りやすいルートを意識した結果、辿り着いたのは見知らぬ場所だった。

 

「で、ここはどこ?」


 どうやら騎士たちとははぐれたらしい。

 もしかしたら彼らも無暗に攻撃しているようで、関所などの重要な拠点は守っていたのかも知れない。


 今、どこにいるのかが分からない。

 道に迷ったようだ。

 あまりにも適当に街中を走りすぎた。


 そんな俺が勘に任せて歩いた後に着いたのは人の気配が感じられない廃墟だった。

 目の前の道も、近くの道も、近くには誰もいなかった。どうやら随分と前に捨てられた地域のようだ。


 例え王都であってもこのような場所は存在する。

 これまで国や町にとって重要だった場所が、何らかの理由で使われなくなり廃棄されるのだ。

 その多くは貧民や浮浪者、また浮浪児などが住み着くのだが、どうやらこの場所は人気がないようだ。

 もしかしたら曰く付きの場所なのかもしれない。


「ここがどこだか分かる?」


 俺は手に持っていた少女を地面に下ろしてから手足につけられていた枷を壊した。

 全力で強化した手だと、鉄で作られた枷が粘土のように思えた。


「……?」


 少女は何も言わなかったが、首を大きく横に振った。

 どうやら知らないらしい。


「じゃあどうしよっかなあ?」


 関所に向かう事は簡単だ。

 どこか高い場所に昇って今の位置を確認し、高い壁を目指せばいいのだから。


 だが、関所を強引に突破しようとは思えなかった。

 不死が逃げた直後だときっと関所の守りも固いだろう。

 また不死殺しの正体もつかめていない。


「疲れてないけど、疲れた。休むか」


 鼠がちゅうーちゅーと鳴き、カラスがかーかーと鳴く場所であるが、そんなに悪い場所ではない。

 俺は少女の手を引っ張ったまま、何匹もの蝙蝠がぶら下がる廃墟の中に入ることにした。


 廃墟の中は薄暗かった。

 煉瓦で作られた建物に窓はあるが、周りを高い建物で囲まれたこの場所に太陽の光は届かない。


 廃墟の中は蜘蛛の巣が張ってある。

 どうやら使われなくなってから随分と立つようだ。

 だが、廃墟の中は当時のまま残されているようだった。俺たちは玄関を通ると、立派な髭を携えた男の大きな絵画に出会った。


 その横には男の妻らしき女の絵画と、男女様々な子供の絵画も飾られている。おそらくだけど、絵画に書かれている人たちが元々ここに住んでいた家族だろうか。


 詳しいことは全く分からなかったが、廃墟の中にまだ家具はあるようだった。

 俺はソファーに寝転がった。多少埃っぽい気もするが気にしなかった。


不死になった俺に睡眠は必要ないけれど、ずっと走っていたので心が疲れたような気がするのだ。

 少女も俺に習うように向かいのソファーに座った。


 日もだいぶ落ちて来た。

 少しだけ明るかった窓の外が、少しずつ黒へと染まっていく。

 廃墟の闇はより一層暗くなり、鼠たちが館内を歩くようになった。彼らはちゅーちゅーと鳴きながら辺りを移動する。


 俺の近くも歩いた。

 腕を枕にしながら俺が目を瞑ると、とても小さな音が近づいてくるのを感じた。

 鼠だろうか。

いや、違う。

もっとその音は大きかった。


「――何者だ?」


 俺の首にひんやりとした触感が当たる。

 きっとこれは剣だろう。

 俺の首の皮が少しだけ斬れた。


「何者だと思う?」


「質問を質問で返すな。どうしてここにいる? どうしてここへ来た?」


 俺は目を開けた。

 俺の首にナイフを突きつけているのは、片目を眼帯で隠した女だった。白銀の髪をポニーテールに纏めた女だった。暗い廃墟の中で僅かな明かりに照らされた彼女の顔は美しく、まるで月のようにも思えた。


「どうしてって、たまたまだよ。道に迷ってここに来ただけだ――」


「嘘をつくなっ!!」


 どうやら月のような彼女は短気らしい。

 俺は首の筋をナイフによって掻っ切られた。


「ひっ!」


 目の前のソファに大人しく座っている少女が悲鳴を上げる。


 俺の首にぱっくりと穴が開く。


「きぃったにゃああ」


 俺は声をうまく出せなかった。

 首の開いた穴から空気が漏れるのだ。

 どくどくと溢れる血を気にせずに俺は月のような女に飛び掛かった。女は俺にナイフを突き刺すが、所詮は肩だ。少々、痛いだけだった。俺は彼女の腕を取って全力で腕を殴って、足を蹴った。


「うぐっ!」


 すると彼女の手足が折れ曲がる。

 まるで壊れた人形のようになった彼女を俺は地面へと転がした。もちろん魔術などが唱えられないように喉を潰しておく。


「いきなり切るからこうなるんだ――」


 俺は怫然として態度で彼女を見下ろすが、目の前の彼女はそれだけでは終わらなかった。

 ――彼女の体は一瞬で無数の蝙蝠へと変わり、俺から離れた場所にまた蝙蝠たちは集まって、再び手足が折れ曲がっていない彼女となった。

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