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第十五話 宣戦布告

 俺は続々と皆が騎士たちによって試験を受けている中で、必死に考えた結果一つの答えに辿り着いた。

 このまま時を待っても俺の正体がばれるだけ。


 逃げる隙間はない。

 あったとしても四方を騎士に囲まれている。もしも強化した身体能力で逃げ切れば、ルージュ・フラムベルジュの顔が知られて不死者だったとばれるのだ。


 それは避けたい。

 だから俺はもう正体をばらす事に躊躇はなかった。


 だけど、別の正体を明かそうと思った。


 俺は“デス”になった。

 不死の騎士団の総司令であり、最高責任者になった。

 全ての不死を救う気など毛頭ないが、この場だけは虚像として教会が望む不死になってもいいかも知れない。


 人は自分が知りたい事実を知れば、それ以上の追及はしないと聞く。誰であっても自分にとって一番都合がいい真実を信じたいからだ。


というか、誰も知らない組織である不死の騎士団を宣伝し、その首謀者であるデスを公開して全てを煙に巻こうと思った。

デスの顔ならばれても問題はない。

何故ならルージュとは違う人間だからだ。


 俺は処刑台に最も近い場所にいたが、黒いコートを着たままゆっくりと後ろに下がる。

 そして人の間に隠れると、周りの人間が俺から目を反した瞬間に地面すれすれになるまで体勢を低くする。もちろん人影に隠れていた俺の顔など、この時点では誰も覚えていないだろう。


 それから民衆の間を縫うように凄いスピードで駆け巡り、アリエスが作ってくれた仮面をかぶった。

 アリエスはいい子なのだ。

 正体がばれれば活動しにくくなります、と言って、俺に正体を隠すための世界で一つの仮面を作ってくれたのだ。

 そしにセンスもよく、とてもいかす仮面だと思っている。


 俺はその仮面をつけてコートを翻すと、一瞬で処刑台に昇って不死人である少女を手に持って、マンションの屋上に飛び上がる。


 そして俺は言う。

 デスの仮面の記憶を民衆や騎士たちに植え付け、先ほど民衆に紛れていたルージュの顔を観客から消すために。


「我が名はデス。不死を救う者だ――」


 このまま逃げ切ることもできるのに、あえて立ち止まって仮面の姿を見せる。

 皆にこの仮面の記憶が植え付けるように。


「貴様が憎き不死のレジスタンスかっ!」


 パンが処刑台の上から大きな声で言った。


「レジスタンスなど我は知らない!!」


 本当に知らない。

 俺達は活動した事などまだ一回もない。


「じゃあ、貴様が不死を救う者というのは本当か!?」


「ああ、そうだ。哀れな不死者は我が救う!!」


「それが大罪と知っての事か!!」


 不死者は人から魔物へ落ちた咎人と教会からは認定されている。

 人であることを拒み、人以下の畜生に成り下がったと。

 その証拠が胸にある魔石であり、いずれ理性を失って人を襲う事だと。

 

 だからそんな不死者を救う事はおろか、手を貸すこと自体が悪であり許されざる行為と教義の中にあり、教会は不死者に手を貸した者も罪人扱いとしている。


「大罪か?」


 俺はパンの言葉を見下すように鼻で笑った。


「ああ、そうだ。貴様のやっていることは大罪だ! 教会だけではなく、この国、また世界の敵となるぞ! その事を知っての狼藉か?」


 そう言うと同時にパンはあくどい笑みで笑った。

 別のマンションにいる騎士が大きな弓でびゅっと矢を放ったのだ。どうやらこの矢を放つために、わざわざパンは話を長引かせて俺をここに留まらせたのだろう。


 俺は矢が放たれた瞬間の音に気付き、本気を出せば避ける事も出来たがそれをしなかった。


 矢がどこに向かうか分かっている。

 どうやら射手は腕がいいらしい。

 その見事な矢は、確実に俺のこめかみを打ち抜いた。


「やったか?」


 嬉しそうにパンは言った。


 俺のこめかみからこめかみへ矢が突き刺さっている。

 普通の人間ならこれで死んでいるだろう。

 風のエンチャントがなされた素晴らしい矢だった。


 ――だが、俺は死なない。


「私は世界が敵なんて怖くはない! そもそも、私が、私自体が世界の敵だ!!」


 俺は勢いよく矢を抜いた。

 二つのこめかみから血が赤いツインテールのように出て、すぐに怪我が治った。


「おしゃれだろう?」


 手に持っている少女が俺を驚愕した目で見ていたので、きっとこのいかす仮面に目が行っているのだと思って俺はニヒルに言った。


「あ、あ、あ、あいつを殺せ~~~~っ!!」


 パンが顔を真っ赤にしながら大声で叫んだ。

 それと同時に数多くの騎士が俺に矢を向けたり、剣を向けたり、また魔術を向けたりしていた。

 うわ、やばい。


「不死者がでたぞ!!」


「に、逃げろぉおおお!」


 広場にいる民衆たちは街中に不死者が現れた事によって、大声を出しながら逃げて行った。


「ああ、そう言えば――」


 俺はパニックに陥っている民衆の中に不死の騎士団メンバーを見つけた。

彼女たちもこの場に呼んでいたっけ。

 手伝ってもらおうか。


「さあ、わが同胞たちよ! 我はこの少女を救った。目的は果たした! 共に行こう!!」


 これで彼女たちもこの少女の救出の為に力を貸してくれるはずだ。

 でも彼女たちはまだ無力だ。

 死なないけど叩けないことは森に見に行った時によく見ている。多少の肉体強化は使えるようになったけど、まだまだ騎士たちと戦えるような実力ではない。


 だから俺は彼女たちに向けて小さな声で呟いた。


「『戦士よ、獣のように戦え(スヴァートル)』」


 これで彼女たちの力も上がった筈だ。

 十分に騎士たちと戦えるとは思わないけど、逃げ切るのには十分な力を持っている筈だ。

 それから俺は自分の体にも同じ付与術をかける。


 遠慮はいらない。

 俺はマンションの屋上を強く蹴った。

 少女を肩に担ぎ上げたまま高く飛ぶ。


「おっかねえーー」


 俺が通り過ぎた後の床が少しへこんだマンションに、数多くの矢と魔術などが当たった。

 それから次のマンションへ着地する。

 その際、着地を間違えて足があらぬ方向に戻ったけど、そのまま俺は走った。曲がった足で走るうちに元に戻るからだ。

 それからまた高く飛んで、次のマンションへ飛び移る。


「逃げたぞ! 殺せ! 殺せ! 絶対に殺せっ!!」


 遠くでパンの声が聞こえるが、小さすぎてよく分からなかった。


「高く飛ぶって気持ちいいだろう?」


 俺は少女に笑いかけながら、まるで大空を飛ぶ鳥にもなった気分で、マンションとマンションの間を跨ぐように飛びながら逃げる。

 爽快だった。

 ついでに憎き協会の人たちもこけにしたかと思うと、この大空のように心が晴れ晴れとしていた。

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